ライジングサンロックフェスティバル'19にて(後編)

8/17、ライジングサンロックフェスティバル'19 2日目。1日目は存在しないのだがまあそこはそれだ。ぽっかりと開いた穴のことはあとでチケットの返金とともに思い出せばよい。

友人B氏は初参加で、僕は10年以上のブランクがあった。たとえば昔の僕が感じたような楽しみを、いまでも得られるだろうか。
シンプルに、イベントそのものが変わってしまっているとかそれだけの話ではなく、この10年で鍛えるでもない身体は衰え、音楽に対する情熱もまた、冷めているとは思わないものの、若い頃のそれとは異なる質へと変貌しているのは確かなのだから。

しかしまあ、結論から言うと、本当に、ライジングサンロックフェスティバルは昔のまま、変わらずにその楽しさと音楽への愛を振りまいていた。
僕は(そこにいくらかの無理がありつつも)昔のようにステージ間を歩き回り、フェス飯を食い、フェス酒を飲み、大いにライブを楽しんだ。

当日のことを思い出しながら、順を追って書いていこう。

もう昼にも近い朝、宿をチェックアウトして会場へと向かうも、(恒例という)大渋滞に巻き込まれる。駐車場に着くまでおよそ2時間程度。
笑うしかない。
必死、というのともまた違うニュアンスではあるが、わりと切実に車内はくだらない話を求めていて、いや別にそれで空気が悪くなるタイプの関係でもないので構わないのだが、まあとにかく待たされた。

次があれば早く着いて駐めといた方がいいね、など言いつつ会場へ。事前に交換してあったリストバンドを緩く絞め、入場する。ライジングというイベントは、『音楽好きのための遊園地』みたいな雰囲気がありそういうところが好きだったのだが、そういうところは本当に変わらないままだ。

EARTH TENTで友人が推しているオメでたい頭でなによりを少し観て、RED STAR FIELDへ。目的のAimerには少し早いが、と思いつつ道中でペットボトルの水分を買い(白いジャワティーは初めて見た)、アーティストグッズを眺め、名物である缶バッチのガチャガチャを回す。

REDではフジファブリックがやっていて、ちょうど「若者のすべて」で終わるところだった。
先日のMステでも披露されていたが、改めてフェスで、生で観るとアンセムだな、と思う。特別な思い入れは無いものの、観客の合唱にいくらか胸が熱くなる。

ひとりのんびりと、REDステージ隣のバーカウンターで注文したブラディメアリーを飲みながらAimerを観る。アルバム『Daydream』のタイミングで観る予定だったのだが色々あって流れてしまい、観るのは今回が初めて。
Aimerに関してはまず声が好き、なのだが、色々と思うところのあるライブ、そしてセットリストだった。
キーボード、ギター、ベース、ドラムのサポートを受けて最近の曲を演奏していくという、ごくシンプルなステージだったのだが、歌手としてのポテンシャルが高いところにある分、パフォーマンスの良さが楽曲クオリティの高低によって左右されてしまう、という印象だった。
そもそも彼女はアニソンもJ-POPも(敢えてその2つを分けて書くが)歌いこなせる人ではあるのだが、だからこそどっちつかずというか、アーティストとしての方向性が見えてこないように思う。
オタクサイドでいうところのKalafinaや菅野よう子時代の坂本真綾ほどの蜜月ではないにしろ、それこそこの後に出演したLiSAのようなトータリティが欲しいな、ということを考えたりはした。
とはいえシンプルに歌のうまさというか、表現力には圧倒されたし、特に「I beg you」は本気でゾッとした。だからこそもっと聴きたかったというか、素直にワンマンに行けば良いのだろうが、アニソンフェスにはあまり出なさそうだしな、と終演後も色々考えていた。ぶっちゃけ「RE:I AM」が聴きたかったのに、という不満もまあ、ある。

RAIN TOPEにて空腹をカオソーイ(タイ風カレーラーメン)とタコスで満たし、そのまま隣、RAINBOW SHANGRI-LAの吾妻光良&THE SWINGING BOPPERSへ。
念願の、という感じだったので、ただただ最高としか言い様がない。新譜リリース直後のライブということで新曲が多く、「150~300」、「やっぱり肉を喰おう」など個人的な定番は聴けなかったが、そもそもジャンピン・ジャイヴ、ブルースとスウィング・ジャズを両親に持つダンス・ミュージックであるからして、ガンガン足腰に来る強靱なグルーヴとユーモラスな歌詞世界は予習不要で楽しめた。

