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世界のデフラグビーについて調べてみる

(※記事のサムネイルはhttps://www.worlddeafrugby.com/より引用させて頂きました)
こんにちは!今回は障害者ラグビーの一つ、デフラグビーについて調べてみた記事です。
まず、障害者ラグビーは障害のタイプに応じて3種類あります。

○肢体不自由⇒車いすラグビー(ウィルチェアラグビー)
○視覚障害⇒ブラインドラグビー
○聴覚障害⇒デフラグビー

車いすラグビーは手足に障害のある人が車いす(2種類)に乗ってプレーします。パラリンピックでの格闘技顔負けのぶつかり合い・熱い戦いが繰り広げられ、印象に残っている方も多いのではないかと思います。
ルールも車いすに合わせて改変されており様々な面で違いがあります。

ブラインドラグビーは視野狭窄・弱視の人でもプレーしやすいように若干ラグビーリーグ(13人制ラグビー)のルールが加えられています。
(例:タックルされた後にラックが形成されずボールの取り合いにならない・6回タックルされたときに相手の攻撃に代わる)

デフラグビーは基本的に健常者のラグビーと同じルールで試合が行われますが、「音」「声」を使わない点でプレー面で違いが出てきます。

今回はデフラグビーについて記事を書いてみます。
知名度・プレー人口共に車いすラグビーの方がやはり高いので存在を知らないだけで地元でラグビーをやっている人も多いかもしれません。

0.ラグビーの手話

デフとは聴覚障害者・ろう者の英語(Deaf)です。
なので、聴覚障害者・ろう者が音を排除したルール下でプレーするラグビーの事をデフラグビーと呼びます。(※聴覚障害者でも健常者と同じ場でラグビーをやっている人も居ます)

ラグビーの手話は上の動画の0:36~から見られます。
今はハカのカ・マテのような形で"肘に手を当てる"手話が主流ですが、"ボールを投げる動作"の手話表現もあります。
日本のデフラグビーの中の人たちは前者の"肘に手を当てる"手話を広めたいようです。

また、スクラムやラインアウトなどの手話(※ASL・・・アメリカ手話)に関係する動画はこちらで見れます。
例えばスクラム"両手の拳を当てる"動作で通じます。健常者のラグビーでも審判に向けてスクラムを選択する時に同様のジェスチャーをすることがありますね。
また、ラインアウトはHOがボールを投げるときに"両脇に人が並んでいる様子"を手振りで表現します。

1.デフラグビーのルール

基本的には一般のラグビーとルールは変わりませんが、「音が聞こえない」ので、ホイッスルなど音声で合図するものがジェスチャー等に置き換わります。

競技
・ルールは一般のラグビーと同様
・スクラムはサインによる合図で開始する
・笛の代わりに旗もしくはタオルを使用することがある※1
・競技規則第4条[プレーヤーの服装]により、試合時は補聴器と人工内耳の装着は認められない
※1 大会により使用方法が異なります

https://deaf-rugby.or.jp/about/deafrugby/

選手資格
両耳どちらとも25dB(デシベル)以上の方
※dB(デシベル)・・・難聴の程度(聴力レベル)
※大会によって出場できるdBが異なる場合もあります

 https://deaf-rugby.or.jp/about/deafrugby/

プレー中に聴力を補う補聴器・人工内耳の装着が認められないため、ルール面というよりはプレー面で影響が大きいのではと思います。
例を挙げると、
○相手のボールの蹴る音の聞き分けができない。目で見る情報に頼るのでボールの回転・動きを見てから捕球態勢に入る(準備に遅れが出る)
○声かけ(コーリング)ができないのでアイコンタクト・目で相手の情報を得る+ポッドやシェイプを展開する形になる

この辺りでプレー面で違いが出てくると考えられます。
一番大きいのは声掛けができない部分だと思います。そのため、プレーする前からプレーの方向性を健常者以上に共有していく必要があります。

参考までに企業などが実施するような健康診断で測る聴力は50dB程度までです。(それ以上は補聴器店・耳鼻科での検査が必要です)
健康診断等で聴力が40dB程度と診断されている人はデフラグビー選手になることができます。
聴力面で若干難聴と判定されている人はこの機にデフラグビーの世界にトライしてみてはいかがでしょうか。

