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コッツウォルズの4週間

コッツウォルズの4週間 (8-1)
一.準備
 今からちょうど十年前、五十五歳の私はイギリスでのホームステイを計画した。世界のどこかに住んだことのある街を作りたい。旅行の好きな私は日頃からそう思っていた。私の若い頃は、海外旅行はハネムーンで行くくらいで留学などは夢のまた夢だった。息子はちょっと行ってくると、大学一年の春休み四週間ロンドンでホームステイして語学学校に通った。私はと言えば、日頃から夫に一生に一度でよいから外国でホームステイしてみたいと話していた。子供たちが巣立ち今の家に暮れに引っ越しし、年明け落ち着いたところでようやく計画実行となった。まずは留学をサポートする会社に電話だ。その日のことは今も覚えている。多少緊張した面持ちで電話を掛けた。それまでにその会社の本を購入し場所や学校選びをした。ホームステイは食事の回数や一人部屋か二人部屋か、シャワー付きかバスルーム付きか希望できる。息子のホームステイ先は、シャワーなし、タライにお湯を汲んで、そのお湯も夜は出なくなって苦労したそうだ。女性なので髪を洗うのも一苦労だし、ここは一つとバスルーム付きを奮発した。
仕事は夫と相談し長くは休みはとれないし職場に迷惑をかけるので辞めて、帰国後再度探すことにした。場所はあこがれていたイギリスコッツウォルズ地方。幸い世界各地に語学学校を展開している会社の一校があり社会人入学を受け入れていた。英会話はその前から十年ほど学校に通っていた。英語の学校に入学するのに必要なTOEICも前年に受験して自分の成績を入手。
 どんな四週間になるのかワクワクする。不安はあるが予想できない日々、日常生活を離れた楽しい日々を想像する。費用は毎月積み立て準備した。夢の実現の為の貯金は楽しい。また職場のボスの配慮で1ケ月後帰国したら、同じ職場で働けることにもなった。
学校が決まり、ホームステイ先はこんな所と連絡が来る。ホストマザーの趣味は料理ガーデニング水泳音楽と幅広い。続いてホストマザーからもメールが届き、到着の日の事を打ち合わせる。いよいよだ。
二.渡英
五月十一日鹿児島空港を出発し、羽田空港を経由で成田空港へ移動。成田空港周辺のホテルで前泊する。十二日ホテルのシャトルバスで成田空港へ向かう。一人での海外へは二度目だ。三人掛けの席の通路側。隣は外国人女性。窓際は日本人男性、英語が堪能で外国人女性と話している。私は話せるかどうか不安に思いながら、到着後のことやホームステイ先、学校のことなど思いめぐらす。機内食が配られて食事の時間となる。何かの拍子で隣の外国人女性と話し始めた。彼女の名前はアン、ロシア人で地震学者、イギリスの大学で働いている三十代、北海道で開かれた国際地震学会に参加の帰りらしい。自宅には学齢前の小さな男の子が二人いるが、ドイツ人のご主人が面倒を見ているらしい。いい旦那さんねと言うと、彼の子供でもあるから当たり前よと。ふむふむ男女平等を実践できてるご夫婦だな。この彼女とは数年後に鹿児島東京で再会することになるから不思議なご縁だ。ロシア語の挨拶などを教わり、話も弾んでいよいよヒースロー空港に到着となる。私は留学先の学校手配のタクシードライバーに到着後一時間以内に会えないと、延滞金が発生するので早く見つけなきゃと話す。
 入国手続きをするには、ものすごい数の人また人いったいどのくらいの時間がかかるのだろう。アンはイギリスで働いているので早く入国できたようだ。長い時間を経てようやく入国。
 さていよいよ私の名前と学校名の書かれたパネルを掲げたタクシードライバーを探さねばと思ったときに、アンが再度登場。何故彼女がここに?彼女は私のタクシードライバーを見つけて迎えに来てくれたのだった。彼女は一週間家を空け早く帰宅して子供たちに会うべきなのに、私のために貴重な時間を使って探してくれたのだった。旅の1日目に何という親切。旅先では人の親切が身に染みるが、隣り合わせた席に座っただけなのに、何ともありがたい。
 タクシーに乗り込むと、一路ホームステイ先へ。ヒースローからホームステイ先があるチェルトナムへは車で二時間ほど。これで今夜はホームステイ先に無事到着できるととても安心した。ドライバーに話しかけるがあまり返事はない。私の英語はあまり通じていないのかもと少々不安になる。飛行機は16:40着で夕暮れ時を車で走る。チェルトナムは日本人の好きなイギリスの昔ながらの風景が残る美しい田園地帯コッツウォルズの中心都市だ。薄暗くなった中を車は小高い稜線の上を走っていることに気づいた。なんと下のほうに明かりの灯り始めた街が見える。思いもかけなかった美しい風景に息を吞む。
 無事にホームステイ先に到着。暗くて外観はわからない。扉が開いて明かりが

部屋から見る風景

こぼれる。来客がありその方々が帰るところのようだ。どの人がホストマザーかわからない。そのうち一人が進み出て私をハグする。この人がホストマザーのジリー。キッチンリビングは2階にあり、テーブルに着き用意された夕食をとる。私の部屋は三階だ。   

ステイ先のバスルーム
ホームステイ先の部屋

二人部屋を一人で使う、大きなベッドに、真っ白なシーツ、クロスに掛けられた真っ赤なベッドスローの素敵な部屋。クローゼットも大きくて使いやすい。これから四週間過ごすかと思うとわくわくする。この日のことはここで記憶が途切れている。朝起きてからかれこれ二十時間以上が経っていて、おなかが満たされ、ほっとしたら急に睡魔に襲われたようだ。
(この文章は2013.5~6月のCotswalds滞在記です。毎月1回26日投稿します)

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