ポジティブ組織行動学とポジティブ組織研究の違いってなんだ? ~書籍『ストレングスベースのリーダーシップコーチング』(1)
こんにちは。紀藤です。本記事にお越しくださり、ありがとうございます。
さて、本日は「ストレングスベースのリーダーシップ・コーチング」をテーマにした書籍をご紹介したいと思います。
本書は、強みの概念の背景にあるポジティブ心理学の歴史、リーダーシップ理論の全体像、コーチングがリーダーシップにどのように影響するかなど、様々な論文・研究をまとめた書籍であり、ストレングス✕コーチング✕リーダーシップという特定の分野に深く切り込んだ書籍となっています。
日本語訳がなく、Kindle本をせっせとDeepLで翻訳しながら読みましたのでそのポイントについてまとめてみたいと思います。それでは早速まいりましょう!
書籍の全体像
本書の特徴
さて、この書籍の特徴について「まえがき」部分ではこんな風に書かれていました。学教授や、コンサルタントから推薦の言葉が多く掲載されております。
”ストレングスベースのコーチングの科学と応用の両方を高いレベルで実現している本”
”前半はリーダーシップ開発研究ストレングスベースの概要と批評が幅広さと深さの両方において書かれている。後半は、コーチング心理学者、リーダーやマネジャー、チームリーダーなどを対象に、それらをどのように適用するかが明確に述べられている。
ふむふむ、なるほど。「ストレングスベースのコーチング」についてアカデミックな視点と実践的な視点どちらについても書かれているのですね。
確かに、私も読んでみてこの本に説得力を感じたのは、様々な研究者が掘り下げてきた各理論について出典論文なども抑えて論じているところでした。たとえば
・リーダーシップ理論
・ポジティブ・リーダーシップが生まれた背景
・ストレングスベースの理論的根拠
等について明確にしているため、この本を読みながら、参考論文について探索の旅をしていくことで、ストレングスベースのリーダーシップを取り巻く全体地図が明らかになっていくような感覚を覚えたのでした。
各章の内容
さて、ではそんな本書、どんな構成になっているのでしょうか。
まず前半の第1~5章は、ストレングスベースのリーダーシップの概念、その開発の歴史や全体像について網羅的に論じられています。ストレングス・ファインダー、VIA、Realize2などの世界で活用されている強みを特定する各種のツールについても批評がされています。
続く後半の第6~10章では、ストレングスベースのリーダーシップ開発、チーム開発について具体的に述べられています。
具体的な章立てとしては、以下の通りです。
第一章:組織におけるストレングスベースのアプローチの紹介
今日は第一章の前半部分について、その内容を紹介したいと思います。
章のタイトルは「組織におけるストレングスベースのアプローチの紹介」とありますが、この章では「ポジティブ心理学の歴史(ポジティブ組織行動学とポジティブ組織研究の違い)」「リーダーシップ理論の話」「ポジティブなアプローチとリーダーシップのつながり」が解説されています。
今回は「ポジティブ心理学の歴史の全体像」について、まとめてみます。
ポジティブ心理学のはじまり
さて、強みにフォーカスしようぜ!という、ストレングスベースのアプローチは、「ポジティブ心理学」からスタートしました。そもそも「ポジティブ心理学」ですが、20世紀初頭の一部の期間を除いて、組織における開発の焦点は、圧倒的にネガティブなものに当てられていました(Wright and Quick,2009)。
マズローの『欲求階層説』はよく知られていますが、実は彼がポジティブ心理学という言葉をつくった元祖とのこと。マズローをはじめとした研究者はポジティブなこと(ピーク時の経験、人間の潜在能力)に焦点を当て、人間性心理学者と呼ばれましたが「研究として厳密さを欠いている」との批判を受けていました(実際、マズローの欲求階層説も証明されているわけではないのです)。
ポジティブな視点に焦点を当てる、理論を裏付けるエビデンスベースが整備されていなかったこと。これが当時、このポジティブなアプローチが組織に浸透しなかった理由の一端であろうと思われます。
しかし、流れが変わったタイミングがありました。それが2000年初頭です。マーティン・セリグマンが米国心理学会の会長に就任し、幸福、卓越性、最適な人間機能に焦点を当てたことで、リーダーシップを含む応用心理学におけるポジティブなアプローチが再浮上したのでした。(Seligman and Csikszentmihalyi 2000)