アンコールがありそうな空気に後ろ髪を引かれながら(結局なかったらしいが)SUN STAGEへ。LiSAのステージ。
せっかくフェスに来たのだから、普段は観ないようなアリーナ・クラスのアクトを観てみようと思っていた。最近はキャパ500のライブハウスでも大箱だと感じるくらいインディ寄りになっていたので、たまにはこういう規模の音楽に触れてみるのもいいだろう。要はミーハーである。
結論としては、よかった。定番、新曲を織り交ぜつつ、やや古風ながらストレートなロック・ナンバーをハイテンションにガンガン歌うLiSAは妖艶で、格好良く、カリスマそのものだった。良くも悪くもアニソンという印象はなく、とにかくSUN STAGEという大きな会場を掌握する様に見とれていた。

ふたたびRED STAR FIELDへと戻り、札幌の友人であるM本くんと合流してから吉川晃司のステージへ。
二人とも完全なる興味本位であり、まあシンバルキックさえ観られたらいいかな、ぐらいのものだったのだが、いきなり「BE MY BABY」のイントロが流れだし、早くも観客のテンションは最高潮へ。フェスという祭りの場に於いて『ベタなヒット曲』、アンセムがいかに強いかということをまざまざと見せつけられた。
バンドメンバーが生形真一(ELLEGARDEN, Nothing's Carved In Stone)、ウエノコウジ(ex-THEE MICHELLE GUN ELEPHANT, the HIATUS, etc...)、湊雅史(ex-DEAD END, etc...)、ホッピー神山(ex-PINK, etc...)という文脈こそよくわからないが豪華なメンバーだったこともあり、とにかく楽しんで最後まで観てしまった。

吉川晃司が終わるとだいたい2時間、どこも何もやっていない休憩の時間になる。冷えてきたので上着を取りにB氏の車へと帰ったのだが、初参加のB氏がペース配分を掴めておらず、車中で少し休んでいた。お互いに観たアーティストについて話したりしつつ、そのまま同道することに。
道中、B氏が学生時代の友人と15年ぶりぐらいに遭遇したり、アイスのチャイがなかなか美味しかったり、あとリトルスプーンというカレーショップが出店しており、以前は帯広にあったことを思い出し懐かしさで注文する。
地元帯広でカレーといえばインデアンであり、ソウルフードではあるもののそれ以外の選択肢がなかなか存在しないということもあり、久しぶりのリトルスプーン・カレーは新鮮に美味しかった。

気がつけば21時も近い。RED STAR FIELDへ向かう途中、花火が上がった。昼に聴いた「若者のすべて」を思い出し少しセンチメンタルな気持ちになる。
花火が終わり、そのままREDではGLIM SPANKYのステージが始まる。堂々としつつも若手らしい佇まいがとてもいい。SUNではELLEGARDENがやっていたということもあり、しきりに自分たちのステージを選んでくれたこと、ともにロックできることへの感謝を述べていた。
セットリストは概ね代表曲という感じで、中でも「大人になったら」はグッときた。昭和のフォークのようにシンプルなメッセージも、最新のロック・サウンドに乗せて歌われると説得力があるし、何より今この時代に真っ直ぐなロックを届けようとする気概、心意気のようなものが好きだ。松尾レミの『喉にファズをかけたような』と称されるヴォーカルも、亀本寛貴のギターヒーロー然とした佇まいも、サポート・ドラムの豪快さと繊細さを兼ね備えた叩きっぷりもすべてが良かった。

B氏と別れ、def garageのtoeを観る。実はきちんと聴いたことがなかったのだが、フジロックの配信で観ていたく感銘を受けたため、観てみた。全体的に、音が悪くバランス調整などに苦戦していたようには思うものの、目前で繰り広げられる狂気のバカテク・エモには圧倒された。テクニックによって歌心を拡張していく、という点では(スタイルこそ違うが)Dream Threaterなどにも通じるかもしれない。短いステージだったが、お約束の(?)「グッド・バイ」による〆も聴けたし、ひとまず満足。

