見出し画像

小説『見てる』第三章「罠」

彼女の学生証を見つめている私の顔を見て、だんだんと彼女の顔から笑顔がなくなっていった

「あの...ちょっと..座ってお話ししませんか。」

私は驚きを隠しながらも、彼女に言われるがままついて行った。

彼女は空き教室を見つけると何も言わず入っていき、教卓の前の席につき、二人で話しをすることになった。

彼女は席につくと少し溜息を洩らし、黙り込んだ。

私は先ほど知った彼女の情報に動揺していて彼女に喋りかけるような心の余裕はなかった。

静寂に包まれた教室に、どんよりとした気まずい空気が流れる。

重々しい空気の中、彼女がやっと喋り始めた。

「あの...このこと!誰にも言わないって約束してもらえませんか...。私、なんでもします...。」

まさかではあったが偶然にも私にとって好都合なことを言ってきた。

だが、私は先述した通り、目の前で起きている衝撃的な出来事にあまり頭が回っていなくて喜ぶに喜べなかった。

ただ私は一言、
「わかりました。」と返した。

それしかできなかった。

「あ、あのすいません、つまり、さっきの教授が言ってた事件は、ナズナさ…じゃなくて、玲奈さんのご両親間での事件だったということですか?」

「そうですね…ネット記事では、あの事件は”お母さんがお父さんを殺した”ことになってるんですけど、私があの映画の監督さんに事件のこととか真実を話して、そしたら映画にしてもらえることになったんです。」

「えっと......じゃあ...あの映画の内容が、事件の真実なんですか?」

「そうです。」

私は彼女の名前を見たとき、「そんなまさか」と半信半疑であったが、
彼女の生々しい事件の背景や虐待されていたことなど、様々な話を聞いて本当にあの家族の娘なのだと感じた。

事件のことを話している彼女の表情は、とても悲しそうだった。

すると彼女は突然、頭を下げた。

「だからお願いします。本気で女優で食べていけるように目指してて、やっと仕事つかむことができたんです。映画の中でもオーディション通って掴めた役ってことになってるんです。」

ただ、私には目的があった。

彼女は「何でもする」と先ほどいった。

ここで急に性的な事を要求するとひかれてしまう。

計画していた通り、まずは友達から始めなければならない

ここは優しく接し、着実に関係性を深めなければ。慎重にいかなければ。

「僕は絶対誰にも言いません。それに、あなたの演技はそんな過去さえ吹き飛ばしちゃえるぐらいすごかったです!あんなに印象深い演技ができるんだもん。僕は本気で応援してます!そんなすごい人の将来を潰すわけにはいかないですからね!」

さらに自分はいい人だという感覚を彼女の心に植え付け、信頼感を与えるため、”褒め言葉+今後もファンとして応援していく”という内容の言葉をかけた。

我ながら褒めすぎかとも思ったが、彼女を顔を見ると

彼女は今にも泣きそうになっていた。

ベタではあるが、私は持っていたハンカチをソッと彼女に差し出した。

すると、溜め込んでいた感情が溢れ出たように彼女は泣き始めてしまった。

静かな教室には彼女のすすり泣く声が響いていた

私は彼女の涙が収まるのを待った。

すると彼女は あっ と言って私の顔を見た。

「お名前まだ聞いてませんでしたよね」

「あ、それもそうでしたね、
僕は荒川って言います、荒川修平です。」

「荒川さんは一人暮らしですか?実家?」

「僕は実家から通ってますね。」

「うわーそっか。一人暮らしだったら料理得意なんで料理つくりに行こうかなと思ったんですけどね。」

なんというチャンスなのだろう

私は意外と簡単に自分の願望が叶うのではないかと心が弾んでいた。
ただ家に女性を上げると何かとめんどくさいことが多い。
何か策はないものか。

すると彼女は、

「私の家、来ます?」

神様が私に幸運を与えてくれた感覚があった
これほど天が味方してくれている状況はない。
あまりにもついてる。
仲を深めるのにもいい機会だし、あわよくば(大人の事情で割愛するが)そういった流れに持っていけるのではないか。

