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おすすめの一冊『大学職員のリアル 18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』

こんにちは。紀藤です。さて、本日は最近読んだ本の中から、お薦めの一冊をご紹介させていただくコーナー。今回ご紹介の一冊は、

<おすすめの一冊>
『大学職員のリアル 18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』
倉部史記 (著), 若林杏樹 (著)、 (中公新書ラクレ)
https://amzn.asia/d/6Daj02d

でございます。

ちょっとマニアックなタイトルですが、大学に関連するお仕事をしている方、またこれから検討している人は、必見の本だと感じました。
ということで早速みてまいりましょう!


大学って、どんな風に運営されているのか?

私事ではありますが、今年の4月から、立教大学の兼任講師を務めさせていただくことになりました。実にありがたいことで、何かしら関わった人に貢献できるように頑張りたいと思う3月の今日この頃。

しかし、ふと思うと「大学って、どんな風に運営されているのか?」がよくわからないことに気づきました。

教員の他に、事務局のように経費や広報などを行っていただく職員の方もいる。また学長・学部長などの役割もいる、寄付金などを担当する方もいれば、学生の支援をする方もいる。でも、それがどのように関わっているのか、よく理解できていませんでした。

自分の友人も何人か大学職員として働いているものの、その内情が一般企業の勤務経験しかない自分からすると、なんともイメージしづらいものではありました。かといって、こういうことって、誰に聞いたらいいかもわからないものです(説明させるのも申し訳ないですし・・・)。

そんな中で、今回の一冊は、元大学職員が、「大学という組織が一体どういうものなのか?」について、基本的な機能を始め、組織運営のされ方、組織内にいる役割、国公立と私立の違い、働く上で向いている人・向いていない人、これからの18歳人口が減る中での大学の想定される未来・・・などなど、著者の体験や考えを織り交ぜて、詳しく解説をしている本です。

知りたい人にとっては実にありがたい本です。

本書の全体像

さて、本書の全体像ですが、特に「大学職員は楽で年収一千万円以上みたいな話がSNSであるが、それは本当なのか?」という、話題になりそうなテーマの虚実について解き明かす流れで進みます。

詳しい目次は以下の通り、

大学職員は「年収一千万円以上で仕事も楽勝」と噂の人気職だが、はたして真相は?
大企業と似たような仕事内容がある一方、オーナー一族のワンマン経営で、ブラック職場の例もある。国公私立でもまた事情は千差万別。
私立大学の元職員である二人の著者が、学生や外部からは見えにくい組織のピンキリな舞台裏を明かしつつ、18歳人口が激減する業界の将来不安、職員が抱えがちなキャリアの悩み、教員との微妙な関係性、そして高度専門職としてのモデルや熱い想いを伝える。それでも大学職員になりたい人、続けていきたい人、辞めようかどうか迷っている職員のための必読書。

まえがき――ネット上の噂は本当か?
1章 仕事はピンキリ、大学職員の虚々実々
2章 この先「食いっぱぐれない」仕事か?――18歳人口減少の激流の中で
3章 「大学業界らしさ」の良さ、悩ましさ
4章 それでも大学職員になりたい人へ
5章 すごい職員はどこがすごいのか?
【参考資料】大学職員のお仕事カタログ
あとがき――大学を動かすキーパーソンへ

Amazon本の紹介より

楽で年収1000万円以上は本当か?

大学は、営利を目的とする企業と違い、教育に関わる存在です。そのため安定感がある、競争とは無縁という印象を持つ方もいるのかもしれません。

しかし、結論からすれば、大学も淘汰が始まっています。よって、一部SNSで話題になるような「楽で年収1000万以上なんて、そんなことはない」と強調しています。あえて年収1000万以上の職員と言えるならば、

「経営基盤が盤石であり、今後も社会の変化に対応して経営努力を怠らず、かつ教職員の待遇維持にも熱心な学校法人。そこで健全な危機感を抱きながらキャリアアップの努力を重ね、民間企業等から中途採用者に負けない評価を得て管理職のポストにつき、急に法人の経営方針が激変しても上手に対応し、一定の評価を受け続けていれば年収1000万円超え」

P149

と書かれていました。たぶん、こういう人であれば大学法人でなくとも、優秀な評価と待遇を勝ち取ることができるのでしょう。むしろ、基本的には職員の数や報酬も減少傾向であるのでは、とのこと。

経営が正常な大学は、全体の半分しかない!?