そのままdef garageに残り、mol-74を観る。モルカルマイナスナナジュウヨン、と読むこのバンドは初めて知った時からずっと気になっていて、この機会を楽しみにしていた。結論から言うと、本当に、心から素晴らしかった。『多彩なルーツを持つ音楽』と評価するのがばからしくなるような、心の広い音楽というか、自身の受けてきた影響をジャンルで括ることのない自由さが、いかにも新しいバンドという感じで非常に感銘を受けた。ピアノとアコギを使い分けるヴォーカリスト、ボウイング奏法も軽々とこなすギタリスト、5弦を淡々と弾き続けるベーシスト、繊細で手数の多いドラマー、という4人が奏でるのはしかし、『歌に奉仕するための音楽』であり、Sigur Ros的な祝祭感があろうがロキノン風四つ打ちが顔を出そうが、とにかく歌の良さが牽引する音楽として普遍的な良さがある。全体的に叙情というよりももはや寂寥感という言葉が似合う楽曲は少しPlastic Treeを思い出したりもした。まったくの新人(大型、だとは思うが)だということもあり、def garageにしても集客が寂しかったのは非常に残念だが、アクトの良さがじんわりと伝わったかのような観客のあたたかい歓迎もあり、深夜のフェス体験に極上のものをひとつ付け足してくれた。

次はthe pillowsを観るためにREDへ。道中ではそろそろ物販を閉めるということで、最後に缶バッジのガチャを回していく。まさかのNUMBER GIRLを自引き。B氏にあげることを心に決める。

the pillows。本当に、心から、泣いた。10代の後半、あまりにもしんどいと感じていた時、寄り添ってくれていたのはthe pillowsの音楽だった。以前に観たのは13年ほど前、ELLEGARDENとALLISTERとの3マンだったこともあってかあまりセットリストに納得が行っていなかったのだが、今回は違う。「アナザーモーニング」からの「Blues Drive Monster」、そしてthe pillowsが30周年だという話、若い頃に札幌に居たことを思い出しながら作ったという「白い夏と緑の自転車、赤い髪と黒いギター」といった流れで本当に駄目だった。涙腺は崩壊し、心は10代に戻り、正しく限界と化した。
30周年だからなのかセットリストには古い曲が多めであり、心は10代に引き戻されて戻らないまま拳を振り上げ叫んでいた。GLIM SPANKYやmol-74といったバンドが本当に良かったこともあり、まだまだ若いバンドの今を追うのが楽しいな、と思っていたのでいくらか悔しい思いが無くはないのだが、青春の思い出には勝てない。加齢を感じつつもアンコールまでガッツリ堪能し、ステージを後にした。

本来はDMBQを観ようかと思っていたのだがフェス特有の気まぐれを起こし七尾旅人へ。なんというか自由なステージングだった。正直な話、あまり得意なタイプの歌ではないのだが、場を支配する存在感は圧倒的でありながらもゆるく、何かすごいものを、しかし肩の力が抜けた状態で見せられているというような不思議。途中、奥田民生の企画(ライジングサンの開催中に1曲仕上げるというもの)に触発され、勢いで曲を作り始めるなど、自由極まりないステージングだった。「Rollin' Rollin'」、「サーカスナイト」と代表曲で畳み掛け、客席に乗り込んで本編が終了し、アンコールに電気グルーヴの「虹」も飛び出して、グダグダの中終了。

日光がさすまで車中で眠り、そのまま車で石狩湾港を後にする。すっかりライジングの魅力にあてられてしまったB氏と来年について話しながら帯広へと戻り、自宅へと帰った。

台風で中止になった初日に比べ、あまりにフェス然としたいい天気の2日目は拍子が抜けるどころかズッコケるレベルではあったが、過ごしやすいに越したことはない。1日目の中止が発表された時にはどうなるかと思ったが、結果的には楽しめたし、11年ぶりに参戦したライジングサンはあの頃と同じ感動を与えてくれた。ロックフェス、音楽に限らず様々なものがうつろいゆく中で、いい意味で変わらないで居てくれるというのは本当にありがたいことだ。ライジングサンにはこれからもスペシャルな空間であってほしいし、音楽への執着さえあれば自分はまだ意外と動けるということも再確認したので、また参加できるならするようにしていきたい。

最後に、11年ぶりのライジング参戦にきっかけを作ってくれ、車を出してくれた友人B氏に感謝の意を記しつつ、この文章を終えることにする。来年は、晴れますよう。

投げ銭してくれると小躍りしてコンビニにコーヒーを飲みに行きます。