ワールドラグビーからも記事が出ています。併せて参考にしてみてください👇

2.世界ランキング

通常のラグビーと異なり、ランキングや世界での対戦が整備されていない状況なので、正確な情報はあまりつかめていません。
ワールドデフラグビーのサイトによると15人制の男子だけはサイトができています。(ただし2019年6月時点)

Wales 81.80
England 76.55
NEW ZEALAND 70.21
Australia 70.00
South Africa 69.77
France 65.28
Scotland 65.27
Samoa 64.38
Argentina 62.73
Italy 62.19
Japan 60.00

日本は2019年6月時点では世界ランキング10位になっているようです。
15人制ラグビーはワールドカップが2002年に一回開催されたきりです。2002年に開催されたときはウェールズが優勝しています。
それ以降は、各地でのテストマッチやツアーがベースになっています。15人制に関してはNZDRUがテストマッチの記録を記録・公開しています。
(日本のテストマッチは2002年、2005年、2011年に実施されていることもわかります)

留意頂きたいのですが、そもそもの聴覚障害者の人口が少なく、その上で海外遠征できるほどスポーツができる環境を持つ人はさらに限られるという事もあり、健常者のラグビーでいうと都度都度テストマッチを行うような1950-1970年代の雰囲気はあるかもしれません。
(※健常者のプロラグビーと同じようなイメージで見ると期待を裏切られるかもしれません。大半がアマチュアなので)

参考までに、世界デフラグビー連盟のサイトで連絡が取れるのは23か国・地域(英国が3地域+アイルランド)です。


15人制とは別に、人数が少なくてもチームを組める7人制ラグビーは2018年にオーストラリアにて1回目が開催されました。2023年に2回目がアルゼンチンにて開催される見込みのようです。障害者スポーツは大人数を揃えることがまず大変なので少人数でもできることが持続可能ではありますね。

3.ヨーロッパの場合

ヨーロッパはラグビー発祥の英国を中心にプレーされています。
フランス、イタリアでもチームが結成されているので、ラグビーでティア1と呼ばれる国は1回以上は国際試合を行っている認識で良さそうです。
ここでは英国を中心に見ていきます。

3-1.イングランド

英国ではイングランドとウェールズが2強の様相を呈しています。
イングランドデフラグビーのホームページを見る限り、ウェールズデフラグビーチームと頻繁に試合していることが窺えます。
デフラグビーチームだけでなく、地元のチーム(女子だと、セールのラグビークラブとも試合をしています)とも試合を行っています。

2021年11月には予定されていた南アフリカ遠征が中止されたようです。
また、ホームページを見る限り15人制ラグビーが主体で7人制ラグビーのページは現時点ではできていないようですが、2018年の7人制ラグビーの世界大会ではウェールズに次ぐ2位の成績を残しています。

イングランドラグビー協会からもデフラグビーの紹介の動画や試合動画もUPされており、健常者と障害者ラグビーの境界があまり感じられない環境がある印象です。

3-2.ウェールズ

恐らくデフラグビーの世界で最強の代表チームはウェールズです。
健常者のラグビーでは怪我と世代交代に苦しんでいる印象が強いですが、こちらでは2002年の15人制デフラグビー世界大会、2018年の7人制デフラグビー世界大会の両方で優勝している強豪です。

↑2018年7人制デフラグビー世界大会で優勝した時のシーンです。
ウェールズデフラグビーのFBアカウントも投稿率がかなり高いですね。

4.NZ・AUSの場合

健常者のラグビー同様、デフラグビーに於いてもNZとAUSは強いです。

補足として、太平洋島嶼国全体で見ると、サモアのデフラグビー代表が1回国際試合を行い、オーストラリアに勝利しています。また、日本代表と太平洋島嶼国+マオリの連合チームで国際試合も行っています。
7人制ではフィジーが健常者同様、デフラグビーでも強豪です。
(2019年にOceania 7s大会が行われる際に聴覚障害者の大会も行われています。2020年に環太平洋でやる流れがありましたが延期となっています)

4-a.NZ

NZの場合は、北部・中央部・南部(南島)の3チームに分かれて15人制ラグビーの試合を毎年行っているようです。
北部はブルーズ・チーフスの本拠点とする範囲、中央部はハリケーンズの本拠点とする範囲と同一です。南部は南島全体で1チームです。
平常時は各自治体のラグビークラブに加入しています。

