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ロシア人ジャーナリストが分析するプーチン政権とロシアの今後:帝国主義の行方はいかに?

ロシアのウェブサイト 「ソタビジョン」の6月10日の番組 「なにが起きているのか」の
20代のジャーナリスト、アルチョーム・クリーゲル氏と、
71歳の元下院議員ジャーナリスト、イーゴリ・ヤコベンコ氏(71)との対話から、

「ロシアはなぜこうなってしまったのか」について、プーチン政権の内情をみてみました。

プーチン大統領が、2000年代にロシア経済成長させた反面、欧米と対決姿して独裁体制を確立した背景と、今後のロシアについて語られている記事です。

汚職で財を築いた副市長時代から、権力のとりこになった大統領時代、そして、現在の戦争時代に至る経緯で

ベルリンの壁崩壊後のエリツィン政権の、自由だったが不安定だった民主主義、プーチン政権への移行の中で、自由が奪われつつも抵抗できなかったロシア市民の様子が語られています。

西側諸国の民主主義による繁栄に乗り遅れたロシア人の、ある種の劣等感を、プーチン氏は「帝国シンドローム」というロシア人至上主義にすり替えます。

ヒットラーがユダヤ人を痛めつけることから虐殺にいたったのと同じ流れで、プーチン氏はウクライナ人を支配することの優越感で、ロシア人の心の闇を埋めようとしています。

ウクライナ侵略でロシア人が得たものはロシア至上主義の優越感であり、失ったものは、西側諸国から得ていた携帯や車、ファーストフードの自由経済でした。

10万人規模で、自由主義経済を求めるロシア人がロシアから脱出し、ファシズムを信じる人、言論統制に抵抗するのを諦めた人がロシア国民です。

今後も、反対者を刑罰法で取り締まり、デモを武力で鎮圧する恐怖政治と、国営テレビの独占的な情報操作によるプロパガンダで、ロシア人は洗脳され続けます。

そのため当分は、プーチン独裁政権は崩壊することはなく、もし次の展開があるとすれば、

プーチン氏がいなくなるか、
軍事的な大失敗があるか

そのなかで、ヤコベンコ氏は

「いまウクライナ軍はこの体制を崩壊させるために勇敢に戦っている。」と評価しています。

面白い記事ですので、是非、皆さんも読んでみてください。
北方領土で忍び寄るロシアの今後から、私たちは決して無関心ではいれません。


「プーチン体制はウソと暴力の体制だ」 71歳ジャーナリストがロシアの若者と語る[2022/06/19 10:40]

◆ 人びとは「情報カプセル」の中に閉じこもっている

アルチョーム  

プーチンが大統領となった2000年代は素晴らしい経済成長の時代だった。最新型の洗濯機はある、クルマもある、給料も上がる。もう政治なんかどうでもいいじゃないか、街路に出て「抗議のデモ」をする必要なんてない、と多くの人が考えるようになった。
なぜロシア人はこうも簡単に、「デモなんて必要ない」「政治なんてどうでもいい」となってしまうのか。

ヤコベンコ  
たしかに2000年代前半には経済成長があり、ロシア人がこれまで経験したことのない良い生活があった。年金も給料も上がった。しかしおぞましいことも起きていた。
「独立テレビ」は閉鎖された。

わたしは当時ロシア・ジャーナリスト連盟の理事で、「プーチンは自由なメディアの敵だ」と言うと、支持してくれるジャーナリストもたくさんいたが、「なぜ必要のないことにくちばしを突っ込んでいるのだ。仕事も生活も普通にできるし、誰も邪魔をしないのだからいいではないか」と多くの人に言われた。
これが大衆の気分だったと思う。生活も安全も保障されていればそれでいい、という気分だ。

ジャーナリストやクリエーターたちも、海外へ自由に行けるし、自己実現したいなら外国へ行って勉強して職に就けばいい、という気分だった。
こういった状況では「街路に出てデモをしなければ」という、突き動かされるような感覚はなかった。

生活水準の向上はプーチンのおかげではなく、前の時代からの経済対策の結実だという人もあったが、これは証明するのが難しい問題だ。

人びとはテレビばかりを見るようになり、まったく別の「情報カプセル」の中に閉じこもってしまった。
一度「情報カプセル」の中に入ってしまうと、別の視点で世の中を見ることができなくなってしまう。
一人の人間に対しても、そこからひっぱりだすのは難しいのだから、数百万人もが同じ「情報カプセル」に入ってしまっては、もうお手上げだ。

ファシズムの誘惑は共産主義の誘惑同様、きわめて深刻な誘惑だ。

◆ あの日、プーチンは西側に果たし状を叩きつけた

アルチョーム 

2010年代はクリミア、ウクライナでロシアは集団ヒステリーのようだった。
チェチェン紛争と2008年のグルジアとの戦争の後のヒステリーもわかる。
でも、こんなことになるとは思わなかった。

ヤコベンコ  

ロシアの孤立主義は2007年のミュンヘン安全保障会議でのプーチン演説で表明され、「孤立主義的ファシズム」が始まった。

プーチンのキャリアには三つの段階がある。
第一段階は「不正汚職時代」。ペテルブルクの副市長だった1990年代前半から2006年までだ。不正をして盗める物は何でも盗むという泥棒時代。
プーチンにとってはカネがすべてで大統領職など考えてもみなかった。
だが、大統領になってみると、大統領の立場を利用しても「盗み」ができるとわかった。

第二段階は、大統領となった後、権力が生き甲斐のすべてになった「皇帝時代」。大国の皇帝としての権力への固執だ。
2007年のミュンヘン演説はこの第二段階の始まりだ。
自分一人で世界全体と対決しているような気分で、アメリカの一極主義を批判した。

