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著作権のこと

先日のnote『「イラストを描く人」と「イラストを依頼する人」が知っておいた方が良いこと』の中で、『イラストの制作料(ギャラ)というのは依頼料ではなく利用料だから、使用範囲を広げたい場合にはその都度許可が必要で「二次使用料」っていうのを支払わないといけないよ』っていうお話をしました。

法律で決まっていても「こういうのはややこしいから、いっそのこと著作権譲渡(買い取り)でいいんじゃね?」と思う方もいるでしょうね。
いちいち許可を取らなくても良いので、依頼する側はそのほうが便利でラクですけど、作者側は著作権を譲渡すると大きなリスクを抱えることになります。
「著作権」というのはありとあらゆる権利が含まれていて、グッズ化やアニメ化する、なんていうのも可能になります。
また、更に権利が別の所へ移されて、変なお店のキャラクターに使われてしまう、なんてことにもなりかねません。
自分の知らない所で意に沿わない使われ方をするかもしれない、というのを忘れず、目先の損得にとらわれないようにしないといけないのです。
だからこそ「著作権譲渡」に関して作者側はとても慎重ですし、使用目的や期間等で取引が高額な料金になることもあるんですね。

ちなみに、著作権でわかりやすいものは「複製権」でしょうかね。「無断でコピーするのは著作権の侵害にあたる」というのは聞いたことがあると思います。
こういった、様々な権利の集まりが「著作権」です。

著作者の権利

作品を作った人(著作者)の権利は、「著作財産権(著作物を活用して収益や名声などを得ることができる財産的権利)」と、「著作者人格権(著作物の内容と著作者を紐づけることで、著作者の人間性を正確に表現する人格的権利)」に分類されます。
「財産権」は他人に渡すことができで、この財産権を譲渡した場合には「公表を認めた」という扱いになります。(権利を持つ人や企業は「著作権者」と呼ばれます。)
「著作者人格権」とは、作者の名誉や作品への思い入れを守る権利で、感情的な部分についての権利(財産的な価値についての権利とは別)をいい、具体的な内容は以下の4つです。
1. 公表権(未公表の作品を公表するかどうか、公表の時期、方法を決める権利)
2. 氏名表示権(著作者の名前を表示するかどうか、名前を表示する場合実名を表示するかどうかを決める権利)
3. 同一性保持権(作品を無断で修正されない権利)
4. 名誉声望保持権(作品が著作者の名誉を害するような方法で使用されることを禁止する、著作者の社会的評価を守る権利)

「著作者人格権」は著作者にあり、法律上譲渡のできない権利です。
財産的価値についての権利(著作権)については契約書で譲渡することはできても、著作者人格権は著作者に残る、ということですね。

契約書に書かれている文言

この、「譲渡できない著作者人格権」ですが、契約において「著作者人格権を行使しない」や「すべての著作権および著作者人格権を譲渡する」という約束を提示されるケースがあります。
作者や制作会社に著作者人格権を行使しないことを約束させて、納品された著作物を修正等も含めて自由に使えるようにするために必要な契約条項、として契約書に書かれていたりするんです。
とある会社が、デザイン会社にウェブサイトの制作を発注したとします。
納品されたものは、制作会社の了解なく自社で修正したり他の制作会社に修正を依頼することができなくなるので、契約書で「制作会社が自社に対して著作者人格権を行使しない」というのを明記しておく必要があるわけですね。
この契約内容でデザイン会社がサインをすれば、自由に修正ができるようになるわけです。

イラストを描く仕事をするならば、「納品と同時に著作権譲渡する」や「著作者人格権を行使しない」等の文言がないか、契約書の内容は慎重に確認しましょう。
企業キャラクターなどはそれなりの金額を頂戴して譲渡するケースはありますが、「著作者人格権の不行使はいかなる場合でも断る」という著作者が多いようです。
これは、著作者から必要以上に広い範囲の権利を取り上げることにあたり、著作権譲渡問題と並ぶくらい大きな問題だからです。

著作者人格権不行使特約の必要性

「著作者人格権不行使」の文言がある契約を結んでしまうとどんなことになるか?考えてみましょう。
先述した「氏名表示権」を行使できないとなると、作者名を違う名前に変えられても文句は言えません。
「同一性保持権」を行使できないとなると、キャラクターの表情やポーズ、作品の構図が大幅に変えられても黙認するしかありません。
「名誉声望保持権」を行使できないとなると、作品がアダルトサイトに使われても何一つ文句を言えないわけです。

怖いですよね〜。

でもね、よく考えてみてください。
イラストレーションを業務に使う上で、「氏名表示権」と「名誉声望保持権」についてはその権利を取り上げる必要はないはずですよね。
だから、作者側は契約書に「著作者人格権を行使しない」等の文言があった場合はここをしっかり突っ込みましょう。
そして依頼側は、業務上必要な範囲に限定した不行使特約を入れた契約内容にしてほしいと思います。
いえ、そうすべきです。
イラストを描く側にリスクが大きい、広い権利の不行使を含みすぎる点がとても問題視されていますので。

以上、「著作権」とは作品を創作した者が有する権利で、作品がどう使われるか決めることができる権利です。
関連するいくつもの権利の集まりが著作権で、理論上は「バラ売り」ができるということになるんですけど、先に述べた「著作者人格権」については、譲渡できない著作者に残る権利というのを覚えておきましょう。
依頼者と著作者の双方が納得できる契約内容で、気持ちよく仕事がしたいものです。

みなさまのご支援に感謝します。