見出し画像

小説『見てる』第二章「ハッキング」

私は通っている大学へ着き、火曜日2限の日本文学がある教室へと向かっていた。

私はパペッティアというアカウントはフォローせずに、そのアカウントを毎日チェックしていこうと決めた。

あれをフォローすると何か嫌なことに巻き込まれる気がして仕方なかった。

日本文学がある教室は広々としていて無駄に300人という大人数が入るほどの教室で、その授業を担当している教授は約40分〜50分ほどの短い映画を主軸とした授業を行なっており、単位も簡単に取れるというので人気であったが、怠惰の塊のような学生達が多く受講していたこともあってか、今では受講している人数は3分の2ほどであり、教室にも落ち着きというものが出てきていた。

いつも教室の中へ入ると、
左側の列の教室の中間部に座っているのは
学友である 片山 学 という男である。

基本的に火曜の2限の授業はこの男と一緒に受けるのがお約束で、くだらない話で談笑しているような仲だ。片山は非常に明るくひょうきんなやつで、コミュニケーション能力も高く年上からはよく好かれるような性格の奴だ。
私も春休みが明けてから何週間かしていつものようにこの授業を受けようと一人座っていたところこの男が話しかけてきたことがきっかけで仲良くなったのである。
彼のコミュニュケーション能力には頭が上がらない。

そして私は先ほどあった奇妙な事を
頭の中から消しさろうとするように、

彼といつもやっているようなくだらない話を交わしていると、いつものようにチャイムが教室に響き渡り、授業が始まった。





教授は、

6月になってから暑くなってきましたねとか、
雨が多いですねとかの浅い雑談から入り、
定期試験が近づいてきたこともあって、定期試験での範囲の話や去年のテストの話などを10分ほどでし終えて、授業の中身に入っていった。


「まあ今日取り上げる内容なんですけどね、
『ファミリー』という作品を取り上げていきます。
これは暗い話なんですけど非常に考えさせられる内容でですね、んーまあ、ご覧いただいたらわかると思います」
と言って、

教授は教卓にあるボタンを押してカーテンを閉め


「じゃあ流しますね」と教授はマウスを動かし、『ファミリー』とかかれたmp4のデータをクリックし、映画が流れ始めた。


映画が始まったと同時に、遅れて教室に入ってきた女性がいた。

帽子を深く被っており、Nickというブランドのジャージを着ていて、リュックサックをからっていた。

そこから続くように遅れてきた人が2、3人入ってきた。

ジャージの女性はこちらの方へ歩いてきて、私が座っている席からニ列前の机の右側の席に座った。

帽子を深く被っていたが少し顔が見え、目鼻立ちが凛としていて、とても綺麗な方だなと思った。




映画が始まり、あたりは静かになった。




プロジェクターからスクリーンに映し出されたのは、田舎の田んぼ景色であった。

その田んぼ景色の中に立つ家々の中のとある民家にフォーカスがあたり、表札には畠中と書かれていた。


そこには4人家族が住んでいてその家族の物語のようだ。

畠中家には父親である 畠中啓一 と母親である 畠中夏菜子、そして9歳の かなえ という長女と6歳の めい という次女が住んでいた。


父親である啓一は、とある事業をやっていたのだが失敗してしまい酒に、タバコに、ギャンブル、借金まみれという底辺のような生活に堕ちてしまい、夏菜子という妻がいながらも様々な女性と一夜を共にし、なにかストレスが溜まるようなことがあれば夏菜子を痛ぶるというような悲惨な家庭であった。

そして、ついにはそのストレスの矛先は夏菜子のみならず、娘であるかなえやめいにも向き、「お前らなんか、お前らなんかいなければ」と罵倒を浴びせながら、顔にあざが残るほど殴る蹴るの暴行を繰り返すようになっていき、見ているものの心を辛くするような映画であった。