ポジティブ心理学の2つの主要な研究分野
ここから個人的に、へえーと思った点になるのですが、ポジティブ心理学では、主要な2つの研究分野があるとのこと。それが、『ポジティブ組織行動学』と『ポジティブ組織研究』という2つです。以下のように分けられています。
●ポジティブ組織行動学(Positive organizational Behavior:POB)
ポジティブ心理学の研究に基づいた測定可能なアプローチとして明確にされている組織行動学です。そのため組織における開発を対象にでき(Luthas and Youssef 2007)、この分野では組織における従業員のパフォーマンスを高めるための「強みの開発」という概念を支持している領域となります。
(心理的資本・成長マインドセット、オーセンティックリーダーシップや変革型リーダーシップ開発など、パフォーマンスを高める概念に焦点を当てています)
●ポジティブ組織研究(Positive organizatinal Scholarship:POS)
ポジティブな特徴的な行動をより特性に近い観点から検証するポジティブ組織学”として定義されています。たとえば、組織内での思いやりや感謝といった人格的な強みの分類や強みの識別に焦点をあてています(Boyatiz, Smith and Blaize 2006)。(なので「組織研究」なのですね)
(特性論やビック5などで、視点から組織のポジティブな意味付けなどを研究しています)
改めてまとめると「ポジティブ組織研究」は”マクロレベルで分類に焦点”を当てていおり、特性論やビック5などで、視点から組織のポジティブな意味付けなどを研究する領域です。
「ポジティブ組織行動学」は”ミクロレベルで開発に焦点”を当てています。心理的資本・成長マインドセット、オーセンティックリーダーシップや変革型リーダーシップ開発などを取扱う領域となります。
ポジティブ心理学への批判と考慮すべき点
ポジティブなアプローチはこのように2つの側面から研究されてきていますが、一方、弱点やネガティブなことに注意を払わないとすると、「ストレングス教」のような極端なイデオロギーとなってしまいます。よって、以下のような批判や考慮すべき点も抑えておく必要があると述べています。
1,ポジティブな感情とネガティブな感情の理想的な比率
ポジティブな感情とネガティブな感情の理想的な比率について議論されています(Losada and Heaphy,2004)。ネガティブ感情も重要であり、ネガティブな感情の重要性を主張し、喪失や驚異に対する適応として進化的起源を強調する研究者もいます(Gilbert,2006)。
2,「強みのやりすぎ」に注意すること
強みは”やりすぎる”ことがあり、すべての強みが文脈や影響を無視して活用されると、望ましくない結果となるう懸念もある(Kaiser,2009)とされています。
3,自己認識が強みによって歪められる可能性
また、多くの人が様々な仕事で自分の能力を過大評価していることを考えると(Dunning al 2003)、ポジティブなことに焦点を当てることで、自己認識が歪められ、既存のポジティブなバイアスが再確認される危険性がある(=能力が低い人は「私の強みは◯◯なんだ!」と暴走する恐れがある、など)
自己認識には、自己と他者の認識の整合性を高めることが必要であり、個人的なもの・ポジティブなものばかりを強調することは、自己認識力の開発に反している可能性があるとします(Avolio,2010)。
4,強みに焦点を当てると、複雑な相互作用を無視してしまう危険性
強みに焦点を当てることは、”個人や組織を開発するための単なる特性ベースのアプローチ”となってしまい、個人の資質とチーム、グループ、ダイアドなどの状況変数や複雑な相互作用を無視してしまう危険性がある(Hernandez et al, 2011)
ともありました。
まとめ(個人的感想)
まだ第一章の前半部分なので、まだまだ続くわけですが、こうしてストレングスベースの背景にある歴史や、ポジティブ心理学のアプローチの気をつけるべきポイント、またポジティブ組織研究、ポジティブ組織行動学など分類してみると整理すると全体像がわかりやすくなると感じました。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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