Dirty Pretty Things / Romance At Short Notice (2008) 感想

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納得いかない

納得がいきません。Carl Barât、何か影が薄くありませんか。2000年代初頭にデビューし以前と以降に分かれるほどの影響を与えたイギリスのガレージバンドThe Libertines(以下リバ)のツインギタボの片割れかつルックス担当なのに。その代表曲"Don't Look Back Into The Sun"のリフや再結成ライブで弾き始めた途端に観客が興奮しすぎて将棋倒しが起きた"Time For Heroes"のギターソロを弾いているのに。因みに某プロモーターさんと繋がりがあるらしく、近年は頻繁にソロ名義で来日してくれていますが、客入りは寂しいものでした(これはCarlのせいではなく、多分にこのプロモーターさんがネットでネタにされがちなことも影響していると思いますが)。

もう1人のギタボ、かつてクスリで逮捕されまくっていた方のPeter Dohertyは行きつけのお店のメガ盛り早食いチャレンジに成功しただけでニュースになるのに、Carlがお姉さんと2000年代のガレージリバイバル全盛の頃のロンドンを舞台にしたドラマを作っても話題にもなりません。思えばリバが真っ当に活動していた当時から(後追いですが当時の雑誌記事などを見るに)天才肌のPeterに比べてCarlは音楽的才能の方は…的な言われ方をされることがあったようです。

そんなCarl BarâtがクスリでヘロヘロになったPeterと距離を置いていた時期にリバを活動休止のうえ、一部メンバーをそのままに始めたのがこのDirty Pretty Things(以下DPT)です。Carlはリバ以外にDPT、ソロ、& The Jackals名義でアルバムを出していますが、その中で一番の傑作が今作です。イギリスの短編作家Sakiから引用したタイトルからして洒落ています。

ギャップ

前作でありDPTの1st「Waterloo To Anywhere」(2006)はリバの活動休止直後から制作が始まったことで、滅茶苦茶にしやがってというPeterへの愛憎を全編ガレージパンクのユーファッキンラブイト!イェーイェーイェー!!な疾走感で振り切ろうとしたようなアルバムでした。ヘロヘロなPeterのBabyshamblesに比べシャープなパンクでアルバムが統一されており、パッ聴きよりリバっぽい点が評価されましたが、同時にPeterとの比較でしか語られないようなアルバムでもありました。

対する今作では肩の力が抜けまくっています。全体的に曲のテンポが落ちたところと、前作になかったフォーキーなバラードが増えたところがその所以です。しかもそのバラードがどれも名曲なので、DPTはもともとパンクよりこういう曲のが向いてるんじゃないかと思います。特にアンセミック(リバ関連でこの形容詞が出るとは思ってもいませんでした)な9曲目"Truth Begins"はリバを含めたCarlのキャリアで1、2を争う名曲です。この曲を聴くと、何とか明日までしがみつく元気をもらえます。

パンク!な勢いを求める向きにはCarl得意のサビ転調ソング"Best Face"、ポップな曲を求める人には「ラーララララー」な"Plastik Heart"やニューウェーブ風の"Chinese Dogs"もあり非常に間口が広いアルバムでもあります。Carl以外のメンバー、Anthony Rossomando(Gt.)とDidz Hammond(Ba.)がボーカルを取る場面も増えました。それぞれ一曲ずつメインボーカルも担当しています。

DPTのアルバム2枚とPeterがリバ以降にリリースした曲によってCarl、DPTのメロディセンスはリバに時折見られたような吟遊詩人的な、その場の思いつきで紡いでいるようなメロディではなくもっとオーソドックスなものであることりはっきりしたした。Carlはメタルやハードコア好き(後の& The Jackals名義のものはこちらを強調したアルバムになっていました)、PeterはThe Smiths好きということを踏まえると当たり前のことかも知れませんが、それがリバの3/4のメンバーの組んだバンドという期待の元DPTを聴いた人の評価が分かれるポイントでもあります。

今作はガレージパンク一色だった1stからの変化とその影響で1stより更に顕著になったリバとの違いにより、世間がCarlに求めていたものとのギャップが生じてしまったためにイマイチの烙印を押されてしまっているアルバムだと思います。リバが再結成し当時のファンもいい大人になった今こそフラットな視点で聴いて欲しい、素敵な曲が詰まったアルバムです。

オススメ曲

その1: 9. Truth Begins

当初はこの曲の歌詞から取った"This Is Where The Truth Begins"がアルバムタイトルになると報じられていました。それも納得の名曲です。セクシーな低音ボーカルに始まるヴァースからリバ含むCarl史上一アンセミックなサビ、そして親友との大喧嘩=リバの解散を経たうえでの歌詞のポジティブさに胸を打たれずにはいられません。

君の望みは俺みたいな奴から離れてこと/目に見えたことを全てねじ曲げて解釈するような/そしてこの灰色で、古ぼけた世界を捨て去ること
種を蒔いて、酒でも飲もうぜ/俺の家へ行って語り明かそう/明日はどんなに太陽が輝くか/君がまだ合っていない友人達のために/その中には君のためなら死んでもいいって奴もいるはずさ/だから明日にしがついていこう

その2: 5. Come Closer

アルバム中盤に位置する、2分程度の小品的な、フォーキーで可愛らしいラブソングです。ブリッジでバンドが入ってきて最後のコーラスにかけて盛り上げていく展開含めて完璧。欲を言えば発売前にライブで披露されていたバージョンの方が好きでした。


人生は寂しいものだから/俺だけのワンアンドオンリーが必要なんだ/愛を知ってるなら/こっちに来て見せてくれないか/今、君のことを見つめている

その3: 8. Best Face

今作で1番リバ、というよりもDPTの1stっぽいパンクの勢いを感じる曲です。サビでの転調とミドルエイトの勢いがかっこよろしいです。

点数

8.4

リバの諸作には勿論及びませんが、その香りを感じさせつつより幅広いブリティッシュロックを聴ける良作です。

余談ですが、ギタリストのAnthony Rossomandoは最近何やってんだろうと思っていたらかの大ヒット映画「スター誕生」の主題歌をLady GagaやMark Ronsonと共作し、ゴールデングローブ受賞ソングライターになっていました。実は一番の出世頭かもしれません。

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