そんな映像が流れた時に、ふと先ほどのジャージの彼女を見ると彼女の頬に涙がつたっているのがわかった。

無理もない。

純粋で何の罪もない子供達が痛ぶられている。
あまりに悲しい映像に見てるこちらの心も耐えられなくなってくる。

教授が言うこの映画の暗い話とはこのことだったのか。



その後も映像の中で、夏菜子は必死で子供たちを守ろうとするが、啓一の力には到底敵わず、子供達が痛めつけられているのをただ見ることしかできなかった。

啓一が飲みにいくと言って出て行ったあと、夏菜子は傷ついた体で涙を流しながら「ごめんね、ごめんね」と言って娘たちを抱きしめた。


そして、ある時夏菜子はそんな生活に耐えられなくなり娘たちを連れて家を出ていこうとした。

かなえとめいに荷物をまとめるように言い、夏菜子は自分の荷物をまとめ始めた。



その時だった。



パチンコに行っていた啓一が帰ってきて、

「何してんだ!」

と罵声を浴びせられ、また殴る蹴るの暴行が始まる。

「このやろう、このやろう!出ていこうなんざ絶対許さねえからな!」

夏菜子は、床に倒れ、蹴られ続け、体を守るようにうずくまっていた。



その時だった。



この映画のストーリーが急変した。



突然、

夏菜子の体を蹴っていた啓一が「うっ」と言って動きが止まってしまった。


夏菜子は、急に蹴ることをやめてただ立っている夫の顔を見たが、何が起きたのかわからなかった。

ただ、彼の体に視線を落とすと、


啓一の白いTシャツが赤色に染みて、


啓一の体から ポタッ ポタッ と赤い液体が床に落ちていってた。

啓一は床に倒れ、その後ろにはかなえが立っていた。

かなえが大きな声で泣きながら、赤く染まった包丁を持っていた。



夏菜子はその瞬間全てを悟った。



夏菜子はかなえの持つ包丁を急いで取り上げ、

台所の洗面台へと投げた。



すると、夏菜子はかなえの手を握り締め、言った。

「めいを連れて一緒に逃げなさい。」

夏菜子はかなえを抱きしめ、

「本当にごめんね本当にごめんね」
と涙を流しながら言っていた。

そして、布団の上で寝ていためいを起こし、
抱きしめた。

「めいごめんね、元気でね」

夏菜子は涙ぐみながらめいにそう言った。

「めいもかなえも野鷹のお婆ちゃんのとこに行ってね。ママからお婆ちゃんに言っておくから。」

夏菜子は、かなえとめいを預ってもらおうと夏菜子の地元の野鷹に住む自分の母親のところへ逃がそうとした。

かなえは涙ぐみながらも
母のセリフに嫌な予感がし、

「ママは?ママは来ないの?」
と聞き返した。

夏菜子は、笑顔で
「大丈夫。ママもあとからお婆ちゃんのところ行くからね。だから、一旦バイバイしようね。」



「いやだ、いやだ!ママも一緒がいい」

かなえは泣きながら訴えた。

こんな不安な状況だからこそ母親と一緒にいたい、という気持ちなのだろう。

だが、そんな娘たちの訴えを振り解くように夏菜子は娘たちに叫んだ。



「いいから!早く行って!」



その映画の中で夏菜子が初めてかなえやめいに対して怒鳴った瞬間であった。

しかし、それは

娘たちにさよならを告げる悲しさ、

元気でねと送り届けるような気持ちが入り混じったような『怒鳴り』
であった。

夏菜子はタンスの引き出しに手を伸ばし、何かを取り出した

「これで、これで、お婆ちゃんのところまで行って」

とクシャクシャな1000円をかなえは受け取り、

かなえとめいは不穏な現実を受け入れられないながらも、玄関から外へ夏菜子から荷物と一緒に押し出され、ドアを少し開けた隙間から夏菜子が顔を出し、「元気でね」と涙を流しながら笑顔で、ただ一言、ただその一言が、かなえとめいが聞いた母の最後の言葉だった。


