「家具が全部 芦田○菜の男」-100%嘘の知人の話
私にはちょっと変わった知人がいます。
名前はSという事にしておきます。
これからする話は、ちょっと変わった知人Sのお話です。
私とSは会社の同期でした。同じく新卒入社で、入社前の研修で同じ班になったことをきっかけに仲良くなりました。
目つきは少し悪いけど、よく笑う人でした。子供みたいな顔で笑うので、目つきの悪さを気にする人はいませんでした。
仕事熱心で、人とのコミュニケーションも上手でした。
彼は長年付き合っている女性がいながらも、女性のいる店に行くのが好きでした。キャバクラ、各種風俗、ガールズバー。そういうお店に行くのが好きでした。
私が初めてそういうお店に行ったのも、彼に誘われたからです。週末になると、私たちはよく2人で夜の歓楽街に遊びにきました。
何度目かの夜遊びをしたある日、時間を見誤った私は終電を逃してしまいました。
ホテルに泊まるのももったいないし、満喫で寝るのは嫌だなあとボヤいていると、彼が「じゃあうちにくる?」と提案してきました。
彼がそこから歩いて帰れる場所に住んでいるのは知っていましたが、彼がそう切り出したのはその時が初めてでした。
「俺の部屋、ちょっとびっくりするかもしれないけど、引かないでね。あと、会社のみんなには俺の部屋がどうだったかって話はしないでね」
彼が言いました。
私は「部屋がめちゃめちゃ汚いとかかな?」と思いましたが、それにしても彼の様子は少し変でした。
ですが、私は寝れる場所があればなんでも良かったし、何があっても彼との信頼関係を崩すつもりなどなかったので、もちろん、と返事をして、彼の部屋に行きました。
歓楽街から歩くこと20分ほど。
せっかくだし少し飲んでから寝るか、とコンビニで缶チューハイも購入しました。
そうして、私たちは彼の住むマンションに到着しました。特に変わったところのない、普通の一人暮らしの人向けのマンションでした。
彼は鍵を開けながら
「本当に引かないでね」
私に念押しをしました。
そんな大袈裟な。と私は思いました。
ですが、部屋の中に入った瞬間、彼がなぜそこまで念押しをするのか理解しました。
ワンルームの壁一面に芦田○菜の写真が貼ってあったからです。
正直、少し引いてしまいましたが、ここであからさまに引いたそぶりをしてしまうと彼は悲しむだろうし、私たちの信頼関係も揺らぐ事になります。
私は平静を装いつつ「うわーすごい、芦田○菜ちゃん好きなんだー!」とニコニコしながら部屋に入りました。
まじまじと部屋を見渡すと、芦田○菜ちゃんの写真は壁一面だけではなく、床や天井にもびっしり貼られていました。すごい迫力でした。
ですが、壁一面の写真よりもインパクトのあるものが家具類でした。遠くから見た時にはわかりませんでしたが、よく見ると机もベッドも棚もカーペットも、家具類は全て芦田○菜でできていました。
流石に異様な光景だなと思い、私はSに「これすごいね、どうしたの?」と聞きました。
どうやら、芦田○菜の等身大のフィギュアを大量に発注し、それをプレスして結着、知り合いの家具屋さんに成形してもらって作った品物だそうで、これを全て作り上げるのに、年収の数倍もの借金をしたそうです。
「夢だったんだよね。芦田○菜ちゃんに囲まれて過ごすのが」
コンビニの袋をガサゴソと漁りながら彼が言いました。
ゴトン、と、芦田○菜で出来た机に缶チューハイが2本置かれました。
私はお酒を飲みながら詳しく話を聞こうと思いました。
彼の話をまとめると、以下のような感じでした。
・別に性的な目で見ているわけではない
・芦田○菜ちゃんのことを考えている瞬間が1番落ち着く
・写真や模型で十分満足している。リアルでつきまとったりするつもりは全くない
そういった具合でした。私はただうんうんと相槌を打つことしかできませんでした。ただ、その愛がとても純粋なものだということはわかりました。
それからしばらく彼の話を聞いていました。
最初はニコニコとお話をしていたのですが、少しずつ彼の様子がおかしくなりはじめました。
「私はもう何も為さないまま大人になってしまった。けど、芦田○菜ちゃんはこの歳ですでに大きな結果を出している。そしてこれからもその頭脳と人柄で結果を出し続けるだろう。
そして過去も未来も空っぽの私。私と芦田○菜ちゃんはそういう意味では対になる存在とも言える。だからいつでもそばにおいておきたい。そうする事で、この部屋にいる時だけは私は完全な存在になるのだ。借金も後悔していない。だって、私は完全な存在になれたのだから」
彼の話を要約するとこういう感じでした。
私はもうすっかり訳が分からなくなってしまいました。これ以上はいけない、と思い、私は雰囲気を変えようと思いました。
…そうだ、YouTubeでくだらない動画でも見よう。
なるべく中身がなくて、ゲラゲラ笑えるやつを。
それがいい。そうすればこの変な空気も解消される。
そう思った私はSにパソコンで動画でも見よう、と提案しました。彼はまだ話をしたいようでしたが、変な空気になっていた事は自覚していたようで、提案を受け入れてくれました。
彼は芦田○菜ちゃんのステッカーだらけのノートパソコンを開き、ブラウザを起動させました。
すると前回開いていたページが復元され、彼が最後に見ていたページが映し出されました。
マル・マル・モリ・モリ!♪
パソコンから大音量で音楽が流れ出しました。
私は「やっぱり普段からそういうの見てるんだ」と冷静に考えていました。すると突然、彼がスクっと立ち上がり、音楽に合わせて踊り始めました。
マル!マル!モリ!モリ!♪
みんなたべるよ!♪
彼のダンスは完璧でした。
あまりの完璧なダンスに、私は見惚れてしまいました。
ですが、完璧なダンスを踊る彼の顔は苦痛に満ちており、涙をボロボロ流していました。
私は何も言えませんでした。ただただ、苦悶の表情で涙を流す彼の完璧なダンスを眺めていました。
…私と彼はその夜以降も仲良く遊びました。
月に一回ほど、週末は夜の街でゲラゲラ笑いながらお酒を飲みました。
数年ほど経って、私は勤めていた会社を退職しました。彼とも疎遠になり、今では連絡も全く取っていません。
彼がまだその会社で働いているのかはわかりませんが、おそらくまだ芦田○菜ちゃんに囲まれる生活を続けているのだと思います。そして、その生活を隠し続けているのだと思います。
〜完〜
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?