「人との繋がりを大切に」音楽の仕事と向き合う¦フルート奏者・林広真インタビュー
「自分を愛せるキャリアを歩む」キャリアインタビュー企画。第2弾はフリーランスのフルート奏者として活躍する林広真(はやしひろまさ)さんにインタビューしました。
フリーランスの働き方は「人との繋がり」が大切なポイントだと言います。林さんのこれまでとこれから、キャリアの話をたっぷりと語っていただきました。
「なんとなく」続けてきた幼少期
ーー6歳のときにフルートと出会ったと聞きました。20年以上1つのことに打ち込み、仕事に繋がるまで続けられたのはなぜでしょうか?
林:僕も色々なことに興味を持って、寄り道をたくさんしてきたんです。少年野球をやっていましたし、中学校は水泳部でした。
大学を卒業して本格的にフルートを仕事にしていこうって考えるまで、なんとなく続けてたって感じなんですよ。
ただ、根底では音楽が好きだった。あとは、人前に出るのが好きとか、演奏してるときの自分が好きみたいな気持ちがずっとありました。
ーー私は小さい頃、ピアノの練習がつらくて仕方なかった記憶があるのですが、林さんはフルートの練習は楽しいと感じていたのでしょうか?
林:いやもう全然、全然です。
通っていた高校が芸術大学の付属高校で、全国から入りたい子が集まるようなところだったんですね。そんな中、なぜか受かっちゃった。
高校生のうちから将来を決めてやっている人たちの中で、僕はまだある種周りに流されて入ったようなところもあって。
練習とかしたくなくね?みたいな感じだったんです。周りの子たちが1日7~8時間とか(練習しているような)、そういう世界の中で僕は30分ぐらいでした。レッスンの度に怒られる、さぼり魔でしたね。
迷いながら選んだスタジオミュージシャンの道
ーー仕事としてフルートを演奏し始めたのは大学を卒業してからなのでしょうか?
林:大学3年生ぐらいから時々(仕事を)いただいていました。でも、当時は進む道に迷いがあって、最初はオーケストラに入りたいと思っていたんですよ。やっぱり固定給が欲しいと思っていて、安定を求めてやっていたんです。
ただ、オーケストラは固定給は貰えるものの、正直給料は安い。オーケストラの音楽は、J-POPの曲の全ての基礎なので、素敵なものです。でも、そこにお金が回ってるかどうかはまた別の話なんですよね。安い給料で我慢して音楽をやるなら、僕はお金欲しいなって。
スタジオの仕事は、オーケストラの人たちから見ると邪道な仕事に見えるらしいんです。僕も最初はスタジオは邪道だという価値観で生きてたんですけど、スタジオをやってみたら意外と楽しいじゃんっていうことが分かって、学生の頃から徐々に色んな仕事を経験しました。
仕事で最も大切なことは「人との繋がり」
ーー音楽家になろうと頑張ってもなかなか上手くいかない人がたくさんいる中で、林さんはご自身がどうしてフルートを仕事にできていると思いますか?
林:僕もたまに考えるんです。でもわからないですね。ただ、なんか自分の音楽を愛してくださる人がいたからですね。
自分を育ててくれたり「育ってくれ」って思ってくれたり、そういう人たちに恵まれてここまでこれたなって思います。もちろん、最低限の音楽の実力みたいなものは押さえていると思うんですけど。
あとは何だろう、礼儀正しさとか、人との繋がりを大切にするとか。僕、挨拶だけは必ずしっかりするんです。毎回仕事が終わったときにお礼のメールもする。
そこだけは自信ある、ぐらいですね。
ーー音楽業界では、繋がりでお仕事をいただくことが多いのでしょうか?
林:それがほとんどだと思います。
例えば、「周りに若くていい感じのフルートの人いない?」ってフルート担当じゃない人に仕事の話がいく。そこで「林っていうフルートのやつがいて」みたいな感じで紹介をしてもらえる。
コミュニケーションが取れたり、感じが良かったり、問題を起こさないとか、そういう基本的なことが大切だと感じています。
やっぱりぶっ飛んでる人が多い世界だから、そういうのも意外と大事なポイントなのかな。
支えとなった「命がけ」の本番
ーー印象的なお仕事はありますか?