ガチャンッと扉は閉まり、ガチャっと鍵が閉まる音がした。


「お母さん!お母さん!」

そう投げかけても夏菜子は何も反応しなかった。



ただ、


部屋の中から液体のようなものを地面に振り撒くようなビチャビチャという音がした。



かなえは子供ながらも母が何をしようとしているのかを察し、涙ぐみながらめいの腕を掴み、駅の方へと走り出した。


そして、駅の方へと走り出して数分経ち、


かなえたちが住んでいた家は火の海に包まれた。





かなえたちはそんな火に包まれた家を背に駅の方へ走った。


決して振り向かず、ただひたすらめいの手を握り、走り続けた。

そして、その映画は暗転し、次の場面へと切り替わった。

そこには、
大学生になったかなえが映っていた。

めいもまた高校生になっていた。

あれから、彼女たちは電車で野鶴まで行きお婆ちゃんの家で育ち、
大人なった。



なんだか、あんな境遇にあった娘たちも元気に育ったのかと思うと心が温かくもあり、暗い過去があったのだという同情の念が混ざり合い、複雑な感情になっていた。



ただ、ふとあることを思った。

高校生になっためいの女優さんの顔。
なんだか見たことがある顔だなと思った。



あっ と思い、

私は再度私から右斜め前の席にに座ったあのジャージの彼女の顔を見た。

教室から入ってきた時に
帽子を深く被っていた彼女。




そう。彼女だったのだ。


帽子を深く被ってたのもジャージというあまり目立たない格好をしていたのもそれが理由だったのかとそう思い、彼女に再び視線を向けた。


やっぱり似てる。横顔が彼女そのものだった。

私の角度から見れば帽子を深く被っている彼女の顔がはっきりと見えた。


私はこのことを誰かに一刻も早く話したいと思い、片山にでも伝えようかと思ったが、彼はひどく賑やかでいるのが好きな人間なので、こんなすごいことを彼にバラシたりでもすれば、彼はたちまち授業終わりにでも彼女に非常に迷惑な声量で声をかけ、周りの生徒にも彼女のことが知れわたってしまう。