大学の経営の背景には、「18歳人口が減り、淘汰が始まっている環境」が大きな要因の一つとして存在しています。

具体的にはそのような時代背景も含めて、598法人ある大学法人に置いて、2023年度までに破綻の恐れがあるレッドゾーンは21法人、29年度末、30年度以降に破綻が懸念されるイエローゾーンは100法人に及ぶ、とのこと。また2年以上赤字のイエローゾーン予備軍は196法人でした。つまり、正常な法人は341法人(全体の51.8%)という結果になっています(「私学事業団調査」読売新聞オンライン、2021年4月6日付)。

これをみると、「大学の職員って安定していて楽そう」とはとてもいえない、十分な競争環境にあることは想像に難くありません。

かつ、日本の大学のローカル化、競争力の低さは問題となっており、ここについては真剣に向き合う必要性も叫ばれています。国として、人に投資をする、教育を考える、、、なんとなく肌で感じてはいますが、こうした書籍を読むとますます考えさせられます。

P48

現代の大学の役割は昔と違う?!

さて、ご存知のように、大学進学率は年々増加の傾向をたどっています。現在の日本の大学進学率は50%を超えています。

そこで興味深いお話が「高等教育システムは段階的に移行していく」というトロウのモデルがあります。

曰く、該当年齢で15%までが大学へ進学する高等教育システムを「エリート型」と呼び、その目的は「エリート・支配階級の精神や性格の形成」でした。日本では、1965年(昭和40年)頃におおよそ15%を超えてきており、それまではエリート型だったことになります。

次に、大学進学率15%以上~50%までを「マス型」と呼び、高等教育の目的は「専門分化したエリート養成+社会の指導者層の育成」でした。これは、2010年頃までがこの型だったようです。

そして、大学進学率50%以上になると「ユニバーサル・アクセス型」となると、高等教育の機会は「万人の義務」となり、高等教育の目的は「新しく広い経験の提供」となっていきます。そして現在の日本はユニバーサル・アクセス型となっています。

よって、昔の大学と今の大学では「高等教育の目的」が違っている、というわけです。偏差値が低い大学を「Fラン「」などと揶揄する物言いもありますが、そうした表現は、エリート型の考えを前提としているわけであり、「万人に高等教育の機会を提供し、新しく広い経験を提供する」という今の大学の段階を考慮していない表現とも言えるのかもしれません。

P56

まとめと個人的感想

さて、本書では前半では「大学というシステムの現状」が書かれており、知らないことばかりで大変勉強になりました。

例えば、

・教学部門(大学の教育研究支援に関わる部門)と法人部門(法人全体の経営や管理、企画を担当する)の違いがある、とか、
・国公立と私立大学のカラーの違い(私立は、自治体誘致の場合は財政に影響される場合も?!、私立は母校愛が強い人が多い?!、国公立は公務員など公的機関で働くことを希望としている人が多い?! ※あくまで個人インタビューの傾向)や、
・教員と職員の違い(職員は理事長をトップとするピラミッド型組織の構成員、教員はそのような関係はなく、学長・副学長・学部長・学科長というポストはあっても、数年ごとに交代するものであり、また権限を持たない傾向)、

なども書かれており、著者の方の視点ではありますが、参考になりました。

他にも大学職員でしか知り得ないリアルな声がたくさん入っており、こういしたことを一冊の本で知ることができるのは、本の魅力だな、とも感じさせられました。
こうした事前情報を元に、色々と実際に自分が通っていた大学院や大学のことも掘ってみると面白そう!とも思った次第です。

ご興味がある方はぜひ。最後までお読み頂き、ありがとうございました!

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