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太陽劇団の『金夢島』

 太陽劇団(Le Théâtre du Soleil)の22年ぶりの来日公演『金夢島』を見て来ました。
 
『金夢島』は、ベッドの上の女性が枕もとのスマホをとるという、とても小さな場面から始まります。彼女は、今日本に着いたところだと通話で語っている。ところが次の瞬間、その受話器を舞台上の黒子がとったかと思うと、「彼女は今、日本にいる夢を見ているようです」と話し始めます。この舞台が彼女のファンタジーだと示しておきながら、しかし、その後観客が見せられるのは、金夢島で開かれる国際演劇祭をめぐる人々の生々しい葛藤のドラマです。島民、行政、企業三つ巴で観光地の開発にまつわるきな臭い物語が繰り広げられていく。
 
そこで展開する人々の企みや葛藤はあくまでリアルですが、舞台上で起こることはどんどん象徴性と夢幻性を帯びていきます。空間は陸・海・空(ヘリコプター!)に拡大していき、床の可塑的なユニットは港の埠頭になったり能舞台になったりと、常に変容していく。夢の空間こそが現実の出来事に新たなディメンションを加える。現実を乗り越えるのは夢の力、舞台の力なのだと、ムヌーシュキンと太陽劇団は訴えているのです。
 
太陽劇団は、パリのヴァンセンヌの森の古い弾薬倉庫を芝居小屋に設えています。そのこと自体に、ムヌーシュキンの強烈なアイロニーが籠められているのでしょう。弾薬には人を殺生する力があるけれど、演劇にはそれを指弾する力がある。今も世界を覆う残虐な戦禍や酷薄な圧政に対する憎悪と怒りが、このロケーションには込められているのだ、と。

https://tokyo-festival.jp/2023/program/kamemu-jima/
 
https://www.youtube.com/watch?v=jIMVOk22KsI

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