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dhrma インタビュー エレクトロな要素を“歪んだ”ビートに昇華。独自のスタイルを持つビートメイカーが語る制作の楽しみ

私が「サウンドパックとヒップホップ」「極上ビートのレシピ」の連載を行っていたメディア「Soundmain Blog」のサービス終了に伴い、過去記事を転載します。こちらは2023年2月16日掲載の「極上ビートのレシピ」の第2回です。


SpotifyやApple Musicといったサブスクリプション型ストリーミングサービスの浸透以降、リスナー数が急成長したインストヒップホップ。ここ日本でも活気溢れるシーンが形成され、その中から国境を越えて大きな支持を集めるビートメイカーも増加してきている。この連載「極上ビートのレシピ」では、そんなインストヒップホップを制作する国内ビートメイカーに話を聞き、制作で大切にしている考え方やテクニックなどを探っていく。

第2回に登場するのはdhrma。兵庫を拠点に活動し、エクスペリメンタルソウルバンド・WONKを擁するレーベル〈EPISTROPH〉の一員としても知られているビートメイカーだ。ラッパーやシンガーへのビート提供やリミックス制作の他、Bandcampで精力的に作品を発表。さらに〈EPISTROPH〉所属のビートメイカーが中心となったビートライブイベント「Table Beats」でも活躍している。その作風はJ Dillaからの影響を感じさせるスタイルから出発しつつも、多彩な要素を柔軟に吸収してエレクトロニックで狂暴な側面も見せるもの。今回はそんなdhrmaに、制作方法やBandcampの魅力、音楽をすることの楽しさや表現を行う理由などを話してもらった。

地元のレコード屋から始まったビートメイクの道

――ヒップホップへの入り口は何でしたか?

本当に初めは、多分m-floだったかな。元々「音楽がめちゃくちゃ好き」とか「楽器をやっていた」とかでは全くなくて、中学生だった時にたまたまテレビを点けたらm-floが出ていて。そこから「これはラップ、ヒップホップというものなんだ」となり、そこからどんどん広がっていきました。今も大好きで、ずっと聴き続けています。

――最初はラッパーとして活動していたという話を聞いたことがあるのですが、ラップはどういう流れで始めたんですか?

ラップは「歌の上手い下手じゃなくて、とりあえずリズム感がかっこいいな」と思って、やってみたくなったんですよね。でも、まず「ラップをやるって何すれば?」みたいなところからわからなくて。ライミングとかの知識も全くなかったですし。それで地元(兵庫県加古川市)の「Factory No.079」というセレクトショップ兼レコード屋さんに行って、「ラップをやりたいんですよね」と言ったら色々教えてもらいました。そこからでしたね。

――その後ビートメイクを始めたそうですが、始めたての頃はラップするためのビートという感じでしたか?

いや、インストだけで完結させようみたいな意識は当時からありました。

――過去のインタビューでも触れられていますが、やはりJ Dillaからの影響は大きかったのでしょうか?

そうですね。そもそも、インストだけのアルバムという概念がJ Dillaを知るまでなかったんです。最初はラップするためにシングルに入っているインスト目当てでレコードを掘っていたんですが、Dillaのアルバムにはその流れで出会いました。それで「ビートだけでもアルバムになるんだ。面白い」と思ったのがビートメイクを始めたきっかけですね。なので、「自分がラップするためのビートを作ろう」みたいな意識はなかったです。やってはいましたけどね。

――なるほど。インスト作品を聴き始めた頃は、J Dilla以外では何を聴いていましたか?

