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"1" 「鎮痛」と「鎮静」と「せん妄」から


はじめに

 ICUでの重症患者さんの管理やケアについて分かりやすく皆さんと勉強していきたいと思っています。あんまり教科書に書いていない細かいところやポイントなど紹介していきますので、ゆるゆるとお付き合いいただければと思います。重症患者管理というと気道(A)や呼吸(B)、循環(C)のことがありますし、また敗血症(sepsis)などといった壮大なテーマもあります。何から話を初めればいいのか分かりませんが、決まりはありませんのでまずはICUでの「意識」に関わることからスタートしていきましょう。

 そこでまずは「鎮痛」と「鎮静」と「せん妄」についてです。昔のICUでは入室された全ての患者さんに強い鎮痛剤と鎮静剤、さらには筋弛緩薬までも投与して「不動」の状態にするのが慣習(明確な理由やエビデンスがないけど、そうするのが当たり前のこと)でした。重症な患者さんは病気により強いストレスがかかっているので、とにかく体を休ませてあげようという考えからです。リハビリなんてしようものなら、とんでもない。お説教されてしまいます。医療ドラマやマンガで「面会謝絶」なんて札が病室にかかっているのをみたことがあると思います(今はないですが)。

「不動」のデメリット

 この不動状態は今でも必要に応じてとることがあります(極度に呼吸苦が強い場合やOpen abdminal management中の患者さんなど)が、ほとんど場合はデメリットが大きいので現在はルーチンで推奨されていません。代表的な「不動」状態のデメリット・合併症に人工呼吸器関連肺炎(VAP ;Ventilator Associated Pneumonia)がありますね。これは過剰な鎮静や筋弛緩薬により喉の反射が落ちますので、胃の内容物や口腔内の分泌物が気管に落ち込んでしまい肺炎を起こしてしまうものです。不動を続けていればいつかはほぼ100%必発します。他にも、筋力の低下や起立性低血圧など様々なトラブルが起こります。ICUでもとの病気は治ったのに、認知も低下し、寝たきりになってしまったなどということは本当によくある話です(これらはPICS ;post ICU syndromeと呼ばれています。また機会があるときに詳しくお話しします)。

「鎮静」と「鎮痛」と「せん妄」

 そこでこの不動のデメリットを極力減らすために、不必要な鎮痛や鎮静は避けて、適切に行いましょうという流れができました。
 ちなみに鎮痛薬と鎮静薬は明確に区別して使用することが重要です。例えば、後述するミダゾラムという鎮静薬がありますが、これには鎮痛作用は全くありません。不穏・興奮のことをagitation(アジテーション)と言い、これに対しては鎮静薬sedation(セデーション)を用います。痛みpainに対しては鎮痛薬(analgestic)を用います。またせん妄delirium(デリリウム)に対しても適切な対策をとっていきましょう。
 このPain、Agitation、Deliriumの頭文字をとって通称「PADガイドライン(ICUにおける鎮痛・鎮静・せん妄ガイドライン)(2013年)」というものが出されています。

 ちなみにこのPADガイドラインは2018年に改定されて、不動 Immobilityと睡眠障害 Sleep disruptionの二つが加わり「PADISガイドライン(パディスと呼びます)」になりました。すごい進歩している感じがしますね。次回から鎮静や鎮痛、そしてせん妄の対策についてちょっとずつ学んでいきましょう。

Today's Note!

・不動状態はデメリットが大きいので、不必要な鎮痛や鎮静はさけましょう

・Pain、Agitation、Deliriumの対策
「PADガイドライン(ICUにおける鎮痛・鎮静・せん妄ガイドライン)(2013年)」


(参考文献)PADガイドライン

↓ 2013年のPADガイドラインで準じて日本集中治療医学会で作成されたものです。
2014年「J-PADガイドライン(日本語)」 

2018年「PADISガイドライン(日本語版)
↓原文はこちら (英語でチャレンジします?)
Devlin JW, Skrobik Y, Gelinas C, et al. Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation/Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018; 46(9):e825-e873.


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