DAOのデリゲート報酬システムを考察する
1,はじめに
前回の記事が好評だったので、今回も続けてDAOに関する考察記事です。前回同様Rika Goldbergの記事を参考に僕自身の解釈や感想も交えて記事を書いてみます。
今回取り上げる記事は『A new approach to reward DAO delegates』です。こちらは、Rikaさんが考えるDAOのデリゲートシステムに関する懸念と改善方法を提案した内容です。
「デリゲートシステム」と聞いてもピンと来ない人もいるかと思いますので、そちらから解説していきたいと思います。
2,DAOのデリゲートシステムとは
DAOは、トークンホルダーが組織の方針や意思決定に関与する分散型の組織です。ただし、参加者が増えれば増えるほど全てのメンバーやトークンホルダーが直接全ての議題についての意思決定に参加するのは非効率だという課題があります。そこで「デリゲート(委任)」というシステムが導入されることがあります。
このデリゲートシステムは以下のように動作します。
この制度の目的は、DAOの効率的な議論や意思決定を促進し、代表者として活動するメンバーへの報酬やモチベーションを提供することです。しかし、この報酬のあり方や金額、制度そのものの必要性については、コミュニティや組織によって意見や議論が分かれることがあります。
3,Arbitrumのデリゲート報酬システム
Arbitrumの代表者の一人であるCattin氏は、8月上旬にガバナンスフォーラムでデリゲート報酬システムの必要性について投稿しました。
つまり、「DAOのガバナンスへの参加を促すため、代表者に一定の予測可能な報酬を確立する必要がある」という提案です。この投稿を見て、Rikaは他の主要なDAOのデリゲート報酬について調べることにしました。リサーチしたのはMakerDAO、Optimism、Hopです。さらにArbetrumのデリゲーターとも話をし、MekerDAOチームとの意見交換も行ったそうです。
当初、Rikaは代表者が報酬をもらうのは妥当だと思っていたそうです。しかし、記事を書きながらこの提案を深く掘り下げ続けるにつれて、デリゲート報酬システムに懸念を抱く人がいることを理解しました。
その理由を探ってみましょう。
4,デリゲート報酬システムの課題点
既存のデリゲート報酬システムは、DAOの問題を解決するのではなく、問題を悪化させるリスクも秘めています。どういうことかと言うと、このシステムは単に代表者の参加を奨励してるだけで、必ずしもDAOの戦略的目標に沿ったコミュニケーションが行われてるわけではないという指摘があります。もし代表者がDAOの戦略に沿った改善提案をしなかったり、委任する人達の多様性や意見をしっかり吸い上げできていない場合、代表者は「仕事をこなしてるフリをする中間管理職」となんら変わりがありません。
MakerDAO、Optimism、およびHopはすべて、デリゲート報酬システムにかなりの量の手続きを組み込んでいます。もちろんこれ自体は否定されるべきものではありません。実際、前回の記事でも解説した通り、持続可能なDAOは一定レベルの正式な構造が不可欠です。しかし、この構造が、ガバナンスチームが設定する戦略的目的と一致してるかは検証する必要があるとRikaは主張します。つまり、報酬が与えられる行動と、それらの行動が本当にプロトコルの目的に役立つかどうかという話です。
MakerDAO、Optimism、Hopがどのようにデリゲート報酬を与えるかを見てみましょう。
5,各プロトコルのデリゲート報酬システム
5-1.MakerDAOの場合
MakerDAOのデリゲート報酬システムは、全体的なガバナンスの枠組みと一致しており、そのプロセスに重点を置いています。
GovAlphaという中立的な評議会が存在し、代表者の参加を監視・評価する役割を担っています。評価は、代表者の行動を定量化し、投票の理由を文章で伝える頻度の評価などが含まれます。
GovAlphaが、このような評価を公平に行うために、高度な数式とカスタマイズされたソフトウェアを組み合わせて、月ごとに計算を実行しています。
しかし、筆者の個人的な解釈ですが、画一的な評価指標があるということは、従来の中央集権組織のトップダウン構造に近くなるリスクがあると思いました。一定のルールや評価基準を設けることは必要ですが、それが形式的で厳格すぎると、DAOの持つ独特の特性や魅力を損なってしまう可能性があります。
5-2.Optimismの場合
Optimismのデリゲート報酬システムは、MakerDAOと比較して、より合理化されたアプローチです。シーズンごとに、Optimism財団は、主要な投票や活動への参加をさかのぼって代表者に報酬を与えます。
例えば、シーズン3では、財団は代表者に報酬を与える特定の投票と活動を指定しました。これらには、アゴラテスト投票への参加、リフレクション期間中の投票、バッジホルダー選挙への参加、遡及的な公共財資金調達の最終プロジェクトの指名が含まれます。
5-3.Hopの場合
Hopのデリゲート報酬システムは、楽観主義よりもMakerDAOに似ています。行動を定量化し、数式と事前定義されたパラメータを使用して投票全体の参加も測定します。しかし、HopがMakerDAOとOptimismの両方と一線を画すのは、代表者が自分自身で参加を報告し、委任活動を監視する委員会の必要性を排除していることです。
6,デリゲート報酬システムの異なるアプローチを考える
DAOの代表者への報酬は、単にコミットメントだけに基づくものだけでは不十分な可能性があります。
Arbitrumのディスカッションフォーラムで、Ben O’NeillはCattinのデリゲート報酬システムの提案への返信で、「Arbitrumのデリゲート報酬システムは、ガバナンスに参加する代表者の創出だけを目的にするべきではない」と反対し、代わりに、プロトコルを前進させる行動にインセンティブを与えることを提案しています。そのためのアプローチとしては、Arbitrumの戦略的な優先事項の実行を共有し、そこに代表者をコミットさせることを目指すことが考えられます。
元記事では、単に投票やディスカッションに参加するだけでなく、プロトコルの実際の問題解決に取り組む機会を構造に組み込むことが重要だとRikaは述べていますが、皆さんはどう思いますか?このあたりは今後も様々なDAOで実験や改善の提案がなされていくでしょう。具体的に考えられる改善策としては、DAOの戦略と代表者のスキルや興味をマッチさせることが考えられます。また、彼らの貢献の効果は、適切なKPIを設定し、それに基づいて評価されるべきだとも書かれています。
7,まとめ
いかがでしたでしょうか?Rika Goldbergの『A new approach to reward DAO delegates』を参考にDAOのデリゲートシステムの課題について書いてみました。
記事では、デリゲート報酬システムで、代表者に対して参加とコミュニケーションに基づくインセンティブを設計しても、必ずしもそれがプロトコルの成長やコミュニティの自治活用に繋がらない可能性が課題として指摘されていました。
何かしらのインセンティブをデザインすることで参加者の行動を促すというのは、Web3ではよくある手法ではありますが、単純に「行動を促すこと=目的達成」とはならない難しさもあるのだなと勉強になりました。重要なのは行動の先にあるKPIであり、それを正確に設定するために適切な戦略構築が不可欠なのでしょう。
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