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SDX Death & Darknessをミックスしてみる

特にBlack Fridayセール中というわけではないけど買ってしまったSDX Death & Darkness。
ダウンロードに丸1日くらい掛かってようやくインストールが終わったので、試験的にラフを作ってみました。

リフセクションだけなので、ここから主旋律が入るとまた勝手が変わるかとは思うのですが、備忘録も兼ねて何をやったのかをメモしておこうと思います。

最初にやったこと

ミックス前の下準備としてやったこと。

被りの調整
ドラム音源ならこれは大事。
被りは概ね-6〜-9dBに落としました。ドラム音源だからこそできる被り対策、生録のデメリットまで再現する必要はないですよね。
とは言え完全に切っちゃうと違和感があるので、邪魔にならない程度に鳴らしておきます。

使うマイクの選定
使うマイクは、どのマイクを何に使うのかを考えながら選定。
OHは普通のやつだけ使用して、金物のアディショナルマイクはHHとライド、スプラッシュとチャイナシンバルは生かしておきました。
OHの音量バランスは録った時のまま、刻みものやエフェクトシンバルをどの程度鳴らすかをミックスの段階でフェーダで決めたかったので。
最終的に、チャイナシンバルのマイクは使いませんでした。

キックはコンデンサマイクとダイナミックマイク1。ダイナミックマイクは1と2のどちらか片方を使えば良さそうだなと思ったので、とりかえず1と2を両方書き出しておいて、混ぜる段階で選定。
サブキックは最近使わないので最初から切っておきました。

スネアに立っているマイクは全部使いつつ、リムショットの時だけトリガーサンプルを薄くレイヤーしてアタック感を補強してやります。これはいつも通り。

タムは原音の他にトリガーシグナルを書き出しておいて、ゲート処理に使えるようにしておきます。これもいつも通り。

ルームマイクはMidを選択。遠すぎず近すぎない距離のものが良いみたい。
モノラルのアンビはスネアだけ鳴るように設定して、2の方を鳴らして奥行きの演出用に使います。

こんな感じで最終的な完成系から逆算して、必要なマイクだけを取り出して書き出し。打ち込んだドラムを一旦midiに吐き出してからSD3に読み込ませてバウンスしています。
使わないマイクはバウンスの時に書き出されないように設定を詰めておくと、書き出しが短く済むのでお勧め。

混ぜる

とりあえずDAWに流し込んで、まずはルーティングと音量バランスの調整から。Cubaseを使っているので、必要に応じてトラック間のリンクなんかも設定しておいたり。
ミックスする時はなるべく頭のリソースを不要なことに割かない方がいいので、こういう面倒臭い作業は最初にやっちまうといいです。後から変わることも多々ありますが。

オーバーヘッド

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OHでやるべきことは、邪魔なスネアをなんとかすること。
OHに入ってるスネアの音は、HR/HMでは結構邪魔になります。オンマイクの音は作り込んだのになぜかスネアが抜けてこないっていうパターンはだいたいOHが原因。
というわけで、まずはコンプでスネアが引っかかる程度に叩きます。
DMGのTrackCompを使いました。バスコンプ的な掛け方をしようとして選んだけど、最終的にはトラックコンプ的なアプローチに。
アタックは短めでスネアのピークからしっかり潰すことを意識して、リリースは適当。

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EQは同じくDMG AudioのEQualityを選びました。というか、基本的にこれ以外の選択肢はなし。モデリング系は極力使わないようにしています。
ちなみにOHとオンマイクは全部リニアフェイズEQで処理します。モデリング系を使いたくないのは、そういう理由もありますね。

不要な低域をHPFでカットしつつ、コンプだけでは抑えきれないスネアの存在感を1.2KHzのカットで補います。
これだけでいけるかなーと思ってたんですが、ベースやギターも鳴らしてみると曇ったような感じが残っていたのでカットは600Hz付近がメインになるように調整。割と思い切って削っていきます。
全体のバランスに合わせて高域も足してやりました。

OHの処理はこれだけ。

金物

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順番としてはタイコの調整が終わってから、OHだけでは不足する金物を足す時にEQ処理を挟むんですが、先に内容だけ書いちゃいます。

金物のオンマイクはだいたいどれも似たような処理で、不要な低域と不要な高域をパスフィルターでカット。スネアの被りと、耳の近くで鳴る帯域をカットすることが多いです。

キック

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マイクは色々立ってますが、コンデンサマイクとダイナミックマイク1のみ使用。メタルらしいカチッとした音が出せる組み合わせはこれかなと思って選びました。
最近はトラックごとに分けて処理はせずに、全部のマイクをまとめた状態でEQやコンプで調整しています。
人によると思うのですが、マイクごとに処理を分けると、作業中に最終的な完成系をイメージしづらいというのが理由。ドラムだけで30トラックくらいある中で、キックのInとOutで処理を分けてもそれぞれ「何をどう弄るとどう変わって聞こえるか」は想像しづらいと思います。

ただ、せっかくツーバスなので右と左でダイナミクスの処理だけは分けておきます。その方が連打した時にコンプの悪い影響を受けないかなって。
アタックは適度に開けておきつつ、リリースは絞り気味。トランジェントは活かしつつ粒を多少揃える感じでしょうか。

