修士卒研究職が企業で意識して狙うべき/磨くべきこと9選

本記事に興味を持ってくださり誠にありがとうございます。修士課程を卒業後、現在は大手メーカーで研究と新規事業開発に取り組んでいる、くりぷとバイオ(@cryptobiotech)といいます。

修士卒で研究職になりたい方/現在、修士卒研究職として奮闘されている方に向けて下記ツイートを少し深堀してみたいと思って筆を取りました。

あくまで私個人の意見ですので「これらをやらないと絶対ダメ!」というわけではなく、「なるほど、そういう考え方もあるんだな~」くらいに考えていただけると助かります。

もし本記事が参考になりましたら、執筆意欲向上に繋がりますので「いいね」を押していただけると幸いです!あと記事ネタも募集しておりますのでマシュマロで自由に質問を投げていただけると嬉しいです。


博士号(Ph.D)

やっぱり何よりも意識すべきはこれ。博士号です。

自分は基礎研究系の部署に初期配属されたことも影響しているかもしれませんが、研究職として配属される/された修士卒は、可能なら入社1年目から「博士号取得」を考えた行動を取るのが良い、と企業に入って常々感じてきました。

具体的には下記のような行動ですね。
・「博士号を取りたい」「論文を書きたい」と周囲にアピールし続ける
・博士号の取得方法を調べる(課程博士か論文博士か、費用は etc…)
・博士号を取得した諸先輩方に経験談を聞きまくる、博論をいただく
・博士号を取得できる大学と卒業要件を調べる
・博士号を取得できる大学の社会人博士説明会に参加する
・卒業までに出せなかった研究室での成果を論文としてまとめる
・この研究(=仕事)を論文化するにはどんなデータが必要か日々考える
・研究成果を論文化する“会社へのメリット”を考える
・大学との共同研究を組むことができるかを考える(後述)

※余談ですが、色々調べたところ社会人で博士号を取得する方法で一番リーズナブル(主観)なのは、筑波大学/社会人のための博士後期課程「早期修了プログラム」だと勝手に思ってます。

自分のようなバイオ系研究者なら筆頭論文を2報持っている&その2報で博論ストーリーをまとめられるなら最短1年で博士号取得が可能です。


周りの諸先輩方からも「せっかく研究に取り組むのだから、特許だけでなく論文や学会発表も意識して、若いうちに博士号を取得しておいた方がいい」とアドバイスいただきました。

実は、入社時はそこまで博士号にこだわっていなかった(取れるなら取りたいくらいだった)のですが、ある程度キャリアを積み上げると、『専門職としてキャリアを積む上で「資格」は非常に大事』と感じるようになりました。

例えば知財なら「弁理士」、法律なら「弁護士」、経営なら「MBA」、医者なら「医師免許」という資格は重要ですよね。それは研究も同様だと思っていて『研究という専門職を歩むのであれば「博士号」という資格が必要だよね…』みたいな感じです。

入社してから1~2年経つと”博士号取得できていない自分”に対して胸の中からジワジワと焦りがこみ上げてくるようになりました。

もちろん企業には博士号をお持ちでない方でも卓越した研究成果を出す素晴らしい研究者がたくさんいるんですが、そういった素晴らしい方々でも「博士号取っておけばよかったな」とか「もう博士号を取得する時間が取れない…」など悩まれていたりします。

企業で博士号取得した方々を見てみると、入社10年以内に取得するケースが多いと感じますので、30歳~35歳あたりが博士号取得できるかの分岐点なんだと思います。(あくまで個人の主観ですが)

大学との共同研究(博士号取得率アップ)

修士卒研究職として入社したら『大学との共同研究が組めないか?』は常に意識すべきかなと。理由は2つあります。

①自社にないスキルを有する研究室と組めば研究が加速できるから(会社視点)
②共同研究の成果を論文化することで博士号取得率が大幅に高まるから(自分視点)

