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ルアンパバーン紀行 第2話:カオソーイといんげん豆

小雪|橘始黄
令和5年12月3日

時刻は午前9時25分。

ビエンチャン駅を出てヴァンビエン駅を通過し、ルアンパバーン駅に到着した。手持ちの電子チケットのQRコードを駅員にスキャンしてもらい出口を出ると、左右に遠くまで広がる駅前の道路に、おびただしい数のバンが待機しており乗客を待っていた。どれかに乗り込もうかと近づいてみたが、どうやらそのほとんどはホテル送迎車といった先約がある雰囲気だった。市街へのアクセスはどうしたらよいだろうと一瞬不安になり、すぐに人の流れから外れて端に寄ってインターネットで検索してみた。すると、わかった。どうやらこの4車線の幅広でどこまでも長い道路を渡ると、すぐ下に広場があってそこに乗り合いのバンやタクシー乗り場なんかがあるらしい。一安心して道路を渡り広場へ下ると、たしかに乗り合いバンを見つけた。

テント下に待機している係員に40,000キープを支払い(一瞬法外な値段かと身構えてしまうが実は約280円と良心的)、小さなチケットをもらった。テントの奥をみるとバンが数台待機しており、案内された車に近づいた。私がこの車で最後の乗客らしく、後部座席は朝の満員電車のごとくぎちっと人が詰まっていた。自分の席はどうやら助手席らしい。その助手席にはもうすでに一人乗っていたが、詰めて乗れとのことらしい。日本では考えられないくらいの過密状態でバンは発車した。

ゆられること約30分、バンは未舗装の荒い道を進み、ようやく市街地らしいエリアに到着した。地元民らしき人たちは自身の降車地を正確に運転手に伝えているようで、何の目印もないところで一人ひとりと車から降りて行った。私はルアンパバーンの中心地が目的地であったが徒歩50分くらいのところで一度降ろされかけ、理解されない英語でもう少し先まで行きたいとなんとか伝えてもう少し乗車した。見知らぬ土地で言葉が伝わらないことの、なんと心細いことか。徒歩20分くらいのところで再度降りろと言われてしまったので、希望通りの場所で降りることは諦めて散歩をすることにした。

しばらく歩いていると右手に、両側にみっしりと露店が並んでいる路地に出くわしたので吸い込まれるように入っていった。露店では果物、魚介、ソーセージに揚げ物、さまざまなものを売っていた。湿度と暑さに強烈な臭いが掛け合わされ食欲など微塵も湧かなかったが、その異様な光景は私の好奇心を掻き立て、歩を進めさせた。内陸国なのに、この海鮮たちはどこから持ってきたのだろうか。この異臭のするナマズはどんな味がするのだろうか。この生肉はいつから常温で放置されているんだろうか…。衛生面への不安を感じつつ、そんなことをものともせず現地で逞しく生きる彼/彼女らのエネルギーに感服した。きっと食中毒や寄生虫で死んでしまう人もいるだろう。現地はデング熱の流行地域でもあったので、蚊に刺されて死ぬ人もいるだろう。日本で生活をしていると死は稀で、寿命の終わりにゆっくり近づいてくるか相当な運の悪さで突然襲ってくるかというイメージがあるが、ここでは案外身近に潜んでいるのかもしれない。

そんなことを考えながら歩いていたが、露店の並ぶ小道はかなり長かったので次第に新鮮味は薄れ、この道と並行して流れるメコン川沿いに出ることにした。先ほどのワイルドな小道とは打って変わって、現代的なカフェがいくつもある。そのうちの一点を選んで川沿いの席に座り、ラオスコーヒーを飲んでしばし休憩した。

***

時刻は午後13時頃。キングサイズベッドの上で、また目が覚めた。メコン川沿いのカフェで休憩をした後ホテルに向けて歩き出し、気温の上昇と共に疲れもじわじわとたまっていく中なんとか到着してすぐに仮眠をとっていたのだった。
1時間ほど寝たおかげで、幾分疲れも取れていた。お腹も空いてきたので昼ごはんに出かけることにした。あらかじめ調べていた「カオソーイ」という麵料理を食べに行く。

寝ている間にも気温はじわりと高くなっていた。店に到着し、着座。メニューはたくさんあったが、目当てのカオソーイを注文した。注文してからしばらくすると、レタス、いんげん、もやし、ライム、紐でしばられた香草類などが盛られた皿が運ばれてきた。何の説明もなかったが、これはいわゆる味変用なのだと察した。そしてのんびり待ったあとに、主役が運ばれてきた。

カオソーイは鶏だし(だと思う)の優しいスーブに米粉の平打ち麺が入れられ、その上に肉みそが乗った料理である。一口スープを飲んでみると、淡泊ながらも旨味が濃く、驚いた。これはおいしい。肉みそと麺を一緒に口に運んでみると、もちもちさっぱりの麺としっかり味のついた肉がいいバランスで、これもまたうまかった。お腹が空いている時に炊き立ての白米を食べた時のような、じんわり体に広がる滋味深いおいしさ。こいつはいい店いい料理を見つけてしまったと、一人で思わずにやけてしまった。

ライムをしぼるとさっぱり感が増してこれもうまい。もやしやレタスを追加するとシャキシャキという食感が新たに加えられ、楽しい。香草類を追加すると味と香りに奥行きがでてぐっとクオリティが上がったような気がした。そして意外な食材が、いんげんであった。こんなにも甘くて味の濃いいんげんは初めて食べた。そのままぼりぼりと食べても満足する。肉みそと一緒に食べると、格別であった。日本にいるときにはノーマークだった食材がラオスにきてこんなに光りだすとは。帰ってからはもう少しいんげんの存在を意識してみよう、と思った。
あっという間に平らげ、実は一緒に頼んでいたガパオライスも完食し、大満足で店をあとにした。

昼寝をし、おいしいもので腹を満たしたあとは穏やかな気持ちで市内を散策した。観光客向けのお土産屋や飲食店が多く立ち並んでいるので、カフェに立ち寄ったり土産物を買ったりしてよい時間を過ごした。

気が付くと時刻は午後17時過ぎ。17時半の日の入り時にある目的があったので、そこに向かった。

-S.O.

橘始黄

タチバナハジメテキバム
小雪・末候

クルン・サイアム 中目黒店

タイ料理好きの方なら「おや?」と思ったかもしれないが、カオソーイという料理は実はタイ料理にもあるのです。麵料理である点は同じだけれども、タイ料理の方はカレースープに小麦麺が入っているもの。どうやらミャンマーからラオス北部に広がり、その後タイ北部に伝わったそうです。伝播の過程で変化していったのでしょう。
そんなカオソーイですが、日本でラオス版を食べるのはなかなか難しそう。一方タイ版は気軽に食べられるので、まだ味わったことがない方はぜひ。イチオシのお店をお教えしておきますね。


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ルアンパバーン紀行 第2話:カオソーイといんげん豆
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