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EQは定番のV字カーブ。
ノッチフィルター的な処理はなるべくやらないようにして、Qは広く取るのが私のやり方。狭いQでカットするのはスネアの共鳴をピンポイントで削る時くらいかなぁ。
2K付近で距離の近さやアタックの存在感を出しつつ、高域の煌びやかさをプラスするために7K付近も突いています。
OHとキック、ベース、スネアを鳴らしながら、低域の量感に対して高域がどの程度必要になるかを見定めながらブースト量は決めていきます。
中域は、全体の曇った感じを取り除けるギリギリのところまで削っていきます。

スネア

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なんか色々小細工してた時期もあったんですが、今はスネアの処理は割とシンプル。表と裏のマイク、トリガーサンプルを全部ひとつのバスにまとめてから処理していきます。

先に密度感を出せるような設定でコンプを掛けてからEQで調整していきます。コンプは、密度感を少し出せるような設定に。
最近はコンプのアタックはちょっと絞り気味。リリースの値は、余韻が少し奥まったところに配置されるよう、全体の音を聴きながらある程度長く取るようにしています。
Dry/Wetの配分次第で、アタックの部分を叩いても奥に引っ込まないような設定にできますね。

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EQは意外と普通でした。でも親の仇のように中域を削ってますね。
このあたりの帯域が残っていると奥行きが全然出ないので、ちゃんと立体感が出るところまでガンガン削っていきます。
5K付近を突いてみたら適度に明るさが出てきたので採用。

タム

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タムの処理はいつも適当。ただし、適当だけどタムごとに処理は分けています。
まず、被りの除去はゲートのサイドチェイン入力にトリガーシグナルをぶちこんで、叩いた時だけゲートが開くように設定しています。
ゲートが閉じても完全に無音にはならないようにするのが隠れたポイント。
コンプは、適度にアタックが残りつつ粒が揃えられる設定にしています。

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EQはこんな感じ。アプローチの考え方としてはキックに近いかな。

アンビエンス

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アンビエンスはステレオとモノを一本ずつ使ってるんですが、必ず使うのがサンプルディレイ。リバーブのプリディレイと同じ感覚で、オンマイクの音と変に被らず干渉しないタイミングで鳴らしています。
どの程度遅らせるかは、低域の量感とかを見て決めています。

コンプとEQは適当に。
余韻なので、コンプはアタックを削るような設定で掛けています。
EQの方は、考え方としては、全体的な解像度を下げている箇所を探して削っていくという感じ。曇って聞こえるなあと思ったら、大抵の場合はローミッド〜ハイミッドあたりに悪さをしている帯域が隠れています。
アンビのマイクはリニアフェイズEQじゃないですね。

リバーブ

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HR/HM系のドラムのリバーブは結構難しくて、何も考えずに掛けると全然抜けてこない。でも音量を上げてしまうとブレイクの時にリバーブだけがとっ散らかって不自然に聞こえてしまう。
曲中は全然聞こえないのに、曲が終わった時だけやたらと長いリバーブが聞こえてくるみたいなダサい掛かり方は避けたいですね。
リバーブタイムやプリディレイのほかに、sizeとかを調整してうまく密度をコントロールしてやると解消できたりします。

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こちらはスネアだけに掛けてるモノラルのリバーブ。
タイコ全体にプレートリバーブで余韻を足しつつ、スネアだけモノラルのルームリバーブで奥行きをプラスするのが私の好み。プリセットから適当に余韻が長めのルームリバーブを選択して、アーリーリフレクションを切ってからWavesのS1でモノラル化して薄く混ぜています。
モノラルのアンビが既に鳴っている状態ですが、アンビエンスマイクとは違う、密度感のあまりないアルゴリズムリバーブの音をモノラルで足すことで、空気の層を多重配置して奥行きをさらに強調。

調整

納得のいくバランスになるまで詰めたら一旦書き出して、視聴環境でリファレンスと比較。今回のリファレンスはこちらでした。

機会があれば書きたいなあと思うのですが、低域をある程度抑え気味にして音の粒感を強調する、モダンなメタル寄りのミックスバランスを目指しています。

リファレンスと比較して、偏った音量バランスになっている箇所や低域の量感を確認、修正。
今回はシンバルがでかいなーと思ったのでOH+シンバルのオンマイクを下げたり、あとほんのちょっとだけ低域出てもいいかなと思ったのでキックのHPFを数Hz下げてみたり。
スネアの密度感が足りないなーとも感じたのでアタックをほんの少し詰めて、その代わりリリースを少し長く取ってみたりとか。
楽器数が少ないのであんまり悩まなくて済みました。

完成

そんな感じで完成したのがこの音。再度貼っておきます。
主旋律が入ってくるともう一段階抜けが悪くなるので、恐らくまた悩むことになると思うんですが。とりあえずこんな感じで一旦完成。
今回はラフということでリフパートのみですが、おそらく今の私でもサウンドクオリティを落とさずに実践投入できそうです。

振り返ってみると使っているツールは、空間系を除けばほとんどDMG AudioのEQとTrackComp、FabfilterのPro-C2のみ。スタティックなコンプとEQだけでやり切っていました。
やっている内容は非常に単純で、トランジェントを目的の形に合わせてコンプで整形することと、EQでトーンと解像度をコントロールすることだけ。
ミックスってのは割と淡々とした地味な作業だなあと思います。

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