ライジングサンロックフェスティバル'19にて(前編)

できの悪い青春映画みたいだ、と僕は言った。
友人はいつもの表情で、ははは、と笑った。

事の起こりをどこから書くべきだろうか。まあ、まずはやはり、ライジングサンロックフェスティバル'19、出演アーティスト第一弾発表から、なのだと思う。

NUMBER GIRL復活。

今だからものすごく正直に言うと、ぶっちゃけ僕は吾妻光良 & The Swinging Boppersの方に興味を惹かれていた。
そもそも僕はあの、『伝説がよみがえる』みたいな、再結成を過剰に持ち上げる空気が苦手なのだ。続けている方が絶対に偉いし、解散/休止後のメンバーについて無関心なファンは以ての外だ、と思っている。僕がナンバーガールの凄さを理解したとき、すでに彼らはいなかったけど、それはそれで、発展的な解消だと思っていたし、何も不満は無いというくらいには思い入れの無いファン、だったのだ。

しかしまあ、友人、B氏はそうではない。
ごくシンプルに、『ナンバガに人生を変えられた』というタイプの人間であり、それはたとえば僕がREFUSEDを観るためにフジロックフェスティバル'12まで足を運んだことと同じようなものであろうし、そう考えると無碍にはできないというか、そもそも僕は友人が好きなアーティストや、その思い入れについて水を差すようなことは基本的にしたくない、と思ってはいる(たまに本音が先んじるときはあるが)。

元々ライジングは行きたかったんだよね、というB氏と、車を出してくれるなら喜んで付き合うけど。僕も久しぶりにライジング行きたいし。という風に利害も一致し、二人のライジングサンロックフェスティバル'19への参戦が決まった。

前日に車で帯広から札幌へと向かい、16,17~18日(の、朝方)とフェスを楽しみ、18日の間に帰宅する、という、そういう日程となった。
道中の車内はとても楽しく、『ウンナンの気分は上々。』みたいな、と表現しても伝わりづらいだろうと思われるので、シンプルに『どうでしょう』みたいな、と表現したほうが良いかもしれない(打首獄門同好会も出演することであるし)。

BGMとしてスマートフォンから出演アーティストの音源を流しつつ、「ナンバガの一曲目なんやろね」、「そういえば、(ライブ用の)耳栓てどこに売ってるんだろ」などといった、今から思えばジェットコースターをゆっくりと昇っているかのような脳天気な会話をはずませていた。峠の細かく変わる天気も、まさか嵐が来るとは思えないような暢気なものであって、決して荒れたりはしていなかった。

札幌に到着し、町中をぶらついた。耳栓はタワレコにひとつだけ残っていたものを買い、ロックTシャツの店や中古レコード屋をめぐり、佐世保バーガーの店でサルサドッグとタコスをつまんでいた時だった。

「ライジング開催中止だって」

普段は寡黙なB氏がひときわ大きな声を出して驚き、ジェットコースターは落ちた。
あとはひたすらにtwitterを追い、ライジングサンロックフェスティバル公式のアプリやサイトを細かく細かく更新しながら追記を待った。

なるほど、札幌市内の天気も少しずつ不穏さを増していた。かくして冒頭の台詞へとたどり着く。

公式は意味ありげなツイートをし、僕たちはロックバーで、同じような思いを抱えた人たちと2001年のライジングサンロックフェスティバルを撮った映像を眺め、かつてのNUMBER GIRLがいきいきと演奏する姿にいっそうのやるせなさを覚え、しかしそんなことにまるで頓着がないであろうマスターの下品なジョークに苦笑いし、交差点の信号待ちで僕は帽子を忘れたことに気付く。

「まあ、こうやって色々あった方がいい思い出になるんだよ」
B氏はいつも通りで、だからちょっと見ているのが辛かった。

出演予定だったthe hatchが、16日のSOUND CRUEを押さえ、ワンマンをやると宣言した。いま宇宙で一番カッコいいバンドだ。行くに決まっている。

それでもまだ僕たちは、17日に一縷の望みをかけていた。現金なものだが観られないとなればやはり観たくなるものだ。僕はすっかりNUMBER GIRLの熱心なファンのような気持ちになっていた。

16日、確かに荒れていく天候に、それでもかろうじて『17日開催』の報。あまりの雨に本当かよと内心思いつつ、いやもうこれは中止になるだろう、といったあきらめの気持ちを胸に、タクシーを拾ってSOUND CRUEへと向かう。確かに昼食のスープカレーは美味しかったし、the hatch、オープニングアクトのCARTHIEFSCHOOLも含めて最高のライブだった。ヴォーカル/トロンボーン/ピアノの山田みどりはMCで「救われる、って言われたりもしたけど、とにかく、何か掴んで帰ってもらえたらっていう、そういうライブやります」みたいなことを言っていて、難民を救う気持ちのライブではなかった、ということだけは確かで、だからこそ安心して観ることができたのだけど、当たり前ながら、救われることはなかった。

NUMBER GIRLが観たかった。『ぶっちゃけ思い入れが無い』だの『再結成ビジネスはちょっと』だのと、そういった繰り言は結局『カッコいいロックバンドが観られないかもしれない(たぶん観られない)』という事実の前には無力なのだ。偉大だとか伝説だとか影響力だとかどうでもよくて、とにかくデカい、カッコいい音楽なのだ。それはもう、逆に思い入れが無い僕のような人間だからこそ言えるんじゃないかとも、思う。

最早、哀れにすら見えたのではないだろうか。17日のタイムテーブルが変更になると聞けばナンバガをねじ込むのではという噂を信じ、それもまた17時更新の最終タイムテーブルに打ち砕かれ、グッズ販売も無しときてそもそも「ああ、北海道に来ていないのだな」、「飛行機が飛ばなかったのか」といった事情を理解しつつもそれでも何か信じるよすがが欲しかった。

結局、17日から18日の早朝にかけての、ライジングサンロックフェスティバル'19 2日目は無事開催され、僕たちも前日のことなんか忘れたように、事実ほぼ忘れっちまって楽しむのだが、それはまた別の話、にしよう。

(後編につづく)


投げ銭してくれると小躍りしてコンビニにコーヒーを飲みに行きます。