これは私の願望が叶う日は今日なのかもしれないなと感情が高ぶっていた。

「いいんですか?」

「いいですよ。荒川さんいい人ですし。あとこれは私からのお礼の気持ちもあるので」

「ありがとうございます!」

これは流れで連絡先を聞けると思い、

「あの連絡先って聞いても大丈夫ですかね?」

と聞くと彼女はスムーズな返しで

「大丈夫ですよ!」

と言って、スマホで彼女のQRコードを読み取り、彼女との距離を縮めることができた。

そして私はさらに彼女の家で距離を縮めようと心に決めた。


チャイムが鳴り、昼休みが始まったことを知らせた。

すると彼女は、「また連絡します」と言ってリュックをからい、
「本当にありがとうございます!」と一礼をした。

私は、「いえいえ」と言い、

彼女は、
「この後友達とご飯を食べる約束をしてるので行きますね、またあとで」と笑顔で言って、教室を出て食堂の方向へ歩いて行った。

私は、夢のような高揚感に包まれ頭の中は彼女の家へ行った後を妄想することで頭がいっぱいだった。

昼休みはそのことで頭がいっぱいで3限のゼミの発表では頭が回らず、作ってきた資料の説明は非常に下手くそで、質疑応答でも「すいません、わかりませんね」の一点張りで教授から怒られてしまいそうなほどの冷たい空気感を作り出してしまった。

ハーっとため息をつきながら学内を歩いたが、そんな心を癒すようにこのあと彼女の家でどんなことをしようかとまた考えていた。

私は、なんとなく、仲をより深めるためにはやはり二人でゲームなんかの娯楽をやった方がいいのかもしれないなと思った

そして、ふと私の頭にとある考えがひらめいた。

私が愛用していて常にカバンの中に持っている砂時計が2つある。

私と彼女でなにかゲームをし、負けたほうは罰ゲームとして、相手から聞かれた質問に2分の間だけ答えなければいけない。

そこで、彼女のことをもっともっと聞き出そう。

そしてその中で修学旅行のように彼女の持つ秘密なんかを聞き、仲を深めていこう

そして私もゲームに負けたりなんかして自分のことを話し、だんだんと距離を縮めていく。

秘密を共有することで彼女との仲を深めよう。

そして彼女のことを深堀りし、恋愛関係なんかに発展できるような流れに持っていこう。

突然、私のスマホがブッとなり何かメールが来たことを知らせた。

メールを開いてみると玲奈さんからであった。

”何限で終わりですか?”というメッセージに

私は、”4限までです”と返した。

”そうなんですね!でしたら、4限が終わる時間帯に大学の門の所で待ってますので”

”ありがとうございます”

久しぶりに”女性と待ち合わせする”という青春のような行動をしたことが私は何気なくうれしかった。

私はルンルンな気持ちで4限の授業を受け、授業終了のチャイムが鳴り響くと同時に大急ぎで開いていた授業資料をカバンの中へ入れ、彼女の待つ正門へ向かった。

ただ、私は正門へ向かう途中で彼女とやるゲームを何にするかを決めていなかったことを思い出した。

んーとじっくり考え

対等にやれて盛り上がる楽しいゲーム。

なんだろう

私は少し考えて、頭の中になんとなく「ジェンガ」が思いついたため

大学の近くに100円ショップがあったことを思い出し、私は走って買いに行った。




大学に戻ってきて、彼女の待つ正門へと向かった。

彼女は買い物袋を持って立っており、私はそんな彼女に「お待たせしました」と挨拶し、紳士的な一面を見せるため「持ちますよ」と言い、買い物袋を持ち、彼女の後ろをついて行った。