私は、この感情にソッとに蓋をした。

すると、彼女は人の映画を見た反応を確認するように周りを見渡していた。

映画を見てる生徒の中には少し涙ぐんだ顔をしている子もいたことから、彼女は満足気な顔をした。 




だが、

その映画は最後の最後で視聴者を裏切った。


かなえは、大学に行ってくるとめいに言っておばあちゃんの家を出ていき、自転車で山の方へ漕ぎ出した。 
すごくのどかで心が休まるような空間であった。

山道を少しずつ、汗を垂らしながら登っていき行き着いた先は小さな民家であった。


民家の前に自転車を停め、

かなえは中へ入って行った。

次のカットでは、彼女の心はもう怪物と化してしまっているのだということがわかった。

民家の中には、椅子が柱に厳重に括り付けられていて、その椅子の上には顔が血だらけで、爪を剥ぎ取られていて、両腕と両足が縛られている死体が映っていた。

彼女は虚ろな目で持っていたバッグからナイフを取り出し、「へへ」っと笑った。


映画はそこで終了し、教室はなんとも言えない空気に包まれた。

確かに色々考えさせられる内容だった。

後味が悪いとはまさにこの事だろう。



エンドロールが流れ始め、

キャストの名前がつらつらと書かれている中、

めい(高校生)  後藤ナヅナ 

という名前が出てきて、

私は彼女の名前をメモし、彼女について少し調べよう。とそう思った。

教授は自分が作った授業のスライドの方へ画面を移し、いつものように先ほど見た映画の解説を行い始めた。

映画の解説をする時、

いつもこの時が微妙に教授の説明がながったらしく、話もテンポが悪いため生徒たちは、毎度毎度スマホを触る。

だが、私は彼女が出ている映画ということもあり、少し興味があった。

そして彼女もまたスマートフォンを開き、自身のSNSのタイムラインを見ていた。

そして、ひとしきりみたあと彼女はまた別のSNSを開き、自身のプロフィールを見ていた。

恐らくだが、自身が女優の仕事用で持っているアカウントのフォロワー数の確認を行なっているのだろう。

今映画を見たみんながエンドロールを見て後藤ナヅナという女優を認識してくれてツインターやビンスタグラムのアカウントをフォローしてくれる。

そう思ったのではないのだろうか。



ただ、彼女はプロフィールを見た後、何事もなかったようにスマホをスリープ状態にした。

彼女の反応から見るにそこまでの動きはなかったのだろう。

周りの人間は、たしかにツインターやビンスタグラムなどのSNSを開いている者もいればイヤホンをして動画を見てるもの、ゲームをしている者もいた。

みんな彼女について調べているような様子ではなかった。


ただ彼女の様子からして、この映画を授業の中で扱うということは教授に直談判して上映してもらったということなのだろうか。

たまたま、教授が上映した作品に出演した女優が私の右斜め前に座っているなんていうことは、映画や小説でもない限り、そんな偶然まずあり得ない。

私は教授の解説を聞きながら、またスマホを起動し始めた後藤ナズナさんの携帯の画面を眺めていた。

そして、彼女がツインターのアカウントを切り替えるのがわかった。


彼女はそのアカウントのタイムラインを眺めていて、その中には私が大学用のアカウントでフォローしている人のアイコンなども見受けられた。 

自分で言うのもなんだが、私は変態的に目がいいのである。

そのアイコンの人は2000人ほどフォロワーがいてこの大学の休みの日や祝日だけど授業ありますよ―など、この大学にいる人間にとってすごく有益な情報を発信してくれるアカウントなのである。



つまり、そのアカウントがタイムラインに出てくるということは、彼女は大学用のアカウントと女優用のアカウントを持っているのではないか。とそう思った



そこである考えが浮かんだ。


私は、彼女に対して

「先ほどの映画で
あなたらしき人が出てくるのを見ました。
女優さんなのですか?
あなたの演技がすごく印象的でした。」


なんて言って近づけば、

彼女の大学用のアカウントを話の流れで聞き出せることができるのではないか。

彼女のアカウントを知り、彼女の投稿する私生活を見る。

彼女はあまり自分のことをバレたくなさそうにしていた。

私が、彼女が先ほどの映画に出ていたことを話せばバレてしまったと思うだろう。

そして、ファンが一人でも欲しい彼女だからこそ、自分の演技をほめてくれた同じ大学の友達になりませんかなどという頼みをされた場合、彼女はここで断ればファンを一人なくすことになるかもしれないと考え、私の頼みを聞き入れ、SNSのアカウントを知ることができるのではないか。

そう思った。

そして、定期的に彼女が出てる作品などを確認し


あわよくば、そこから彼女と親しくなり、お酒を飲ませ、(大人の事情で割愛するが)様々なことを経て、恋人関係になるまで事をもっていく。

という私のきれいな女性と恋愛や様々なことをしてみたいという願望が脳内に浮かび、授業終わりにでも彼女に近づいて話しかけてみよう。とそう思った


我ながら妄想が過ぎるのかもしれんなとは思いながらも、この衝動的な気持ちを抑えることはできなかった。



「えー、先ほど見ていただいた『ファミリー』は、大変心が苦しくなるような作品だったのですが、この作品は実話なんですよね。」


と私の妄想を遮るかのように教授の話が頭に入ってきた。


「これは今から12年前に起こった事件を元にして作られた作品で、みなさん様々な年齢の方いらっしゃると思いますけど、皆さんの年齢的には小学校の時ぐらいに起こった事件ですかね。」


私は微かな記憶だが、小学生の時になんとなくそんな話を父と母が話していた気がする。自分と歳が近い子供が住んでいた家が火事で焼けこげ、火をつけた犯人はその子たちの母親で、暴力を行っていた夫を復讐として殺してしまったという事件である。

そしてその事件は木沢というここから電車で行けるほどの距離の地で起こった事件だった。



ただ私はいやな予感がした。



私が朝乗った電車が停車する駅には、木沢駅というところがある。

作中に出てきた野鷹という場所は、もしかして野鶴のことなのではないか。

というのも、木沢駅から野鶴駅は電車で2駅ほどの距離にある。


私は今のところ、朝から奇妙な感覚が2度も続いているため、

彼女のことについて調べようとスマホで後藤ナズナという名前を検索した


1番最初に出てきたのは先ほど見た映画 ファミリー の特設サイトであった。他は名前占いなどで私の目の前にいる彼女の情報についてはそのファミリーのサイトぐらいだった。

まだ名の知れていない女優かもしれない。


私は、映画『ファミリー』/ キャスト紹介 と書かれたところを押すと、出演していたキャストの名前と写真が載っていた。

そこには、彼女の写真が出ておりその下に後藤ナズナと書かれていた。

その下にはナズナのコメントが書かれており、
読んでみると、

"『ファミリー』は私のデビュー作です。
とあるシーンで出演させていただいて
すごく嬉しかったです。
かなえとめいは...

