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バンドリアニメMyGO感想3 長崎そよについて

そして、奇跡のライブが始まる

それは長崎そよの心はもとより、他のバンドメンバー全員が救われるライブ
それは、本当の意味でバンド「MyGO!!!!!」が、このステージ上で誕生した瞬間だった

長崎そよはアニメMyGOにおいて最も重要なキャラクターだ
常に穏やかで母性すら感じさせる存在だが、その裏には全く違うドロドロとした感情が渦巻いている
そしてその感情は主人公格である燈と愛音の望みを否定する方向性を持っていて、それを表に出さない事でそよも含めた全員を不幸な状態に向かわせてしまう
正にこのアニメMyGO第一期最大の敵キャラ
人を、自分すらも不幸な方向に向かわせる彼女だが、最後には他のバンドメンバーによって救われる
この物語は、そんな長崎そよの絶望と救いの物語と言って良い
そんな長崎そよについて語っていきたい

1)長崎そよの生い立ち

アニメMyGOにおいて、生い立ちから語られるキャラクターは二人
物語の精神的な中心である燈と、今回語る長崎そよだ
そのくらいそよの心のあり方はこの物語において重要と言うことになる

そよはその幼少時代、親の離婚によって生活環境が激変する
離婚した母親の経済的な大成功により、家庭的な暮らしから一変、生活感0の高級マンション最上階に住むことになる
そこは家族や友達など、母親以外の人間関係から隔絶された孤独な空間
学校も、母の薦めで上流階級の子女が多く通う超お嬢様学校月ノ森女子学園へ編入する
そこでそよは、周りに馴染む方法として、心優しく、気安く人を助ける親切心のある少女を演じることになる
実際には以前のそよは描かれて無いので、それが演技なのか定かではないが、癖となった指いじりからも、そよがそれを無理してやっているのは確かな様だ

恐らく、そよは母の大成功を異質なもの=他人から見たら羨まれるものと捉えているのかもしれない
元々お嬢様では無いそよが、他のお嬢様よりも良い暮らしをしている
それを知られたら反発を受けるだろうと考え、実際それは起こり得ることだっただろう

そよは、普段は心優しく人から頼られるお嬢様を演じながら、内心では人との間に壁を作り、自宅に友達を招くこともしない
母は仕事に忙しく常に不在で、帰って来てもそよに甘えるため、そよは母に対しても庇護者となる
自宅に一人居ても何かから開放されるでも無く、心の中は虚無
そんな、何一つ確かなものが無い、圧倒的なほどの孤独な存在として、中学生の二年間を過ごしてきた
それが長崎そよという人間だろう

孤独

2)そよにとっての「CRYCHIC」

そんな長崎そよが中学三年の春に豊川祥子に誘われて入ったバンド「CRYCHIC」は、彼女にとってどの様な存在だっただろうか

祥子はそよの様な成金的金持ちなど意に介さない程の超絶的な名家のお嬢様らしい
祥子の幼馴染の睦も日本の芸能界の宝的な異質な存在
そして学外のメンバー
この本来の自分を見せても受け入れてくれそうなバンドメンバーは、そよにとって最初から好ましく感じていたに違いない

そして祥子から語られる「運命共同体」という言葉に、正に運命を感じたそよはバンド「CRYCHIC」にのめり込んでいく
かつての自分の当たり前だったカラオケのドリンクバーではしゃぐお嬢様達のやりとりを見て、そよはこのバンドこそ自分が存在できる場所だと思ったに違いない

ところで「CRYCHIC」の活動期間はどの位だったのだろうか
あの春日影の成功のライブは何月頃のことか
普通に考えると梅雨頃の様にも思えるが、その頃はまだRiNGが無く、素人がステージに上がるハードルはまだ高かったと推測出来る
燈がしっかり歌える様になり、素人達がバンドとして完成するまで「CRYCHIC」の活動は半年以上有ったのかもしれない

ともあれ、この「CRYCHIC」こそ、そよにとってこの世界でただ一つの居場所だった
そして、ライブにおける「春日影」の成功と涙

後にそよは燈の歌詞が苦手と語るが、自身が隠している本音を指摘する様な燈の歌詞に、知らず号泣する程の感動をするという体験を経て、そよにとって「CRYCHIC」は自分と切り離すことができないかけがえのない存在となっていた

全て

3)長崎そよの暗闘

だからこそ、物語の冒頭で語られる「CRYCHIC」の解散は、そよのアイデンティティが破壊されるかの様な、受け入れ難い出来事だったのだろう
そよは、旧メンバーの中でただ一人「CRYCHIC」復活を信じて活動していく事になる

