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「エンゲージメント」か「エンベデッドネス」なのか -概念を知るメリット-

こんにちは。紀藤です。昨日、某企業のCHROをされている友人と、その会社の組織開発に関わっている方とお食事の機会がありました。
話題は「人事のお困りゴト」について。

外部支援者として組織に関わる私にとっては、組織内部において、時に板挟みになったり、葛藤がある中、その渦中で組織を良くしていこう!と奮闘される皆様に、心より敬意を感じます。同時にそのリアルな話は引き込まれるものがあり、あっという間の時間でありました。

「エンゲージメントを高める」はどれくらい大事なのか

さて、その会話の中で出てきた「人事の気になるコト」のテーマの一つに、”「エンゲージメントを高めよう」というのは全社的にやる必要があるのか?”という話題がありました。

営業などエンゲージメント(活力・熱意・没頭)が業績に繋がりそうな部署はある。しかし、一部部署では働く人たちはエンゲージメントを感じているようには見えないものの、期待するパフォーマンスを出してくれている。それらの人は、それで満足しているようにも見える。はてその人達に、「エンゲージメント高めよう」というのは必要なのだろうか・・・?、と。

パフォーマンスを発揮してくれているのであれば、エンゲージメントが高くなくとも、離職せずに働いててくれるのであれば、それはそれでいいんじゃないか?、そんな疑問があったのでした。

エンゲージメント百花繚乱

さて、そこでそもそも「エンゲージメント」という言葉を交わし合うのですが、これが何を意味しているのか、というのがまず曖昧だったりします。

いわゆるエンゲージメントサーベイも、「Wevox」、またはGallupの「Q12」などなど、エンゲージメントを測定する様々なサーベイは世に溢れています。大げさにいえば「エンゲージメント百花繚乱」とも言えなくありません。(このあたりのお話は過去の記事に詳しく書かせていただきました↓)

 「エンゲージメント」といっても、仕事に対する活力・熱意・没頭を表すエンゲージメント「ワーク・エンゲージメント」と、会社への愛着・一体感などを意味する「従業員エンゲージメント」などがあります。

 そして自社で使っているエンゲージメントサーベイは、仕事と従業員の両方の概念が含まれていたり、概念が混ざっているがゆえ「エンゲージメントが大事」と言っている側も、仕事へのエンゲージなのか、組織へのエンゲージなのかを切り分けて考えるのがなかなか難しかったりします。

 もっと言えば、従業員エンゲージメント」は組織コミットメントの概念が含まれている、ともされてますし、そうすると更に概念が混ざり合い複雑になり、エンゲージメントと語っているけど意味することが違っている、ともなりかねず、これまたややこしい。。。(この話も過去の記事に記載をしております)

 しかし、ややこしいながらもこれらの概念を切り分けて考えることがでけいれば、「社員に役割内の仕事へ活力・熱意・没頭してほしい」or「社員もっと会社に対して愛着を持って、業務以外のサポートとかも手伝ってほしい」、目的も分けて考えることができるようになるのでしょう。そうすれば、その目的に対するアプローチもより正確になる可能性があります。

そういった意味で、「ワーク・エンゲージメント」「従業員エンゲージメント」「組織コミットメント」などの概念を分けて理解し、それらから現状を見立てることで、行うべき施策にも役立つことになります。

「ジョブ・エンベデッドネス」という概念

 ちなみに「エンゲージメント」にとらわれず、組織行動の概念をより勉強すると、さらに新しい視点を得ることができるかもしれません。

たとえば、先程の例では話しを少し戻しまして「パフォーマンスを出しながら組織にいてくれるのであれば、エンゲージしていなくともいいのでは?」という話を考える時に役に立つ概念があります。

それが「ジョブ・エンベデッドネス」なる概念です。ennbeddednessとは、直訳すると「埋め込み」という意味です。この概念は、以下3つの下位次元と対応する2つの項目で測定される概念とし、離職意思との相関があるとされています。

<ジョブ・エンベデッドネスの次元>(Mitchell et al. 2001)
・「絆」(link):(1)組織とのつながり、(2)コミュニティとのつながり
・「適合」(fit):(3)組織との適合、(4)コミュニティとの適合
・「犠牲」(sacrifiec):(5)組織にかかわる犠牲、(6)コミュニティに関わる犠牲

服部泰宏(2020)『組織行動論の考え方・使い方』P210を元に作成

そして、この概念はお伝えした通り「離職意思」に関わっているため、もしある特定の人たちが「ワークエンゲージはしていないけど、ジョブエンベデッドネスが高く、辞めるリスクは少ない」ということであれば、全体から見た優先順位の立て方に、役に立つかもしれません。

※引用:服部泰宏(2020)『組織行動論の考え方・使い方』P212

概念から「狙い」を定める

 というように、様々な概念や理論を元に、現在の職場の状況を考えて、どういった状況を目指したいのか考えると、「狙いの定め方」が行いやすくなると感じるのです。

たとえば、先程のある属性の人たちが「エンゲージメントは低いが、埋め込み(ジョブエンベデッドネス)は高い」とします。ということであれば、他事業部の「エンゲージメントも低く、エンベデッドネスも低い属性の人たち(若手とか転職可能性が高い人たち)」に優先的に介入したほうが重要、というように「狙いを定める」ことができるということです。

これは、組織行動の概念である「エンゲージメント」と「ジョブ・エンベデッドネス」を分けて考えることで見える視点とも言えるかもしれません。

 またさらには、概念を知ると、組織で目指すべきものは、仕事の活力・熱意・没頭を高めるよりも、職場の同僚や後輩に手を差し述べる行動をしてほしいと考えられるかもしれません。

 後者の職場の同僚や後輩に手を差し伸べる行動は「組織市民行動」の一つとも考えられ、もしここを重点的に高めるのであれば、「組織コミットメントの情緒的コミットメント」を狙いとすることができそうです。

このように概念を知ることで、結果を手に入れる方針について、見立てを行うこともできそうです。

組織市民行動は「情緒的コミットメント」との相関が高い
※引用:服部泰宏(2020)『組織行動論の考え方・使い方』P208

まとめ

 概念、そしてそれらの繋がりを枠組みとした理論などを知ることで、「事象を説明できる」「結果を予測できる」「結果を得るための行動のヒントが得られる」等のメリットがあります。
まさに今回のワークエンゲージメントや、組織コミットメントと、ジョブエンベデッドネスでも、そうだよなあ、、、そんなことを思いました。

新しい概念を手に入れることは、現実社会を見る目を育てることである。
そんなことを感じた次第です。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!


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