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Mystery Jets / Home Protests (2020) 感想

サプライズ

 イェーイェー!Mystery Jetsのカバーアルバムがサプライズ・リリースされました。各種ストリーミングとLPで聴くことができます。
 ロックダウンの間に宅録で作られたという本作でピックアップされた曲のテーマはズバリ「プロテスト・ソング」。

プロテスト・ソングは僕らに力を与えると同時に、未来の世代が同じ不正や恐怖、トラウマや自問自答のサイクルに陥った時の目印になってくれる。これらの曲は僕らが戦って守るべき価値のあるものを写したものなんだ。

 とは本作に添えられた彼らの弁。トラックリストはこんな感じです。()内はオリジナル。錚々たる面子に混じってJohnny BoyにWilly Masonですよ。王道とインディーのバランス感覚が抜群で、彼らのルーツとセンスを見せつけてくれる選曲です。

1. You Are The Generation That Bought More Shoes And You Get What You Deserve (Johnny Boy)
2. Freedom (Richie Havens)
3. Big Yellow Taxi (Joni Mitchell)
4. Shipbuilding (Robert Wyatt)
5. Short People (Randy Newman)
6. Oxygen (Willy Mason)
7. The Age Of Self (Robert Wyatt)
8. Don't Give Up (Peter Gabriel)
9. Jesus' Blood Never Failed Me Yet (Gavin Bryars)

イェーイェー!

 ロックダウン中に作ったという本作はメンバー3人によるギターとピアノ、パーカッションを基本にしたシンプルなアレンジで、原曲をあまりいじらずに演奏されており、プロテスト・ソングだからと深く考えず、歌とメロディーを追うだけでも十分楽しめます。勿論深く考えれば一石二鳥。
 
 個人的最注目のJohnny Boyはなんと一曲目ですよ一曲目。Be My Babyなビートに乗せた甘いメロディーで資本主義、大企業による大量生産・大量消費社会が痛快に皮肉られます。「お前らは大量に靴を買い漁ったんだからツケを払わされて当然の世代だ」。
 収録曲の中ではかなりマイナーな曲ですが特定の層、具体的には2000年代にSnoozer誌を読んでいた層にはたまらない選曲ではないでしょうか。強いて言えばしっとりしたアレンジになっているためこの曲の肝であるイェーイェー!がないことが残念ですが、これを取り上げる彼らのセンスに信頼が深くなりました。

 "Oxygen"は2004年のリリース当時から激名曲でしたが、不思議と昨今のアメリカの混迷を予見していたかのように響きます。これが彼らが先のコメントで言っていたことなのでしょう。原曲は渋めのフォークソングですが、Blainのハイトーンで歌われるとザ・UKロックな湿り気を帯びたバラードに早変わりです。

忘れ去られたアメリカのことを覚えてるかい?/全ての人種に対する正義と平等と自由を/全ての嘘と陰謀をやり過ごさないと
何度も何度も何度も何度も/目眩がするまで/世界はただ回り続ける/息をする時だ/目を閉じて、もう一度新しく始めよう

 あと選曲について特筆すべきはRobert Wyattが2曲入っていること(個人的には"Shipbuilding"はElvis Costelloのセルフカバーの印象の方が強いですが)ですかね。彼らのルーツを感じて興味深いです。

青年は言う/「父さん、これから派兵されるけどクリスマス頃には帰ってくるよ」/街でこんな噂が広がってる/「こんな船を造ってたら人が殺される」って言った誰かの代わりなんだと

 大企業による搾取、差別、環境破壊、戦争、貧困、格差社会…。様々な問題提起の後、最後は「神の血は私を裏切らない」と救いを信じて終わることがなによりも大事な点だと思います(だから「信じることをやめられない/それが呪いのように思えても」というラインで始まるJohnny Boyが一曲目に選ばれたのかもしれません)。
 
 住んでいたロンドンの中心地で触れた様々なデモにインスパイアされた、キャリア中最も社会派な最新作"A Billion Heartbeats"を経て、メンタルヘルス、ホームレス救済等の活動家からRadioheadのエドまで様々なゲストを招くポッドキャストシリーズの展開など、「若い恋は続かない、ウォゥウォゥウォゥ♪」とか歌っていた彼らもすっかり社会派なバンドになりました。
 オリジナルメンバーの脱退も乗り越え、次作はどうなっていくのでしょうか?

点数

7.8

 最近ではGreen DayのBillie Joe Armstrongもロックダウン中の企画を基にしたカバーアルバムをリリースしています。あちらはこれぞGreen Day、ゴキゲンなポップパンク調で、最近はこの2枚とアクモンのライブ盤ばかり聴いています。
 今年も残すところあとわずか。年内のリリースで楽しみなのはThe AvalanchesとPaul McCartneyです(備忘録)。

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