最初はFactoryの人や地元の先輩から「Dilla好きやったら絶対Madlibも好きやで」みたいな感じで教えてもらって、そこから自分で掘り出してOh Noとかの〈Stones Throw〉周辺のアーティストを聴いていましたね。レーベル伝いでディグしだしたのもこの頃からです。

――地元の方々からはビートメイクも教わったそうですね。

ビートメイクに興味を持った時、「作曲って難しそうだな」って思っていたんですよね。でもFactoryの人から「サンプリングというものがあって、このレコードのドラム、このレコードのウワネタを組み合わせてビートを作るねん」みたいに教えてもらいました。自分が初めてビートを作ろうとしている人に教えるとしても――特にヒップホップのビートではということですけど――ウワネタのメロディがなめらかに繋がるように意識することを、まずは最初に教えるかな、と思います。

最初に入手した機材も、たまたまFactoryが預かっていた中古のMPC1000でした。みんな使っているし、「これを使えばいい音が鳴る」みたいなイメージがあったので、2000XLが元々はほしかったんですけど高かったんですよね。そんな時に同じMPCシリーズの1000がFactoryに入ったので買わせてもらって、自転車のカゴに入れて持って帰りました。


ハードで作る良さは「手で作っている感じ」

――制作環境はそこからどういった変化をしていきましたか?

MPCで作ったビートを書き出す時にDAWが必要なことがわかったので、Ableton Liveを買ったんです。それでAbletonでもビートを作ってみようと思ったんですけど、視覚的な情報がMPCとは全然違うのですぐ「わかんね~」ってなっちゃったんです。チュートリアルも見たんですけど、当時は今ほどヒップホップのチュートリアルが少なかったように思います。サンプリングの仕方もチョップの仕方も全然わからなかったので、Abletonを使っている先輩の家に行って基本的な流れを教えてもらいました。

そこからDAWはずっとAbletonだけですね。ハードはあとASR-X。Kanye Westが使っているASR-10ではなく、もうちょっとサンプラーっぽい見た目のやつですね。あとはSP-404のSXとMK2を使っています。人からいただいたりして増えていきました(笑)。

――それらの機材をどのように使っていますか?

Abletonだけで作るのがほとんどなのですが、最近はハードの良さを実感することが増えています。手で作っている感じがすごく好きなんですよ。Abletonは視覚的な情報が多くて、良くも悪くもなんでもできすぎるところがあるんですよね。それがしんどくなった時にMPCを触りたくなったり、SPで作ってみたりしています。それでいいのができたらAbletonに流し込むみたいな感じです。ハードを触る時は遊びの延長で、自分が楽しむようにやることをすごく意識していますね。ハード機材ならではの音の質感はそこまで狙っていないです。

――制作はサンプリングがメインですか?

そうですね。ただ、最近は結構シンセも入れるようになってきました。サイン波をコードにして、そこからストリングスを入れて、最終的にはサンプリングした箇所を抜いてシンセだけにするみたいなパターンも有ります。ドラムはサンプリングが多いので、できたものの構成要素としては半々くらいなのかな。

――最近サンプリングする時にはどういうジャンルの曲を使うことが多いですか?

テクノとかが多いですね。あとはノイズやダークアンビエントとか。以前アボかどさんがレビューを書いてくれた『Stiff ya bitvh liked』というビートテープの延長で、作るビートがどんどん無機質になっていっています。コントラストを付けるのが好きなので、無機質な音に対してオーケストラとかのサンプリングを入れることも多いです。ヒップホップ的なベタというか、往年のジャズやソウルは全然サンプリングしなくなりました。ジャズの要素を使う時も、ノイズとかを掘る過程でたまたま見つけた「ジャズを踏まえたもの」みたいなソースを使っています。


“歪み”に感じるロマンと「あるべきところに存在するべきドラム」

――ビート作る時のルーティーンはありますか?

ほぼウワネタからですね。そこからドラム、ベース。作りながら展開を考えるみたいな感じです。制作で一番時間をかけているのは展開の部分で、ドロップや声ネタの入れ方を考えるのに1日はかかるし、2日目に行くこともあります。「どう展開させたら面白いかな」と思いながら作っていると違うループができていって、最終的に1曲に3つくらいのループを作る形になります。とにかくビートだけで完結させたいという思いが強いので、凝ってしまうんですよね(笑)。

――時間をかけるタイプなんですね。

それが面白いので(笑)。昔と比べてめちゃくちゃ時間をかけるようになりました。最近はサンプリングする時もフレーズを抜くみたいなことをしなくなったんですよ。ノイズみたいな感じでパーツを抜き取って、不協和音にならないように組み合わせて作るみたいなことをしています。なので、必然的に1曲の中に複数の曲をサンプリングすることも増えてきていますね。

――圧の強いベースの質感が特徴的だと思うんですけど、どのように作っているんですか?