2022年4月に3チームの総当たり戦でチャンピオンシップをやります。
これは毎年行われており、1994-2019年の26年間の中で南部のチームが17回優勝しています。次いで中央部のチームが7回優勝しています。
南部や中央部の方が土地が広いこともあるのでしょうか。

デフブラックス(NZ代表チームの呼称)

NZの代表チームはデフブラックスと呼ばれています。
過去に行われたインターナショナルマッチもきっちりデータとして公開しており、オールブラックス同様ラグビーに対する矜持の様なものを感じます。

4-b.AUS(オーストラリア)

オーストラリアの場合はFacebookを主体に情報を収集できます。

Facebookの紹介ページから一部引用・抜粋します。(※意訳です)
"2001年に2002年のワールドカップに向けてチームが結成されました。
2005年にはニュージーランドのチームとウェリントンでテストマッチシリーズを行いました。2009年にはフィジー、2011年には日本とテストマッチを行いました。
平常時はNSW郊外地域のラグビー大会の4部に所属して試合を行っています。"
(筆者注:NSW=シドニーがある州。シドニー郊外エリアのチームとして活動している認識で良いと思います)

5.アジアの場合(主に日本・香港)

アジアでデフラグビーが代表チームとして成立しているのは現状、日本と香港の2か国です。世界デフラグビー連盟にはモンゴルも加入しています。(他にインドネシアやマレーシアにも聴覚障害者は相当数いると思われるので今後の普及が待たれる所です)

5-a.香港

15人制の世界ランキングには載っていませんが、世界デフラグビー協会が2018年に立ち上げる際に香港のBrandon Huangさんが関与しています。
2018年の7人制世界大会にも参戦していますが、この時は全敗に終わっています。

また、アジアでは日本と数回テストマッチを行っています。直近でいうと2019年に日本代表と数回試合を行っており、これはYoutubeで視聴が可能です。

また、香港ラグビー代表と香港デフラグビー選手の間でも交流が時々行われており、これは香港ラグビー協会のInstagramやTwitterなどで投稿が確認できます。

TwitterよりはInstagramやFacebookで情報を収集すると良さそうです。
理由は分かりませんが健常者のラグビー代表だと欧州系の選手が半分以上いますが、障害者ラグビーだと大半が華人系ですね。ここがちょっと不思議なところです。

5-b.日本

世界ランキング上では10位ですが、最初期のラグビーワールドカップから国際試合に参戦し続けている国です。2002年・2018年のワールドカップに参加しています。国際試合の過去の戦績で見ると15人制よりも7人制の方が良い印象を受けます。

また沿革については連盟のホームページにある程度記載されています。
1998年に日本ラグビー連盟の中の1つのクラブとして結成され、2006年から「日本聴覚障害者ラグビー連盟」が発足しました。2016年に法人化し、現行の組織になっています。

国際試合に関しては直近でいうと2019年に香港と7人制ラグビーでテストマッチを行っています。(2019年にしてアジア間での初のテストマッチです)
3試合行って、3試合とも日本が勝利しています。

そして、2022年1月下旬に廣瀬俊朗さんと丸の内15丁目にてデフラグビー選手の大塚さんとトークイベントがありました。
ちなみにこの写真で4人がとっているポーズは「ONE RUGBY」の手話です。
("1"の手話+肘に手を当てる" ラグビー"の手話を合わせた形)

6.アフリカ

アフリカにもデフラグビーのサイトは存在します。
南アフリカが勿論強豪です。

6-a.南アフリカ

南アフリカでは15人制のデフラグビーの国内大会が2019年から開催されています。2020年は延期になりましたが、2019年の時はブルズ、ウェスタンプロヴィンス(=ストーマーズ)から2チーム、その他の地域の合同チームが1チームと、計4チームでStone Cupという名称で大会が行われました。
この時はブルズが優勝しています。

15人制のラグビーのチームを4チーム編成できる環境であることが窺えます。ちなみに国際試合の結果は通算で2勝3敗ですが、相手がすべてNZなので他国との試合で勝つ実力はあると思われます。

6-b.ガーナ

ガーナのラグビーチームに関しては2019年に日本のデフラグビーの関係者と交流した形跡が残されています。

Greetings from Ghana Deaf Rugby union visit school for the deaf at jamasi.the first pic introduce donation vice...

