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Johnny Lloyd / Cheap Medication (2020) 感想

部族解散のその後

 今は昔、2010年代の前半にTribesというバンドがいました。グランジに被れたEmbrace、Manic Street Preachersを演奏するThe Band。とにかくコッテリした泣きのメロディーをコッテリした音で鳴らす大好きなバンドでした。"We Were Children"と"Dancehall"はタイムレスな名曲です。

 そのTribesのフロントマンとして涙を湛えたようなしゃがれ声を聴かせていたJohnny Lloydさん、今作は昨年に引き続いてのソロ2ndです。合間にはテレビドラマのサントラを手掛けたりデモ音源集を2枚出したりと絶好調なようで、個人的には偏愛するMystery JetsのKapil Trevediがドラムで参加しているのもポイントが高いです。

 前作であるソロ1st「Next Episode Starts In 15 Seconds」は、泣きのメロディーは健在ながら弾き語りを中心に据えたシンプルなアルバムで流石に枯れすぎな印象が拭えませんでしたが、今作は些か地味だった1stからの正統進化といえる内容になっています。

いい塩梅

 今作も当然のように全編泣きのメロディーが詰め込まれているのに加え、前作では最小限に抑えられていたドラム、メロトロン等のギター以外の楽器が適度に色を加えることで楽曲にバラエティが出て、アルバムとしての流れがグンと良くなりました。
 と言っても影響源としてHarry NilsonやThe War On Drugsが挙げられているように、バンド時代のコッテリ・エモいった形容よりはソフト・優しい、といった言葉が頭に浮かびます。Tribesはアルバムを通して聴くと胃もたれする日もあったので、このくらいが丁度いいのかもしれません
 流れるようなメロディーのSSW風な2."Real Thing"や、The Clashから続くUKレゲエ風味ロックの伝統を受け継いだ3."Cheap Medication"は今作での新規軸と言えるでしょう。

 これらの新規軸もさることながらアルバムの肝はやはり、エモいWhitneyみたいなソウルフルな4."Haze"以降、エモーショナルな曲が続く中盤です。
 往年のコッテリさを覗かせる6"In This World"から「ここから逃げ出そう」なんて青臭さも最高なフォーキーな7.".Better Weather"を経てアップテンポな8."Heaven Below"に辿り着く時の開放感。今作のハイライトは間違いなくここにあります。

運命の女の子と出会いたい/家族を持ちたい/幸せになって皆んなに恩返しがしたい/世間の人がやることをやってみたい/全てが欲しいんだ/君と一緒にね
-"In This World"
天国よ、入れてくれませんか/どこも行くところがないのです/夢を見ていて、ギリギリ生きてて、見せられるようなものもない/
そして僕にはまだ、心の後ろの方で君が聞こえる
-"Heaven Below"

 その後カムダウンするように再びスローな曲が続き、アルバムは終わっていきます。
 終盤に対になるようなタイトルの10."Heaven Up Here"があり、「ここは天国、僕は戻りたくない/もう人の群れに会いたくない」と歌われるように、今作は"Real Thing"に出会った主人公が「ここから逃げ出して、天気が良くなるまで待っていよう」("Better Weather")な時期を経て恋が終わる、というストーリーを持っている…ような気がします。
 音楽的にはシンプルになりながらも相変わらずのエモさを放ち続けるJohnny Lloydさん、今後も大期待です。

点数

7.4

 ところで、Tribesも今年の5月に一夜限りの再結成ライブを予定していたもののコロナ禍で延期になってしまったそうです。是非バンドでももう一度、一花咲かせてほしいです。

(参考記事)

(公式プレス・リリース)

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