そして第三段階が「戦争時代」。
プーチンは生きている限り戦争を続ける。プーチンは戦争を止めない。

◆ 「敗北の負のエネルギー」を利用するプーチン

アルチョーム  ロシア人は政治に関心ももっていなかったのに、2014年になると急に、「ウクライナだ」「ナチズムだ」「民族主義者だ」といろいろと言い出した。
ロシア人はどうしてそんなことを信じたのだろう。わたしにはウクライナに大勢の親戚がいて、行ったり来たりしていたし、2013年にウクライナに行った時も、別にプーチンへの批判もなかった。

ヤコベンコ  「帝国シンドローム」というのは、「自分たちは他の者より上にいる」という意識だ。貧乏であっても、たとえ酔っぱらって自分の吐いたヘドの中に無様に転がっていても、「俺はロシア人だ。ロシアは偉大だ、だから俺はどんなアメリカ人よりもドイツ人よりもウクライナ人よりも上だ」と意識することだ。

そうなると、どんな嘘でもやすやすと受け入れるようになる。
「ヨーロッパには精神性がなく、すべてが汚濁にまみれていて罪深い。価値はなく、ヨーロッパの人間はみんな病的な異常者だ」――こんなことを簡単に信じ込んでしまう。

「帝国の病巣」とは「ロシアは偉大であり、ロシア人はどんなヨーロッパ人やウクライナ人よりも上位にある。われわれには世界を支配する権利がある」という意識だ。

帝国意識を燃え上がらせるのに、
テレビの番組でちんちくりんのウクライナ人を呼んでバカな芸をさせて笑いものにする。
ポーランド人がヘマをしてひっぱたかれるのを、自分はトレーナーで裸足にスリッパをつっかけてビールを飲みながら見て、「ポーランド人はバカだなぁ!」と笑う。
自分はあんなバカじゃないし、間抜けじゃない、自分の方が上だ、と内心で思う。自分を誰かほかの人より上だと感じることが快感なのだ。

これは第二次大戦の時のドイツ人の感覚と同じだ。
ドイツ人がユダヤ人に対してやったやりかただ。それが、次には「ユダヤ人がドイツ女を強姦した」という話になる。見たわけでもないのも誰かがそれを新聞に投書する。
それがドイツ人の鬱屈した帝国意識と第一次大戦の敗戦の屈辱感と結びついて、憎悪の火を燃え上がらせる。
敗北の負のエネルギーは「どす黒いエネルギー」だ。この「どす黒いエネルギー」は憎しみの出口を求める。
プロパガンダがその出口を与える。「あいつが原因だ」と。

「ソ連は偉大だった。いまは小さくなった。なんとか征服してでも大きくなろう、ではどこを征服するか… ウクライナ人が悪いのだ」となる。
プーチンが作り出したプロパガンダは「帝国シンドローム」と「敗北の負のエネルギー」を巧みに利用したのだ。

◆ 独裁者の体制が崩壊するなら外部からだ

アルチョーム  わたしたちの世代はヨーロッパ的な快適な生活に慣れてしまっている。携帯電話が欲しいと思えば買えるし、クルマでも時計でも欲しいと思えば買える。品不足で行列を作る時代には戻りたくない。そこそこの自由もある。
これからどんな時代に生きることになるのか。

ヤコベンコ  たぶん新しいiPhoneは買えなくなる。好きなクルマを選ぶことも無理だろう。でもそれに対する反応はさまざまだろう。

ロシアを捨てて他の国に行って自分の人生を組み立てる人もいるだろう。
それから、たくさんいるとは思わないが、抗議に立ち上がる者もいるだろう。
現在、この「特別軍事行動」への抗議は10年から15年の禁錮だ。
今後の抑圧はたいへん過酷なものになるだろう。抗議活動は難しくなる。

そして、いろいろなクルマが買えなかろうが、この新しい条件に適応しようとする人たちがいるだろう。

現在の体制はウソと暴力の体制だ。
プーチン体制とスターリン体制の違いは、プーチン体制はウソを土台としていることだ。
スターリン体制は暴力を土台としていた。プーチンの体制は土台にウソ、上部に暴力だ。

あなたたちの世代はインターネットの世代で、あまりテレビを見ないだろうが、それでもテレビのウソに汚染されている。
テレビの毒は、親や教師を通してテレビを見ない人にまで浸透してしまっている。

こうした過酷な独裁者のファシズム体制は、内部から崩壊することはない。崩壊するのは外部からだ。
フランコのスペインのように、独裁者の死か、ドイツ、イタリア、日本のように軍事的大敗か、この二つしかない。
いまウクライナ軍はこの体制を崩壊させるために勇敢に戦っている。

アルチョーム  

ではプーチンが去った後はどうなるのか。この3か月でロシアの頭脳といえる階層が10万人規模で外国へ出てしまった。この人たちは、外国で職を見つけるだろう。そうなると独裁者が去ってもロシアには帰ってこないのではないか。

ヤコベンコ  
ソ連が崩壊した時、亡命者の中には帰ってきた人たちもいた。すべてはプーチンの後で何が起きるか次第だ。
わたしはロシアから出て行って、西側でとんでもなく成功した企業家を知らない。
外国に出たにしても、俳優や作家などの芸術家は結局、ロシア人を相手にしている。
戻ってくる人びとはたくさんいると思うし、国内でも新たな才能が生まれるだろう。

元ANNモスクワ支局長 武隈喜一(テレビ朝日)

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