祥子は学園から居なくなり行方不明
睦は祥子のことを語らず動きもしない
燈は進学してしまい学校は不明
実は燈の自宅は知っていたが、解散時の様子から容易には近づけなかったのだろう
RiNGでバイトしている立希には頻繁に会いに行っていた様だが、恐らく祥子へ恨みを露わにする立希からは相手にされてなかっただろう
逆に立希からは燈をそっとしておく様に注意されていたかもしれない

そんな中、出会ったのが燈の事を知ってる愛音だった
この時から、そよによる「CRYCHIC」復活の活動が動き始める

燈をバンドに誘ったと言う愛音からメンバーの誘いを受けて、即了承する
何故か燈が気を許してるらしい愛音をダシに燈を呼び寄せバンド復帰を促す
燈の参加はそのまま立希の参加にも繋がる

しかしそよの言葉では燈は動かない
結局、燈を動かすのは愛音であり、そよが中心となって進めようとする「CRYCHIC」再結成は、実は燈が信頼する愛音が中心となって進む、新たなバンドの結成になっていく

ただ、愛音はこのメンバーで一番の素人であり、そこが弱点といえる
テク不足を突かれた愛音は、同じく弱腰になってる燈と一緒にライブを回避しようとするが、そんな愛音に対し、そよは陰から攻撃を仕掛ける

そよが、非常階段で立希と語るシーンはとても印象的だ
燈第一主義の立希が燈の側に付かないよう、遠回しに立希を誘導し、ライブをやるべきという言葉を引き出す
その際、立希を誘導するために使った光の当たる時の表の顔と、陰に隠れた時の裏の顔は、そよの二面性を表現している

そして、その流れでさらに立希を誘導し、愛音のバンドに対する真剣さの欠如を指摘させる
それは、暗に旧「CRYCHIC」メンバーと新参者愛音との差を明確にするものだ
しかし、ここでも燈が愛音に寄り添うことで二人の関係はより深まり、愛音がバンドに残る理由がより深まることになる

そよは、愛音をダシにして旧「CRYCHIC」メンバーを集め、同時に不純物である愛音を(なぜか増えた楽奈も)排除しようと試みるが、メンバーが集まっても新メンバーを排除する計画は悉く上手くいかず、結果的に新たなバンドが形として出来上がっていく

二面性

4)そよの情深さと弱さ

なぜそよの計画は上手くいかないのか
そよは、心優しく穏やかな性格で、大人の理知的さも持ち合わせている印象を受けるが、実際には全く違う
そよにとって、他人との付き合いは心を殺して親切に接する=情けをかける事だけしかない
それが原因なのか、そよは物事の理屈や整合性よりも、人の情深さの量で全ての判断をしている節がある


旧「CRYCHIC」メンバーは元々深い情で結ばれているから、それが解散している現在の状況は不自然なだけ
バンドに思い入れの薄い愛音については、そのことを指摘すればすぐにバンドから去り、純粋な旧「CRYCHIC」メンバーだけが残るはず
勿論、祥子も睦も何かの誤解により一時的に離れただけで、深い情で説得すれば元通りになるはず
そよはそんな風に思っているようだ

しかし、よそが睦を抱きしめようが、燈の手を握ろうが、そんなそよの本心が人を動かすための偽りで出来ていると悟られれば、その言葉はまるで響かず、そよの手からすり抜けてしまう

そよの判断材料であろう情はそよから見た情深さであり、そよは旧「CRYCHIC」に関しては最大の情を感じているため、その時点であらゆる判断が間違ってしまう
燈と付き合いも短く一見薄情そうな言動に見える愛音だが、実際には燈と深い心の絆で結ばれ始めていて、付き合いが長くても本心を隠すそよよりも信頼されているという事実には気が付けない

そよは人に対して常に情けをかけるが、本音でぶつかったことは一度もなく、その情深さを盾に人に強く当たろうとしても、実際には理屈が通らないことなのですぐに跳ね返されてしまう
「春日影」を演奏した立希を非情と非難しても祥子の非を指摘されて返され、祥子に「CRYCHIC」に戻るよう情で訴えても、その根拠が実は自分がかけた情でしかない自分本位なものであると指摘されて返される

自身を切り売りするかのように人に情をかけ、それを根拠にいつか世界が自分の望むものになると信じるそよだが、そんな根拠のない幻想を人にぶつけても世界は動かない
長崎そよは、そんな悲しい幻想に囚われた、か弱い存在となっていた

何でも

5)10話で何が起こったか

8話において、そんな自身の悲しい現実を、最も助けて欲しかった祥子から直接突きつけられ拒絶されたそよの心中は、一体どのようなものであっただろう

遂に燈の呼びかけを無視し、立希には本音を曝け出し、バンドメンバーを不幸のどん底に叩き落とす
学校内ではまだ体面を保っていた様だが、それも何時崩れるかは時間の問題だっただろう
そんな様子を睦に見られ、睦はわざわざ燈に報告に行く