とコメントが述べられていて、そこで彼女のデビュー作品であることを知った。

そして、私は自分が彼女に近づくための作戦にたいし、自信を持った。

先述したとおり、
デビュー作でかけだしとあれば、一人でも多くファンを集めたいであろう。

そして更に、面と向き合って自分の演技を褒めてもらえたら、彼女は喜びのあまりに、流れで彼女の大学用のアカウントをフォローし、そこからうんぬんという作戦は成功するだろう。と自信を持った。

そしてふと私は彼女の女優用のアカウントもフォローしようと思い検索をかけた。

今後の彼女の仕事についても情報を入れておかねばならない。

思いの外、簡単に見つかりフォローした。

その映画の影響もあるのだろう、彼女のアカウントには約900人ほどのフォロワーがいた。


私はすかさずフォローを押し、私も彼女のファンとしてフォロワーの一人となった。


学友である片山は次の時間もこの教室で、毎回通学時に買ってくるコンビニ弁当をスマホを触りながら食すため、チャイムが鳴れば、ここで別れる。

だから、彼女が教室を出て行ったタイミングを見計らい、彼女に声をかけようと計画した。


準備は万端だった。

時計を見ると授業終了のチャイムが鳴るまで15分ほどだった。

ふと私は、何気なく、この事件について調べてみようと思い、スマホで木沢 家事 事件と検索をかけた。

教授もそのことについて話しているが話がどうも下手なので頭に入らない。

すると、すぐに12年前のその事件が出てきた。

映画の中では「畠中」という苗字の家族であったが、それは映画のための仮名あった。

実際は「田山」という苗字の家族だったらしい。

教授もその話をしていた。その後、私はスマホで調べるのをやめて教授の説明を聞いてみると、インターネットの記事なんかよりもより詳しく説明がされ、私は珍しく教授の話に聞き入った。

父親と母親は火の海に包まれ、近隣住民の通報により消防隊が駆けつけ、消火作業が始まり、父親と母親の遺体は皮膚が焼けただれた状態で発見され、遺体に調べが入ったことで、父親が刺されたことがわかったらしい。

そして、火をつけたのが母親であったり、近隣住民から、田山家から「やめて」という叫び声や泣き声、父親の怒鳴った声を聞いたことがある、という報告があったため、娘たちを祖母の元へ行かせて預らせ、DVを受けていた母親が父親を刺し殺し復讐をはかった。とそのようにネットの記事では書かれていた。