あえて(ボリュームのメーターを)赤に振るみたいな感じです。若干割るというか、クリップさせて作っています。ミッド感を強くすることで、前に目立たせることができるなと思っていて。あと、一番意識しているのは音が歪む部分ですね。ハイの部分とロウの部分がグシャってなった時にちょっと揺れる、みたいな。

――確かに、「歪み」みたいなダーティな音の要素がお好きなイメージがあります。

Mobb Deepの昔のデモが見つかりました」みたいなものがたまにネットに上がったりするじゃないですか。ああいうガッスガスのビートがめっちゃかっこいいと思うんですよね。「汚れたテープを無理矢理データ化しました」みたいな。Dillaの未発表ビートにも同じことが言えますよね。そこにロマンがあると思っています。

――その他にビートメイクでよく使うテクニックはありますか?

最近はドラムを手で打つことをあまりしなくなりました。もちろん強引な、めちゃくちゃヨレているみたいなドラムは大好きなんですけど、「あるべきところにドラムが存在するべき」みたいな考え方になってきたんですよね。「ドラムって何のためにあるんやろう?」って考えたときに、「スネアから次のキックの間の空間をどう気持ち良くさせるか」が大切だと気付いて。無理に手で打って不自然だと自分が思っちゃうくらいなら、打ち込んだほうがいいなと。その結果、ドラムがないところをどう聴かせるかや、ドラム以外のところへの意識をすごく大事にするようになりました。音数もそれで減っていきましたね。


とにかく楽しむことが大切

――初期はチルい感じのビートを作られていましたが、気付いたらめちゃくちゃ尖ったビートになっていた印象があります。特にエレクトロっぽい要素が入ってきてからの進化がすごいと思うんですけど、どういったきっかけがあったんですか?

実は、チルなものを作っていた時からエレクトロの要素を入れたいという意識はありました。MEDが2005年にリリースした『Push Come To Shove』というアルバムを聴いてから、「シンセベースみたいなブリブリした音を作りたい」という気持ちはあったんですよね。僕はアルバムを作る時はコンセプトをしっかり決めてから作るんですけど、ある日それで「自分が好きな音楽は何か?」と立ち返ってみた時があり、ああいうシンセを入れたビートをやりたくなりました。

――新しい挑戦になったと思うのですが、どうやって形にしましたか?

とにかく音を足していって、自分の出したい音以外を抜く、といったことを繰り返しました。それでチルな要素がなくなっていったのかなと思います。でも、混ざっていた時期もあったと思うんですよ。ストリーミング配信の一発目で出した『I against I』というビートテープとかがそうですね。

――作風を変えることに抵抗のある人もいると思うのですが、そのことについてどう考えていますか?

自分が楽しかったら全然問題ないなって感じですね。僕の場合は新しいことをするにしても、奇を衒うみたいな気持ちは全くないんですよ。それに、どこか共通している部分、自分が出したい部分って一貫してあると思うんですよね。それを自分の中で守っているならそれでいいと思います。聴いていただいている人にも変化を楽しんでいただけているのなら、何よりも嬉しいですね。アーティスト冥利に尽きます。

――先ほどドラム以外の部分への意識という話が出ましたが、制作で意識していることや大切にしていることは何か他にありますか?

とにかく楽しむことですね。作業にならないようにしたいんです。あと、視覚的なインスパイアを大切にしています。音楽をリファレンスにするとどうしても似通ってしまうので、音楽じゃないもの、たとえば服のデザインとかからインスピレーションを得たりしますね。「ごちゃごちゃしてないけど、シルエットはめっちゃ可愛い」みたいな、シンプルかつエッジの効いた物が好きで。自分の音色とそこが重なっているのが面白くて、服を見たりしながらビートを作っています。


フォトグラファーやパロサントとのコラボレーション

――最近Bandcampで出たEPの『HELLO, HELLO』は、質感的にはエレクトロ要素が控えめなオーガニックな響きの作品でしたが、あれは何にインスパイアされたんですか?