歩いてから15分、とあるアパートに着いた。

「ここが、私の家です」

白色で塗装もきれいなアパートでいかにも新築といった感じのところだった。

「このアパートって結構新しいですよね?」

「そうなんですよ、確か二年前に建ったって不動産屋さんも言ってましたね」

彼女のことだ。きっと普段から部屋の中もきれいにしてるのだろう。

彼女は鍵を開け、「どうぞ」と笑顔で中へ招いてくれた

私は胸を躍らせながら家の中へと入っていった。



家の中に入ると、私の予想通りとても整理整頓された部屋だった

ただ、あまりにも綺麗すぎるというか、床にはごみ一つ落ちていなかった。



少し潔癖症なのだろうか。

このタイプはスリッパを履かなければいけないタイプだなと思ったが、

彼女はどうぞどうぞと靴下のまま私を中へ入れてくれた。

もしかすると、彼女のことを周りに漏らさないということを約束した私だからこそ気を遣ってくれたのかもしれない。

私は「おじゃまします、きれいな部屋ですね~」

というと、彼女は謙遜して

「全然そんなことないですよ」と笑顔で返した。

本当に礼儀正しく几帳面で、容姿も綺麗という素晴らしい彼女に対する私の好意はだんだんと膨らんでいった。

「ソファでゆっくりしていてください」

と彼女から優しく声をかけられ、

私はお言葉に甘え、ソファに座った。

彼女は被っていた帽子を取り、

私はさらさらできれいな彼女のロングの髪を見ることができた

なんと気分が良い日なのだろう。

そんなことを思っていると彼女は、

「あ、ちなみにカレーです笑」

と言って台所に入った。

「まじっすか!カレーめちゃくちゃ好きです!」

「そうなんですか!良かったです、お口に合うかわかりませんけど」

「楽しみにしてます」

私は社交的に返し、料理が出来上がるのを待った。

20分ほどして彼女は作ったカレーをもってきて、

二人でカレーを食べた。

カレーを食べているときに何気なく彼女は私に質問してきた。


「荒川さんって、彼女とかいらっしゃるんですか?」

「今はいないですね、前はいました」

「そうなんですね。荒川さんって優しいからめちゃくちゃモテるんじゃないんですか?」

「全然ですよ、本当にモテないです。」

彼女は笑顔で、「えー本当ですか?意外だなー」と返してきた

私は一応確認のために、

「玲奈さんは付き合ってる方とかいるんですか?」と聞くと

「いないですよ、一回も男の人と付き合ったことないんです」

私は心の中でガッツポーズをした。

「けど、荒川さんならいいかもな」

私は絶好のチャンスが来て、「いいですよ」という言葉が口から出ようとしたとき

「なーんてね。冗談ですよ」

という一言を言われ、私の心の中ではさらに彼女に対する好意や彼女と付き合いたいという気持ちがさらに高まっていった。


そして私はここに来る前に考えていたゲームを彼女に持ちかけることにした

「ジェンガを持ってきたんですよ、食べ終わったらやりませんか」

「ジェンガですか、いいですね!」

私はここへ来る前に考えていた罰ゲームのことを説明した。

ルールは先述した通り、負けた方が勝った方にいろんなことを質問されて、砂時計が砂を全て落とし、2分たったことを知らせるまでその質問に答えなければならない

彼女は「面白そう!」と言ってくれてゲームを予定通りやることになった。

もうその時には心の中で、彼女に対する好意とともに彼女のことをもっと知りたいという欲が怪物のように暴れまわっていた

私は早急に彼女と私が食べ終わった皿を流し台へもっていった

ただやはり流し台もあまり使ってないのではないかと思うほど非常にきれいだった。

私は、再び清潔好きな彼女の人間性を感じながら彼女の元へ戻り、ジェンガを箱の中から取り出した。

そのジェンガの箱は縦長になっていて、まっすぐ上に箱からとり出すとジェンガの塔が出てきた。

準備はOKだ。

彼女とじゃんけんをし、私が先攻になった。

私にとって重要なゲームがスタートした。


何本かお互いジェンガの棒を抜きあい、塔の上に積み重ねていって

立派に立っていたジェンガに塔も時間が経っていくごとにだんだんと不安定になってきた

私はこのゲームに勝たなければならないと気持ちを入れ直し、慎重かつ冷静に、ジェンガの木の棒をゆっくり

引き抜いた。


塔は少しぐらついた。

が、しかしジェンガは姿勢を取り戻し、直立状態に戻った。

心の中でホッとした。

ただ、これはチャンスだ。

あのぐらつき具合だと次に彼女が棒を引っこ抜けば倒れる可能性が高い。

