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憎みきれないろくでなし

 全く北海道の夏が涼しいだなどとどこの誰が言ったんだ?茹だるような暑さの中を祭の隊列に加わり出発するのを待っていた…祭の多い“ハバナ”でも一番大きな祭…

 夏の盛りの土曜日。当然のようにサービス残業として踊りに参加した。踊り終えてしまえばすっきりしたもので以前に“ハバナ”にいた本社の他部署の50がらみのおっさんに「●●さんは独身か!それならあそこの☓☓☓☓(特浴の名前)行って来い!」などとからかわれながら煙草を吸い、踊りの前の昼ごはんとして配られたお弁当をもう一箱食べた。上司につかまらないうちにこそこそと家路を急いだ。“極上”の女(ひと)、これを言うと誰にでも言ってると言われるが仕方がない。極上の女たちしかわたしの周りにはいないから…涙 が遊びに来てくれていたから。いつの間にか仕事に就き、いつの間にかこの街に来て忙しくしているうちに夏になってしまった。翌日は花火を見てこの夏に無くなってしまった店で甘いものを食べて、そうしてまた月曜から働くうちにお盆休みになった。


ハバナの隠れ家居酒屋有難う…

 とりあえず名古屋まで帰ることにして飛行機に乗った。夏の盛りの航空券は37000円超。少し阿呆くさい値段だが、これを逃すとしばらく本州には帰られないなら仕方がない。

 名古屋の街は思っていたほどに暑くはなかった。空港特急の名古屋側の駅で降りて、高知の色男と少しだけ電話をして彼が阪神間にいることを知る。


 面白くもない電車に高い金を払って切符を買い、実家とは名ばかりの煙草も吸えない悲しみと均等に並んだ家並が広がるつまらない土地で4日間寝て起きて過ごした。うち2日は長者町繊維街、これもまたこの夏までで協同組合が解散してしまった、でスーツを仕立てたり名古屋で働くすてきな女(ひと)とお茶をしたりして過ごした。


 この夏一番の予定は神戸は福原のスナックで極上義勇軍と再会し唄を歌うことだ。そのためにホテルを取り、新幹線を予約した。「雲水」などと称して北陸を旅していた頃とは異なり全員がなにがしかの正業を持ち、それぞれが忙しくしていた。去年の冬の出来事が吹雪にかすんでしまったかのように遠くの出来事に思えた。今回は静岡から旅をしていた同年代の答えジジイ(褒め言葉)も参加してくれることになり、しこたま歌い語らう刻(とき)に向けて潮が満ち始めていた…

 車輪が壊れたキャリーケースを引いてホテルに着いた。エアコンを入れ煙草に火を点けて、長身でヒゲを生やし嘘をついてばかりだが憎めない“色男”(過去の記事参照)をホテルで待った。汗を流し一眠りして5本ほどの煙草を吸ったような気がする。

夜の柳筋

 夕刻、いよいよ色男が到着。旅の軍資金を降ろしにゆうちょ銀行へ行き、一度別れを告げてわたしたちは違う路地に吸い込まれていったかどうかは定かではない。午後8時にはいつものスナック、極上のスナック、諸国を流れて巡業してきたわたしたちがいつも“帰り”たくなるあの店にやってきた。柳筋を右に少し入った路地のマンション下にその店はある。
 長崎出身のママは神戸に来て五十余年。三宮のキャバレーで裕次郎を見たことも、“わたしを好いてた男”から水原弘の「君こそわが命」のレコードをプレゼントされたこともある、レイ・チャールズの“アンチェイン・マイハート”が好きな女(ひと)、大学生の時分にこの店に出会えたのはほんとうに幸福なことだったと思う。


神戸、呼んで帰る人か……


 “ろくでなし”の男たち3人と麗しい女(ひと)1人の4人で高知のギャング男を待ちながら旧交をあたためて歌った。“熱海の夜”“星降る街角”“柳ヶ瀬ブルース”等々を…(つづく)

 



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