フォトグラファーの友達と一緒にZINEを作ることになって、サウンドトラックとして制作した作品があるんですよね。『HELLO, HELLO』はそのZINEの作品の延長でできた作品です。ZINEの作品を作る時には「寄り添う音楽」「馴染む音楽」みたいなものを目指したんですが、自分の主張もやっぱり出てきて、その矛盾も楽しみながら制作しました。(ファッションショーの)ランウェイの音楽、ああいったものにも触発されて作りました。

――ラッパーと一緒に作ることは結構あると思うんですけど、フォトグラファーと一緒にやるのはなかなか面白い話ですね。そういう異種格闘技的な作品って他にありますか?

去年はクロージングショップを運営している「ORVS」という友達のクルーのグッズとしてパロサント(=天然香木)と抱き合わせでビートテープを作って売るということをしました(※セット商品は現在売切れ)。ライブで映像作家さんと一緒にやる機会をいただいたこともありましたね。写真と一緒に作ったのは今回が初めてで、いい体験になりました。他の分野の方から投げかけてもらったテーマを自分なりに咀嚼して作るのは楽しいです。

――人と作るといえば、同じビートメイカーからの刺激についてお伺いしたいです。「Table Beats」然り、ビートメイカーがご自身の周りに多いイメージがあるのですが、仲間内で共有しているテクニックなどはありますか?

「Table Beats」はお互いに見て盗むみたいな感じで、テクニックの具体的な話はしないんですよね。でも、いい意味でお互いに影響し合っているみたいなことはあると思います。それと合わせて、友達の家に行って膝を突き合わせてセッションする時にテクニックをシェアすることが多いかなと思いますね。

あと、地元が同じクルー「CERF VILLIE」のメンバーにcarolineというビートメイカーがいるんですけど、彼からはよく刺激をもらっています。作る音楽が僕みたいにビートメイカー然としていなくて、もっとニューエイジっぽい雰囲気なんですよね。僕は音数を引いていってどんどんシンプルにしていこうみたいな感じなんですが、carolineはゴリゴリに音を足して立体的に音を作る。一緒にセッションする時はパワーをもらっています。

実際に作業しながら感覚を掴んでいくという点で、言葉で説明するより、セッションが一番早いと思うんです。環境に恵まれているなと感じますね。


Bandcampでの作品はアルバムではなく「ビートコレクション」や「日記」

――非常に頻繁にBandcampに作品をアップしている印象があります。Bandcampというプラットフォームの魅力は何だと思いますか?

ストリーミングよりリリースするのが手軽なところですね。できたビートを自分の意のままにポンポン上げられるところが良くて、新曲を作ってSoundCloudに上げるみたいなノリに近い感じでできるのがいいです。作品として最低限コンパイルしてシェアすることで、自分の中で消化されるような感覚があるんですよね。実験レポートみたいな側面もあって、その時に考えていたことをとりあえずシェアする、みたいな感じで使っています。

Bandcampに上げる作品は好き勝手に作った、コンセプトやまとまりを考えていない不完全なものなんですよね。なのでアルバムじゃなくて、「ビートコレクション」とか「日記」みたいな風に言って出すことが多いです。

――去年出されていた『Funeral IV』はトラップやエレクトロニカなどの要素を感じる面白い作品でした。あれはどんなことを意識した作品だったんですか?

あれはトラップやドリルを聴いていた時期のものですね。音使いはエレクトロ然としたと思いますが、スタンス的にはヒップホップとして作りました。むしろ『HELLO, HELLO』のほうが自分の中では突飛な作品で、「ヒップホップから角度を広げて」みたいなマインドで作ったんですよね。

――なるほど。今回の連載の趣旨からは少し外れるのですが、最近出していたSilent Killa Jointのシングル「Final distance」のリミックスは『Funeral IV』での作風と通じるものを感じました。