林:いっぱいあります。でも、僕たちは歌詞がない音楽をやっているので、感動を言葉で表すのはやっぱり難しいんです。
いまだに自分がくじけそうになったときに支えになっている経験が1個あって。
オーケストラの本番、指揮者がもう70歳ぐらいの巨匠で、「癌を患って自分ちょっと死ぬかもしれないんだ」と。
「初めて死というものを意識して、毎日生きてることや自分が好きな指揮の仕事ができていることが、改めて感謝できるようになりました」みたいなことを言ってたんですよ。
「別に今すぐ死ぬわけじゃないけど、今回が最後だと思って、命をかけて振りますんで皆さんついてきてください」と。
たまたまその時の曲が『マーラーの交響曲第9番』という、死がテーマになっている曲だったんです。彼がステージ上で危機迫る指揮をしていて……。
音楽で命を表現できるんだと思った。つらくなったときあの経験を思い出すとまだ頑張らなきゃなって気持ちになります。
緊張感を持ったままベストを尽くす
ーーステージでは無心になることを意識しているとおっしゃっていましたね。本番前の心構えやルーティーンは何かありますか?
林:僕めっちゃ緊張するんですよね。
「よく緊張したらどうすればいいですか?」と聞かれることってあるじゃないですか。緊張したら普段のパフォーマンスが出せないって話、よくあると思うんですけど。
僕は逆だと思っていて。緊張したままの方がいいと思いません?(筆者に)
ーー思います。
林:だからそのまま本番を迎えて、その時のベストを尽くすって感じですね。
昔、僕の師匠が「緊張は神様からもらった時間だと思って、存分に味わって。歳を取るといろんな経験が増えて、緊張しなくなるから、そうなると君みたいな時代が羨ましかったりするんだよ。」と言ってくれました。
その言葉も自分の中に残っているんです。
「誰かの好き」につながる仕事がしたい
ーーどんな音楽家でありたいですか?
林:自分の音、自分の音楽がありつつ、周りから求められる演奏家でありたいなと思います。
例えば、映画とかアニメとか、「誰かの好き」につながるお手伝いができるような演奏家でありたいなと思いますね。
20代は、お金にはならないけど良い経験に回そうと思っていたんです。それで損したこともあったんですけどね。
今年30歳になるんですけど……30代は結構もうお金に振り切って稼ぎまくろうかなと思っています。
今日やれるだけのことをやれたらいい
ーー今年30歳になられるということで、なにか20代でやっておいた方がいいことはありますか?私自身フリーでやっていけるか不安を感じているんです。
林:僕も正直めっちゃ不安でした。
でも、今日できるだけのことでいいと思うんです。本当はやりたいこと、できそうなことがまだある状態だけど、今日やるだけのことをやれたらいい。
僕も20代前半は、マジで稼げなかったし。
不安だったけど今思うのは、不安を抱えてハッピーじゃない状態で毎日暮らすのって人生もったいない。
自分ならできる、絶対大丈夫っていう気持ちに、不安になる度に持っていくと、知らないうちに、何とかなっていますよ。
さっきからお話聞いてる感じ、ちゃんとしてるから絶対大丈夫だと思います。
ーー頑張ります。
林:頑張らなくても大丈夫です。超素敵だと思います。
人との繋がりを大切にしているという林さん。ご本人はどうして自分がプロになれたか分からないとおっしゃっていましたが、音楽への向き合い方やこれまで関わった周囲の人への愛が伝わる言葉の数々をいただきました。
お知らせ
3月には自身で企画の立ち上げから行うアコースティックライブを開催予定。
これまでフルートで演奏されてこなかったような曲にもチャレンジします。
(取材 / 編集 こつ)
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