企業にとって今や“オープンイノベーション”は当たり前と言っていいです。実際にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が発表した資料によると、民間企業との共同研究は年々右肩上がりだとわかります。(少し古めの情報ですみません…)

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/pdf/007_03_00.pdfより引用

共同研究を組んだ方が、自社でゼロから技術を創るより効率が良いため、企業としても共同研究は是非組みたいと思うもの。

また、大学と共同研究を組むと成果を論文化しやすくなります。こちらのゴールは「特許化→製品化」ですが、大学側のゴールは「論文化→次なる研究」ですからね。

共同研究先が論文を投稿したいと提案してくださるので、企業側も論文を出すモチベーションが生まれます。もちろん特許出願が完了してからですが。

実際に自分の知り合いにも大学との共同研究成果を論文化することで博士号取得した方が何名かおりますし、20代で博士号が取得できる人は共同研究している人が多い印象があります。

修士卒研究職は積極的に共同研究を提案するのがおすすめ』です。

※ただし企業研究職はあくまで「企業利益を生み出す種を創るために共同研究を提案・推進する」のが仕事ですので、博士号取得のためだけに共同研究を提案するのは個人的におすすめしていません。

副業意識(別収入源)

修士卒研究職に限ったことではないかもしれませんが、副業意識を持って別収入源をつくることは非常に大事だと思っています。

『会社に忠誠を捧げればリストラにならず自分と家族を守れる時代』はもはや終わっていて、自ら収入を増やしていったり、他者にはないスキルを磨いていったりがmustになる時代に突入しているからです。(愛社精神を持つのが“悪”というわけではないですよ)

この辺りは下記書籍がとても参考になります。「ポートフォリオキャリア」が重要だと説明されており、投資のようにキャリアも”分散思考”を持ちましょうね的な話です。

このような状況を考慮すると、今やるべきは『良い企業で安定を求めること』ではなく『世界のどこでも生きていける人材になること』です。

すごくアバウトな人材像ですが、要するに他者からの指示をこなす(それも大事)だけでなく、自らのスキルを駆使して主体的に成果を出せる人材ですね。

自らのキャリアを切り拓くためにも、会社に入って2~3年して余裕ができてきたら是非『研究+α』に目を向けていくのが良いだろうなーと思っています。

副業で自らスタートアップに足を運ぶも良し、自らが持っているスキルを活用して起業するでも良し、SNSと自らの専門性を組み合わせて発信力を鍛えるも良し。

私の場合は、ココナラで研究を頑張る大学院生を支援して「日本の科学の発展に少しでも貢献したい」と自らの”Will”を叶えることに最近は取り組んでいます。

「副業ってどうやったらいいんですか?」と悩まれている方は下記書籍を手に取ってみていただけると幸いです。(研究職の副業については書いてないけど、副業の進め方はかなり解像度が上がるかと)


海外留学(語学力)

修士卒研究職はぜひ積極的に『海外留学』を狙うのが良いと思います。博士号取得してからが良いかな…。“海外経験”という経歴が1つ増えますし、それに伴った人脈も一気に増えるからです。

また“語学力”をほぼ強制的に鍛え上げられるのも魅力的です。私の知り合いで研究留学を経験した人は、異常なほど語学が堪能になって帰ってきています。(向こうで相当な努力をされたのは言うまでもないですが…)

もちろん『語学力を磨くだけなら海外に行かなくてもできる』という意見があるのもわかります。しかし海外留学は、それらツールを活用するよりも遥かに語学力向上に貢献してくれます。

修士卒研究職はいかに早く”自分の強み”を獲得するかが大事なので、海外留学を活かして“語学力”を強みを変えるのは有効すぎる戦略だと思います。研究成果も増えますし。

でも語学力って本当に重要なんですか?