制作時期は違うんですけど、意識はその延長で間違いないですね。『Funeral IV』でもブートレグのリミックスをやりましたが、ボーカルものは声を楽器として考えるみたいな意識で作っています。リミックスではなく提供する時に関しても、基本僕はビートを全部作ってからではなく、ある程度簡単なループだけ組んだ4~6割くらいの状態のものをラッパーの人に渡すんです。それで返ってきたものをこっちで10にして完成、みたいな感じで作っていて。

ですが、去年のseep minutes君のアルバム『MINUS』(※CDリリースのみ)に入っている「LOVE」という曲のビートに関しては最初から収録されている状態でした。元々インスト曲としてBandcampに上げていたものなんですが、seep君から「これ買わせてよ」って連絡が来て(笑)。で返ってきたら、「ほんまにseep君に渡せて良かった」って思えましたね。

――「LOVE」はかなり尖ったビートでしたが、そんな経緯があったんですね。ちなみに、Bandcampってリスナーのマップを見ることができるじゃないですか。あれによるとどこのリスナーが多いですか?

日本のリスナーが一番多いですね。SNS経由で来ていただくことが多いのと、フォローしてくれた人にはメールで通知が行くのでそこから買っていただいているようです。InstagramやTwitterほどではないですけど、フォロワーは作品を出すたびに増えていますね。

――当たり前と言えば当たり前のことなんですけど、日本でもインストの音楽が聴かれる土壌がしっかりとあるんですね。

そこに関してはすごく嬉しいですね。Bandcampで成り上がってやろうみたいな気概は全くなくて、好きなものを上げていくみたいな感じで使っています。


最高のビートメイカーだと思っていても、J Dillaと同じことはしたくない

――「史上最高のビートメイカー5人」を挙げるとしたら誰になりますか?

まぁ、1人目はJ Dillaですよね(笑)。僕はDillaのミックスがすごく好きなんですよ。スネアだけめちゃくちゃデカかったり、「ほんまにスカスカのブレイクです」みたいな曲もあったりして。知識がなかった頃に聴いた時から異質なものを感じていて、ずっと「Dillaってヤバいな」と思っています。

ただ、こんな言い方をするのはあれなんですけど、僕はDilla然とはしたくないんですよね。たとえば、今だとドラムにクオンタイズをあえてかけたりとかしています。影響を受けているのは間違いないし、最高のビートメイカーだと思っていますけど、今は逆説的に表現したいみたいな意識が常にあるんですよね。Dillaと同じことは絶対にしたくない。でも、そう思わせてくれるのはやっぱりDillaがすごいから……みたいな(笑)。

――なるほど。他にはいかがでしょう?

Flying Lotusです。色んなジャンルを単純に手法としてのサンプリングだけじゃなくて、咀嚼して自分の音を作っている感じが好きですね。僕は「よりミニマルな表現をしたい」というモチベーションがあるんですけど、同じように「膨大な要素を咀嚼して、自分のものにする」みたいな意識でビートメイクしています。そしてBurial

――その流れでBurialの名前が出てくるのは、なんとなくわかります。

テクスチャーが圧倒的なんですよね。自分が思う「エレクトロ感」の一番初めに出てくる人物です。あとはMonte Booker。やっていることは全然ブーンバップではないのに、Dillaを感じる。さっき言った「逆説的な表現をしたい」という話にも繋がってくるんですけど、別物のようで影響されているものを出せるのは、芸術家として理想的なスタンスだと思っています。

最後に竹村延和さんというアーティストです。今の情報は全然知らなくて、20年前とかの作品を聴いているんですけど、最近毎日聴いています。〈Childisc〉というレーベルをされている方みたいで。サントラのような音楽を作っていらっしゃるアーティストで、調べたんですけど「子ども」がテーマにあるらしくて。懐かしいけどちょっと悲しい気持ちになる、でもシリアスじゃなくてユーモラスにという指針が明確で、そこに持って行かれました。

現段階の自分にとっての「史上最高のビートメイカー」はこの5人です。こうやって見返すと、エレクトロのアーティストがめちゃくちゃ入ってきているなって思いますね。ただ、説明の中で(エレクトロという)名前は使いますが、自分の中で音的なジャンルの括り、垣根をなくしていきたいと思っています。

――近い距離にいるアーティストで、シンパシーを感じる人はいますか?