彼女は安全に引っこ抜くことができる棒の場所を探した。

だが、ほぼ彼女の敗北が決まったようなものだ

そして、ある一つの棒に決め、それをゆっくり慎重に引っこ抜いた。


だがその塔は先ほどと同様倒れはしなかった

だが、彼女は楽しげなテンションになっておりゲームを楽しんでいた。

私は絶体絶命のような状況であったが、やるしかないと思い引っこ抜く棒を定め、


引き抜いた


がしかし、天は私に味方しなかった。

その塔はゆらゆら揺れて崩れ落ちてしまった。


これほど悔しいことはなかった。

次の2回戦では絶対に勝つ。と心に決めた

だがしかし、これも仲を深めるため。

しょうがないと心の中で思いながらもどんな質問が飛んでくるかわからなかったため、彼女の質問に対し心を構えた。

すると彼女は、

「じゃーそうだな」

と考えだし、スマホをちらちらと見だした。

すると彼女は、

「いいです!それよりも今回は荒川さんへのお礼みたいなものなんで、特別に私のちょっと秘密にしてることを明かします!あ、でもその代わり、話す内容は私の方で指定させてください。」

「本当にいいんですか?」

私は、唐突な彼女の行動に驚きつつも彼女のことをもっと知れるということで内心、興奮に近い楽しみが私の心を包んだ。

「それじゃ、説明した通りこの砂時計の砂が全て落ちるまで話してもらってもいいですか」

すると突然、彼女の表情から笑顔が消えた。


「あ、2分もかからないので大丈夫ですよ」

どうしたのだろうと思ったが、彼女はまた話し始めた

「3つ、3つです。3つ私の秘密を話します。」

彼女の表情がだんだん強張り始めた

「はい」

と私は反射的に返し、もしかすると彼女の家族の事件のことをより深く話すのかもしれないと思い、聞き入った。


だが、そのときが、私が”田山玲奈”という女性と話した最後の時間だった。
それも、このあとの彼女の一言から私の生活は大きく変わってしまった


「まず、一つ目の秘密です。

実は私は、ここには住んでいません。

あくまでもここは舞台の上にしか過ぎないんです。

私はずっと演技してたんです。あなたを誘い出してたんですよ。

そしたらあなたまんまとこっちが仕掛けた罠にはまりましたね」

私は言われた瞬間、彼女の言っている意味が分からなかった。
私が困惑していると、

彼女は、

「二つ目の秘密です。


私はあなたを殺したいと思っています。」

唐突な彼女の発言に何も言葉が出なかった。

もう私は何が何だか分からなくなっていた。彼女と会ったのは今日が初めてだ。

それに、私は彼女に何の危害も加えていない。

なぜそんなことを思われなくちゃいけない。もしかすると私はここで殺されてしまうのではないか。と体は恐怖で怯えてしまい、様々な考えが頭を巡り、私は動揺した。



ただ、彼女の三つ目の「秘密」に私は心の中を見られてしまったような感覚があった。


「最後に三つ目の秘密です。

荒川さん、




私は、


あなたの隠している「秘密」を知っています」


体中から汗があふれ、恐怖がさらに私を包んだ。



なぜだ、なぜバレた、


誰にも知られてはいけない秘密


漏れてはいけない秘密



触れられてはいけない「秘密」



「なんだよ!なんのことだよ!」

「お前は何なんだよ!」


私は彼女にそう叫ぶと、

彼女は虚ろな目をして、目に涙を浮かばせながら言った。


「荒川、ゲームオーバーだ。」


すると突然、外から男の大きな声で、「突入!」という声が聞こえた。

それと同時に窓や玄関の扉からスーツを着た人や警察官らしき人が入ってきて私の体を取り押さえた。

扉の向こうにはなにか赤い光を灯らせた車が見え、そのとき私は”終わってしまった”とそう思った

私は、腕を後ろに回され、手錠をかけられた。


「ほら、歩け」と言われ、家の外へと連れられた


家を出ると、やはりその赤く光っていた車はパトカーだった。

私を取り押さえたスーツの男が、私をそのパトカーの後部座席のドアの前に連れてくると

後部座席のドアが開けられ、「乗れ」と押し込まれた。

私は乗り込むと、


そこには一人の女性が座っていた。


どこかで会ったような見覚えのある女性だった。



「いやーどうも。夜遅くにごめんねー、荒川君。
今日の朝ぶりだね」

そう言われ、ハッとなり私は思い出した。


今日の朝、電車で私の隣に立っていた女性。


そう。


パペッティアのアカウントを持っていたあの奇妙な女性だったのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?