後にそよは燈に「死にたくなる」と語っている
この時のそよは正にその状態だったに違いない
もし、燈が立希の案のとおり海鈴を受け入れていたらどうなっていただろうか
高い確率で、そよは45階から空に飛んでいたかもしれない

その位の危険な状態だったと思われる

10話において、睦の報告を受けた燈のその後の行動は少し奇妙だ
よそでは無く、まず愛音の元に行き、切迫した様子でバンドへの復帰を求める
燈には人の心の雰囲気が見えている節がある(感想1参照)
愛音については、いつか戻ってくれると既に感じていたが、睦から報告を受けたそよに関しては、少し前に自分の事を無視したそよを見ているだけに、それだけで危機的な状態と察したに違いない
愛音の感情を案じて待つことをやめ、助けを求めるかのように愛音にバンド復帰を求め、愛音も遂に折れて復帰を果たす事になる

その後の展開も少し奇妙だ
以前は燈と愛音二人で月ノ森に乗り込んだのに、今回は愛音一人だけでそよに会いに行く
燈は勿論共に向かうつもりだっただろうが、恐らくそれを愛音が止め自分一人で行く事にしたに違いない
対人スキルの高い愛音は(感想2参照)、燈を直接そよに会わせるとより追い詰めてしまうが、自分だけで交渉すれば燈のライブに参加させることだけは出来ると考えたのだろう
燈の詩さえそよに届けられれば、燈がそよを助ける筈と信じて
こうして燈と愛音、二人が持てる力全てを注いでそよを助けようとしていたと思われる

そよは愛音に挑発されて「バンドを終わらせる」と言い放ち、RiNGに来ることになる
この時のそよの心の内は少し複雑だ
そよにとって新たに生まれたバンドは偽物でしかないから、その演奏も人の心に響かない偽りの物であり、それを会場内で喧伝すればバンドは崩壊する筈…、などと見込んでいたと思われる
しかしその一方で、新たなバンドが何故か自分の心にも響くバンドであることを感じていたかもしれない
そよは、自分の心が何処にあるかも分からないままRiNGに居たのだろう

だから燈から強引にステージに引っ張られても強く抵抗することが出来ない
愛音がステージから手を差し伸べたら曖昧な態度のままステージに引っ張り上げられてしまう
ステージに上げられたそよは、もう抵抗出来ない
か弱い彼女は人からの期待を断ることが基本的に出来ない
ライブハウス一杯の観客からの期待を受けて、バンドメンバーからの暖かな期待の視線も受けて、自分が何の為にこの場所に来たのか、全く分からなくなったことだろう

そして、奇跡のライブが始まる

それは、長崎そよはもとより他のバンドメンバーも全員が救われるライブ
このライブによって、真の意味でバンド「MyGO!!!!!」がステージ上で誕生する

6)本当の長崎そよ

ステージ上で恥も外聞もなく号泣し、感情を露わにしたそよは、初めて心を偽ったと感じた頃、つまりは中学に入った頃の3年以上前から抑えられていたものを開放することになる
そんな本音を話すことになった長崎そよは、ぶっきらぼうで辛辣な言葉を平気で言う性格だった
しかし、他のメンバーは特に違和感を感じる事なくそれを受け入れている様だ
きっと誰もが本音を語るそよの方が望ましいと感じているからだろう

そして、次のライブに向けて作業をするバンドメンバーと共に夜を過ごし、朝方になって精魂尽き果てて眠りについている他のメンバー達を、そよは見渡す
その眼差しは、ごく自然に慈愛に満ちたものだった

そよは燈に対し、自身の優しさを「偽善ではないか」と語っていた
そよは、中学の3年間心を偽り続けて、優しさを演じ続けたと自分自身でも思っている
しかし、それは本当だろうか
そよが人に優しくするのは、元々それが出来ていたからだろう
そうでなければ、そんなにも自然に、誰にも裏の気持ちを悟られる事なく3年間を過ごせて来れた筈がない
ただ、その優しさが自分を守る手段にもなってしまったために、人に優しくする理由が偽善と感じられ、自分自身でも人に優しくする理由が分からなくなっていたのだろう
そよは小学生の頃から心優しい少女であり、それは中学生の時も変わらず、そして、今も同様に優しい少女なのだろう
本当の長崎そよの本質は、生まれた時から今の今まで、何一つ変っていない

そして、彼女が新たに獲得したぶっきらぼうな性格は、実は自分の本音を露わにするのが恥ずかしいがため、彼女が新たに獲得した偽りの性格なのかもしれない
それは彼女が人として、他のバンドメンバーと本音でぶつかり合うための、初めて獲得した本音のための対人スキルであり、彼女の成長の現われなのかもしれない

本質

おわり

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