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コーヒーゼリー

天真爛漫で明るく、いつも持ち前のユーモアで周囲を和ませていた仕事仲間が、無断欠勤で突然解雇になった。上司からその決定を告げられたときは、どうしようもないと理解しながらも「仕事ぶりは問題なく、期日もしっかり守ってくれるので助かっていた」と勝手に口が喋っていた。

晴天の霹靂、とはこのことだと思った。
リモート環境で周囲も無断欠勤に気づいておらず、退職の理由も不明なまま日常は何事もない顔をして過ぎていった。

このままでは嫌だな、と思い彼女と一対一でオンライン会議をした。
いつもお化粧バッチリで服装も全身おしゃれな姿が印象的だったけれど、オンラインではほぼすっぴんで、「あ、音声だけでもいいですよ」とカメラオフ状態の私が促しても「このままの方がリアルだから」とカメラをつけたまま、ありのままを語ってくれた。

無断欠勤の理由は推測した通りメンタルの不調だった。
突然ヤングケアラーのような状態になり、ストレスで夜も眠れず生活のリズムが崩れてしまったとのこと。
ふと、理由も聞かずに解雇の決定をした上司に敵意が湧いたが、彼女の方でもその上司に心を開くことができずきちんと説明できなかったとのこと。

見た目が華やかなせいで、勘違いされやすい人がいる。
彼女もそうで、実際には内向的で、友人も少ないと言う。
「夜遊び歩いてると思われたかな」と冗談めかして語っていたが、案外当たっているのかもしれない。
理不尽な理由で会社を去ることになったのにも関わらず、一緒にお仕事させてもらった、こうやって話を聞きにくれた、と何度も感謝の気持ちを伝えてくれた。

最終出勤日にはチームの皆でピザを食べようということになり、近くのピザをテイクアウトしこっそり予約した会議室で小さなパーティーを開いた。
そこに彼女はしばらく現れなくて、不安になって電話をかけると「コンビニに行ってて、すぐ戻ります」とのこと。

戻ってきた彼女は、なんと全員分のデザートを買ってきてくれていて、状況的にプレゼントや花束を用意しなかった私はとても後悔した。
皆それぞれ好みのデザートを選び、私は目の前にあったコーヒーゼリーを選んだ。
すると、数年ぶりに口にしたその味がびっくりするほど美味しかった。

その日以来たまにコーヒーゼリーを買うようになったのだが、その度にもっと何かできなかったか、と思い巡らし切ない気持ちになってしまう。
「落ち着いたら連絡くださいね」と最後にかけた自分の頼りない言葉が頭の中で反響し、やるせなくなる。

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