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法定通貨デジタル化の自己矛盾

いずれ法定通貨もデジタル化されるような気がしますが、そこには課題もいくつか含まれています。悩ましいのがプライバシーの確保です。
さらに、使い勝手が良くなる反面、効率が上がるので今まで必要だった物が不要になる可能性も秘めています。不要になったら困る事も国としてはありそうです。

プライバシーの確保

デジタルユーロを開始しようとしているECBですが、当然のことながらそこには危ういものもあります。今も現金を扱う一方で、支払いや送金などはカードやスマホなど使って、事実上かなりな部分はデジタル空間でやりとりされています。ということは、法定通貨がデジタルで発行されても我々一般市民はあまり、違和感は感じないのでは無いかもしれません。

銀行口座を中心に現金を運用しているとすれば、プライバシーはあってなきがごとしではあります。もちろん一般的には自分がいくら持っているかは言わなきゃ分からないという状態ではありますが、国が強制的に介入すれば、ほぼほぼ把握できます。
とはいうものの、現金そのものを持っていてタンス預金していれば、その把握はなかなか難しい。しかも、取引を現金授受ベースでやっていれば、その追跡はなかなか大変です。インドは高額紙幣を廃止してタンス預金を減らそうとしました。マネーロンダリングの最も多い物は現金だと思われます。

しかし、もし通貨発行がデジタルになれば、今よりも遙かに追跡が簡単になります。すべてのやりとりはデータベース化され、記録されることになるからです。しかも、資金凍結も一瞬で可能です。国家権力の行使が今までより遙かにやりやすくなります。さらに、誰がいくら持っているかもすぐ分かります。恐ろしい気がします。しかも、もし、デジタル通貨を発行した場合、受け取りアドレスを持つ条件としてKYC、いわゆる身元確認が行われる可能性があり、アドレスと身分証明が紐付きます。

プライバシーの確保にうるさいヨーロッパでこんなことが始まれば、暴動が起こりそうです。法定通貨をデジタル化してしまうとプライバシーの確保は相当難しくなります。どうやって確保するかはなかなか難しい課題です。

通貨のデジタル化は国家にとっては好都合

プライバシーの問題はあるせよ、国家にとっては権力行使がやりやすくなるので、実は推進したい事ではあるのです。
気になることがあります。銀行の存在意義です。今の金融の仕組みを踏襲し、中央銀行から直接個人のアドレスにデジタル通貨を送付することはしないことにし、いったん市中銀行に発行し、その後銀行口座ベースでやりとりされる、という形にしたとしても、直接個人間でピアツーピアに現金のやりとりが出来なければ不便です。つまり、今、ペイペイや銀行口座間送金でやられているデジタル上での資金のやりとりと同じ感覚で、中央集権機関なしで、個人間でのデジタル送信が可能になるわけです。だとすると、今、個人間送金とはいえ、間に資金決済業者が挟まっている構造は不要となります。
冷静に考え始めると、銀行はいるのか?というところに行き着きそうです。もちろん法律上で規制し、現金のやりとりが伴う取引についてある一定の認可制度を行うと思いますが、非効率になる物はできるだけ排除しないとコストも時間もかかる事になります。

AIで仕事が無くなるとか言われていますが、法定通貨のデジタル化も既存のビジネスを無効化する可能性があります。それは国家にとっては経済への打撃になるので避けなければいけません。一方、効率が上がるので、いっそのこと国家が金融流通をになうことも可能になります。全国民が日本銀行口座を持つことも出来ます。そうなると銀行業務を一手に引き受けられるので、今まで民間銀行がやっていたビジネスがすべて国家の収益になります。もちろんそんなことはしないでしょうが、効率は追求したいはずです。銀行の形や役割分担などの見直しも必要になるかもしれません。

マイナンバーカードで揉めていますが、法定通貨がデジタル化されれば、もはや自分のアドレスを持たなければ給付金ももらえなくなるという自体も有り得るので政府システムも一気にデジタル化が加速します。

法定通貨のデジタル化はコントロールを強化したい国家にとっては都合がいいことの方が多い。しかし、これまで言ってきたことやってきたことを否定しないといけないことも発生するので、やると自己矛盾をおこす可能性も多大にあります。先行している中国も一気に進めることは出来ていません。さて、この先、どうなっていくのか。

法定通貨のデジタル化はメリットがあるので、おそらく時間はかかってもそうなると思います。その一方で、法定通貨以外の通貨の余地も残しておかないと国民からそっぽを向かれる可能性もあるので、法定通貨の位置づけが変わっていく気がしています。20年かかるか30年かかるか分かりませんが、今とは違った世界が広がっているかもしれません。

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