Posted by Ghana Deaf Rugby on Friday, June 5, 2020

これについては日本側からも記事が出ています。

他にもウガンダ、コートジボワールがそれぞれチームを持っているようです。

7.デフラグビーワールドカップ

デフラグビーワールドカップなどの大会に参加するにあたっては、聴力は両耳平均で40db以上の難聴であることが求められます。(※補聴器を外した状態です)
人工内耳の方はほぼ全員出場要件を満たすと思います。これは人工内耳を外すと完全に音が聞こえなくなるためです。(≒130dB。飛行機の轟音が飛行機のそばにいても聞こえないレベル)

デフラグビーワールドカップは筆者が調べた限りでは以下のような形で過去開催されています。

2002 デフラグビーワールドカップ

2002 デフラグビーワールドカップ(15人制)
1位:ウェールズ 2位:NZ 3位:オーストラリア

2002 デフラグビーワールドカップ(7人制)
1位:オーストラリア 2位:日本 3位:ウェールズ

2002年のワールドカップについてはこちらの情報をソースとしています。
15人制ラグビーはウェールズ・NZ・オーストラリア・日本の4チームで大会を行いました。日本は4位でした。
(※対戦形式がウェールズ・NZ・オーストラリアでリーグ戦を行い、リーグ3位のチームと日本が3位決定戦を行う方式だった)
その後、親善試合としてマオリ&パシフィックXVとプレシデントXV(≒代表外のメンバーの選抜チームに近い形?)が加わる形で試合を行っています。

2018 デフラグビーワールドカップ(7人制)


1位:ウェールズ 2位:イングランド 3位:フィジーバーバリアンズ

Results recap from day 3 of WDR7s #wdr7 #silentrugby #deafrugbyaustralia

Posted by World Deaf Rugby 7's Australia 2018 on Thursday, April 26, 2018

決勝戦はこちらの動画で見られます。

全試合の結果はこちらに掲載されています。なお、日本はこの大会では4位という結果になっています。

この後に世界選抜と太平洋島嶼国選抜(Pacific Deaf Barbarians XV)で親善試合が行われ、これは世界選抜が65-27で太平洋島嶼国選抜を下しています。

The rugby wasn’t quite finished yet, as everyone then switched attention to 15s rugby for a special challenge match between the World Deaf Barbarians XV v Pacific Deaf Barbarians XV, and for the Hong Kong lads it was a first taste of victory as the World team ran out with a comfortable 65-27 win.

https://www.hkrugby.com/news/world-deaf-7s-2018-report

2023 デフラグビーワールドカップ(7人制)


2回目は2023年4月にアルゼンチンのコルトバで開催されることが確定しています。

Dear Friends and Family of WDR. We would like to have your Deaf rugby unions in each country's feedback. We would like...

Posted by Michael Oosthuyzen on Thursday, January 27, 2022

また、開催するにあたって渡航費・ホテルなどサポート面でのケアについてはアルゼンチン政府と交渉している状況であるようです。
アルゼンチン政府側が全面的に援助する場合、2018年の大会では参加できなかった国が参加する可能性もあるのでその場合は規模も拡大されるかもしれません。
(ex:太平洋島嶼国・オセアニア7s・南アフリカ・ガーナ・北米など)

(日本代表が向かう場合は2018年の大会スケジュールを踏まえて最小1週間~10日・最大1ヶ月(日本帰国時の隔離期間を考慮)程度の遠征・渡航が必要になりそうです。飛行機代で往復20~30万くらいかな…。)

8.最後に

ここまで各国のデフラグビー事情を書いてみました。
まとめというよりこれは個人的雑感になりますが、
難聴の方も手話が使える・使えないに関わらず、ラグビーの経験の有無にも拘らず是非デフラグビーを試してみて頂ければと思います。
殆どの部分で普通のラグビーとあまり変わらないと思いますよ。

関東の場合はこちらの方でDMすれば見学/体験の相談ができると思います。
(Twitter、Facebook、Instagramアカウントがありますがどこからメッセージを送っても大丈夫だと思います)
関西の場合は別途練習会があるのでそこで顔合わせが可能かと思います。

普段は地元のクラブでプレーして、練習会や合宿の機会に顔合わせするスタンスでやっていくも良いのかもしれません。


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