映画と少し話が違うようだ。

もしかすると、この事件の本当の真実は映画の中であったように母が娘の罪を被ったということなのかもしれない。



そして、チャイムがなる10分前になると教授が
「今日は少し早いですがここら辺にしときましょうかね」と、いつもより早く授業が終わった。


すると、生徒たちは颯爽と広げていた資料やら教科書やらを片付け、ぞろぞろと教室を出ていった。

その中で彼女(後藤ナズナ)は荷物をまとめ、教室の扉の方へ歩いて行った。

その時が来たなと思い、私も移動する準備始め、片山に「じゃあな」と言おうとしたその時だった。

彼女はスライド横にある教卓に立つ教授の元へ駆け寄り、笑顔で会釈をしていた。

そこで私はやはりこの映画は彼女が教授に頼み込んで上映してもらったのだなと思った。

恐らく彼女は宣伝のために授業という場を使ったのかもしれない。

映画の内容は人によって嫌うものかもしれない。

先ほど見た映画の特設サイトでの映画の説明でも虐待モノの作品ということがわかる。

好きな人は好きで嫌いな人は嫌いという位置の映画であった。

そういうものを好き好んでみる人は少ないかもしれない

だからこそ宣伝のような形で映画を流してもらったのだろう。

そして、女優としての認知度を上げたかったのであろう。

なおさら都合がいい。

そして、教授も笑顔で会釈を返し
「頑張ってね。」と彼女に対し言ったのがわかった。

そして、彼女は再度頭を少し下げ、教室を出ていった。

私はそのタイミングで片山に対し、「じゃあな」と言って教室を出ていき、少し走って彼女の後を追いかけた。

彼女が階段を降りていくのが見えて、

僕は、彼女の近くに行けるまで平然を装いながらも早く階段を降りながら彼女の後ろに近づき、

「あのーすいません」

と声をかけた。


彼女はこちらを向き、「はい?」といった。

「急にすいません。さっきの『ファミリー』って映画に出てませんでしたか?」


「後藤ナズナさんですよね?」と聞いた。

私は、彼女の演技の印象が強く残っていたということを感じさせるためにあえて彼女の名前を強調した。

あの数分の出演で印象が残り、
気になってエンドロールで名前をわざわざ見て覚えてくれたともなれば、彼女は嬉しさのあまり、グッと距離を縮めてくれるであろう。

すると彼女は、

「そうです笑。高校生になっためいの役をやってて」

「実は僕、あなたの演技にすごく印象を受けまして、そしたらめいとすごく顔が似ている人が僕の斜め前に座ってるって思って」

「えー!そうなんですか!ありがとうございます!すごくうれしいです!気づかれちゃってたんですね」

とお互い、笑顔で言葉を交わし合った。

「どこの学部なんですか?」
と聞くと、

「経済学部ですね」

と答え、
「あの授業ってどんな感じで評価するんですかね」と学生らしい質問を投げかけ、

そこから談笑した。

私はこの談笑ができる力は片山と話しててできた能力であるため彼には感謝したい気持ちだった。

ある程度距離が近くなったなと感じたところで
本題を切り出した。

「あっそうだ、SNSってやってます?」

そう聞くと彼女は、

「ツインターとビンスタグラムやってます!」


と自然な流れでアカウントを聞き出せる機会が出来たことに私は喜びがこぼれそうになるのを抑えた。


すると彼女は

「後藤ナズナと検索すれば出てきますよ」

と先ほどフォローした彼女の女優業のアカウント
のことを教えてきた。

すでにフォローしたということを言うと今やっているこの行動が連絡を聞き出すための行為のように思われそうだったため、「あ、そうなんですね!」とあたかも、初めて知ったかのような反応をした。

そして、自然な流れで私は本題に入った。

「ナズナさんって大学用のアカウントみたいなのってあるんですか?」

そう言うと、

「いや、この仕事用のアカウント以外は持ってないですね」

と返ってきた。


なぜ隠す必要があるのだろうか。

もしかすると、先ほどのアカウントは大学用などではなくて、単純にプライベートとして使っているアカウントなのだろうか。

彼女の個人的なアカウントについて知れないのは惜しいと思ったが、ここでガツガツいってしまうと彼女に引かれてしまう。

私はあくまでもまずは、少し仲のいいファンの一人であり、一緒の授業で親しく言葉を交わした関係ぐらいのポジションを築かなければいけないのである。

それが大事な第一ステップだ。

でないと、私の願望は願望のまま終わってしまう。

だんだんと彼女と授業で顔を合わせるうちに友達のように仲良くなっていき、そのプライベートアカウントすらもフォローできるような仲になろう。そう思い、私の心の中の欲を抑えつけた。



わたしは社交的に、「そうなんですね!じゃあフォローさせていただきますね!」

と言うと、彼女は

「ありがとうございます!」

と素敵な笑顔で返した。

そして、私はこの楽しい会話を持続させるために何気なく頭に浮かんだ質問を投げかけてみた。

「ナズナさんって芸名なんですか?」

と聞くと、



「そ..う...ですね。」

と彼女は何かまずいことを聞かれたような返し方をした。

私もとりあえず気まずい雰囲気
にしないようにと笑顔で、

「へー!そうなんですね!」
と返した。


すると、


彼女が持っているリュックからブーッ、ブーッ、ブーッとスマホのヴァイブレーション音が聞こえ、彼女のスマホに電話がかかってきていることがわかった。



彼女はリュックの中をごそごそし、スマホを取り出すとそれと同時に




彼女のリュックから何かが飛び出て、ブランブラン垂れ下がった。



それに目線をやると、それは定期を入れるホルダーだった。

どうやらリュックの中のどこかにそのホルダーをつなげているようだ

そして、そのホルダーの中には学生証が見えた。



ただ、その学生証を見ると

彼女が名前の話をした時になぜまずいことを聞かれたような返し方をしたのか理解できた。





なぜなら、その学生証には














"田山玲奈"という名前が
記されていたからだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?