先ほども名前を出したcarolineですね。自分と同じような音を作っているわけではないんですけど、話していると好きな音や気持ちが上がるポイントとかは似ているなと思ったりします。

あと「Table Beats」の仲間で、一緒にBLACKVVATCHというユニットも組んでいるPhennel Kolianderさん。好きな音楽とかもすごく似ていて、ユニットを組んでいる理由もそこから繋がっているように思います。Kolianderさんも実験的だし、Dilla好きだし。自分にしかできないことをやろうとされるところにシンパシーを感じますね。


コミュニケーションを取るためにビートを作る

――今後新たにやってみたいことはありますか?

モジュラーシンセとかMaxとかを制作に取り入れてみたいなと思っています。それこそ、アボかどさんが記事をシェアされているのを見て興味を持ったんですけど、モジュラーシンセでブーンバップを作る「モッドバップ」というジャンルがあるんですよね。とはいえ自分は学もないですから、まずは偶発的な使い方から始めたいと思っています。

――せっかくアルバムを作られている話を聞いたので、アルバムの話も聞きたいと思います。それはBandcampで出す日記のような作品ではなく、ストリーミング配信でもリリースする作品になるんですか?

そうですね。昨年レコードを出させてもらった〈Onda Bubbles〉という、京都のDJ CH.0さんが設立したレーベルからリリースする予定です。どうなるかまだわからないですけど、レコードにもなるかもしれません。

――コンセプトをしっかり決めて作るとのことですが、今回のアルバムはどういうコンセプトになるんですか?

「独りで彷徨う」みたいなコンセプトです。コロナ禍から制作をスタートしたというのもあるんですけど、「独り」というテーマにフォーカスしていて。僕がBandcampでシェアするのって、「シェアしないと次に進めへんから、とりあえずシェアしたい」みたいな思いがあるんですよ。独りよがりかもしれないんですけど、それは自分の中では「コミュニケーションを取りたい」という気持ちがあってのことなんです。

ビートライブでも、自分はオーディエンスとコミュニケーションを取っている気分になっているんですよね。コンプレックスも少なからずあって、大勢で居たり人とがっつり喋るのは苦手なんですが、自分の表現、制作後やライブ終わりは肩の荷が下りたような気がする。それで、「表現の先に、人とコミュニケーションを取りたい自分がいる」と思ったんですよね。その時の自分のエゴを表現に叩き込むことによって、人を真っすぐに見られるような気がしていて、続けることで主観的ですがより良い人間にもなれるのかなと思っています。

誰とも膝を突き合わさずに独りで作曲して、その後に見える景色がより前向きになれているのか……みたいな。今回のアルバムはそういうテーマですね。

――なるほど。現段階では、音楽的な面での方向性はどういうものになりそうですか?

今はダンスミュージックの影響を強く受けているので、BPMが速いものも入ったりすると思います。あと共通して言えることは、シンプルで無機質ですね。サイン波のコードがメインで構成されていて、そこにノイズが入ってきたりする作品になりそうです。

――客演のアーティストは入る予定ですか?

インストが中心で、アクセント的にラッパーが入るみたいな作品になりそうです。ラッパーは海外のアーティストが多いですね。

――なるほど。濃厚な作品になりそうですね。アルバムも含め、今後の活動も楽しみにしております!


dhrma プロフィール

無機質と有機質のコントラストをテーマに掲げ、常に実験的でありながらも唯一無二の音像を構築している兵庫県加古川市出身のビートメイカー。

これまでのリリース数は膨大で、Bandcampにて自主作品の定期的なデジタルリリースや、エクスペリメンタルソウルバンド-WONKを擁するレーベルEPISTROPHから配信リリース等数多くのビートコレクションを世に放っている。

2022年にDJ Ch.0主宰レーベル〈Onda Bubbles〉より自身初となる12inch EPをリリースした。
https://ondabubbles.theshop.jp/items/63467859

Twitter:https://twitter.com/d_h_r_m_a
Instagram:https://www.instagram.com/dhrm_a/
Bandcamp:https://dhrma.bandcamp.com/

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