見出し画像

クリスマスが今年もやってきた

冬至|麋角解
令和5年12月27日

仕事終わり、妻と乗りこんだモノレールは江ノ島へ向かう。ギリギリ座れた席の向かいには、クリスマスケーキをもったお父さんが目を瞑っている。あぁ、きっと今年もたくさんのサンタさんが出勤し、子どもたちに夢を配ったのだろう。友人のサンタさんは、2歳になる子どものために、わざわざAmazonで付け髭と帽子を買ったという。まったくAmazonにはありとあらゆるものが売っている。きっとプレゼントもAmazonで買ったはずだ。

ジェンダーステレオタイプの話題で引用される、外科医の息子の話。詳しくはリンク先の素晴らしい記事を読んでもらうとして、しかし、ことサンタさんに関しては、こればっかりは「お父さん」を連想してしまう。赤い服を着て、白い髭を貯えた、トナカイに乗ってやってくるサンタさん。ひとり親の母子世帯は約120万世帯、全世帯数の約2.2%というので、夢とプレゼントをくれるサンタさんが「お母さん」であることはそんなに珍しいことではない。クリスマスの朝、自分の大好きだった宝石の図鑑が枕元に置かれていたことを思い出す。図鑑に挟まれていたレシートは、父の職場のすぐ近くの本屋だった。サンタさん、そんな偶然もあるんだなぁとびっくりした朝のことは一生忘れないだろう。

終着の湘南江の島駅に着いた。シーズンには観光客で賑わう駅は閑散としていて、ただでさえ冷たい風が余計にひんやりと感じられる。駅から江ノ島までは歩いて15分ほど、長い橋の上を妻と震えながら歩く。イルミネーションイベント「湘南の宝石」で着飾った江の島シーキャンドル、美しさを讃えるより先につい電気代の心配をしてしまう。さっきまでパソコンとスマホを見ていた目は、その眩しさにさらなる疲労の色を浮かべる。そんなにビカビカしなくたっていいのに、こんなに明るいとリスだって住むに耐えないだろうと思った。そんな江ノ島のタイワンリスも、元々植物園で飼われていたのが野生化した害獣だそうな。

それでも、エスカーでたどり着いたサムエル・コッキング苑のイルミネーションは綺麗だった。夏に鎌倉広町緑地で見た蛍の光のようで、陰影が際立つ色をしていた。隅まで暗闇を照らす光ではなく、むしろ暗闇であることを強調するかのような光。こんな夜にはマライア・キャリーは似合わない。ドビュッシーの「月の光」を聴きたい。

ふいに本物の蛍が見えたような気がした。満月のクリスマスには、どんな奇跡が起こっても不思議はない。どこかで麋の角が落ちたのかもしれない。

-T.N.


麋角解

サワシカツノオツル
冬至・次候

みなさんにはクリスマスの思い出はありますか。嬉しい思い出、悲しい思い出、もう思い出したくない出来事もあるかもしれません。それでもクリスマスは優しい夜を包んでくれる。今年ももうすぐ大晦日を迎える。あまりに色々なことがあった一年だったので、来年を無事に迎えられるように、穏やかに師走を駆け抜けたい。みなさまもお身体をご自愛ください。今年もお疲れさまでした。


参考文献

こども家庭庁, 全国ひとり親世帯等調査(令和3年度), 2022年, 閲覧2023年12月26日
統計局, 国勢調査(令和2年), 2021年, 閲覧2023年12月26日


カバー写真:2023年12月25日 2023年12月25日 クリスマスの江ノ島。光より闇の方が好きなのは昔から。


コヨムは、暦で読むニュースレターです。
七十二候に合わせて、時候のレターを配信します。

クリスマスが今年もやってきた
https://coyomu-style.studio.site/letter/sawashika-tsuno-otsuru-2023


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?