見出し画像

ギターピックアップのリワインドをしてみてわかったこと。

先日うちのお店のオリジナルモデルに搭載しているピックアップを製作してもらっているピックアップ工房の方にピックアップを巻くワインダーを持ってきてもらい、ピックアップのリワインドをさせてもらった。

なかなか大変な作業で、髪の毛の数分の一という細さのワイヤーをボビンに巻いていく。一つのコイルを巻くのに6000〜8000回、多い時は12000以上巻くとかで、なかなか根気のいる作業であった。

ワインドのスピードを速くすることもできるのだが、あまり速くすると力加減に気をつけないと電線が切れてしまうし、均等に巻けなくなってしまう。ゆっくり巻いていても、力加減を誤るとボビンにきっちりと巻けなくなってしまうので、程よい力加減を習得するには経験がものを言う世界だ。

うちのピックアップは、巻き機こそ電動であるが、巻き機にワイヤーを送るのは手で行っている。そうすることによってただ単純に均等に巻くのではなくコイルのどの辺りから、どのように巻いていくかを加減できるので、狙った音色を出せるようになるのだ。

もちろん、ピックアップの音色はコイルだけではない。ポールピースの素材マグネット、ボビンの素材、絶縁(ポッティング・コーティング)のしかたその他リード線の選択や半田付けのしかたなどさまざまなファクターがある。

それを、経験とトライアル&エラーを重ね狙った音に近づけていく作業は思ったよりも大変な作業である。相手は音という感覚的なものなので決して能書き通りにはいかない。拘ればこだわるほど手間と時間がかかる作業である。

それに、ピックアップは搭載するボディーやネック、一つ一つのパーツとの兼ね合いでそのパフォーマンスが少しづつ変化する。

先日、オリジナルピックアップを作ってもらい、テスト用のギターに載せてみた。そのテスト用のギターでは、どうもトレブルが物足りない気がしていたのだが、本番のギターに載せてみるとトレブルが綺麗に抜けるようなサウンドに生まれ変わった。載せるギターによりピックアップの相性があると強く感じた瞬間であった。

ギター製作は、狙った音に近づけることだけが目標ではない。偶然でしか発見できないサウンドも存在する。そのサウンドに納得がいかなければ作り直すしかない。

その点、フェンダーやギブソンなどの老舗メーカーはどの個体を弾いても大抵はフェンダーらしい・ギブソンらしいサウンドが出る。そこがすごいことなのだ。ボディー材だって、指板材だって、パーツだってそれぞれに違うのだが、そこには確かにギブソンらしさ・フェンダーらしさが存在する(一部そうでないギターもあるけれど)。

それは、偶然そうなっているわけではないだろう。確実に経験、製造過程の管理、技術、開発思想、偶然が重なり、それが狙った音に向かっているのだろう。

ギターを一本作ることは頑張れば誰にでもできなくはないのだが、上記のことは誰にでもできることではない。特に商品としてある程度揃った品質にすること、狙った音色に近づけることは一朝一夕にできることではない。私自身もまだこの業界に入って十数年の経験しかない。一緒にやっている技術者は30年以上の経験があるが、まだまだ日々学ぶことがあると言っている。

経験だけが全てではないし、技術が万能ではないけれど、経験・技術・才能には勝てない世界があるのがギター作りの世界であると、ピックアップを巻かせてもらって改めて感じた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?