ただ余談ですが”語学力”の重要性は今後どうなるのかよくわからない…が本音です。5年は依然として重要さは衰えない、むしろその重要性は増していくと思いますが、10年後ってどうなってるんだろう…と感じます。

少なくとも我々の子ども世代が大人になる頃には”語学勉強”という言葉は無くなっていると予想しています。今の若者が洗濯板で自らの洗濯物を洗わないように、語学勉強もリアルタイム翻訳機の活用が当たり前になるはず。

「昔の人は語学勉強なんてしないといけなかったんでしょ?」と10年後の高校生たちは苦笑している世界になると思うんですよね。

たとえば2023年6月22日に「YouTubeがAIによる「自動翻訳吹き替え」機能を搭載」といったニュースが流れるなど、すでに英語で話されたコンテンツをたとえばスペイン語音声に翻訳してくれる技術があります。

また、Meta社もリアルタイムAI翻訳技術を発表していたり…。リンク先でザッカーバーグ氏がデモしている動画を見ると、翻訳技術の凄まじさがわかります。

ちなみにこの動画を見た知人は「会話と会話の間に翻訳ラグがある。こんなの実際の仕事では使えないよ。自分自身で話せた方が良いね」と酷評していました。

ですがリアルタイム翻訳技術が普及すれば自分が日本語を話すだけで”数百種類の言語翻訳”が可能になるので、もはや1人の人間が語学勉強をたくさん頑張っても追いつけるレベルではなくなったと個人的に思っています。

今の生成AIの進化、本当にすごいですよね。個人的には「リアルタイム翻訳が急速にする普及する世界」に備えて専門性を磨きまくるのが良い気がしています。(ただ語学勉強から逃げてるだけ)

特許数と論文数(実績)

修士卒研究職に限らないですが『特許数と論文数(≒実績)』を特に意識して日々仕事をするのが良いと思います。

というのも研究職としてこれほどわかりやすい実績はなく、社内外で使える指標になるからです。

特許や論文を出さずとも社内成果を積み上げている方々もいるのですが、「自分の職務経歴書に書ける実績がない…」と割と悩まれていたりします。

社内ノウハウ化する研究成果の場合、特許にも論文にもならなかったりするケースが少なからずありまして、そういうテーマばかり担当するとキャリアに悩むことが多くなると感じます。

実際のところ、研究職は開発職や営業職などと比べて、○○千万円のコストダウンに成功!」や「○○百万円/月の販売実績を達成!社内MVP受賞!」など誰が見てもわかりやすい定量的成果をつくりにくいです。

「新しい評価系を作った!」などアピールしても、それは社内になかっただけで他社、大学、ベンチャー企業で数年前に開発されてる…とかもあります。(社内にとっての新規と、世界にとっての新規は全く異なるもの)

博士号などの資格や実験スキル・解析スキルも激しく大事ですが、修士卒研究職は『目に見える成果』にとことんこだわってくれ~と思います。

※特許の書き方は企業に入ってから学べるのですが、論文の書き方は面倒見の良い上司・先輩に恵まれないと学ぶ機会がほぼ得られません。

独学で論文を書き方を学ぶケースも結構あるので、自分は下記のような書籍を、論文執筆のたびに自室の本棚から漁ってきて読むようにしています。


実験スキルと知識(経験)

修士卒研究職は『実験スキルと知識(論文・特許・最新トレンドなど)』を常に磨き続けましょう。最新の実験スキルと知識の獲得は、博士号有無に関係なく求められることであり、やればやるほど差がつきます。

たとえば今でいえば「ChatGPTを活用してRやPythonの学習速度を加速させる」などが考えられます。

ChatGPTを活用されている方ならわかると思いますが、ChatGPTを活用するとRやPythonコードの把握速度が圧倒的に上がりますよね。

「このコードの意味がわからない…」となった時にGoogle大先生に聞くのではなくChatGPT卿に質問すると詳細に、丁寧に教えてくれる。本当にすごいツールです。

あと一例ですが、以下のようなことを日々意識するのがおすすめ。

<実験スキル>
■既存の実験系がもっと短時間でできるようにならないか?
■自分が構築した実験系を効率化する新製品が出ていないか?
■自分が構築した実験系を他の人に委託できないか?

<知識>
■毎日必ず1報以上の論文・特許・社内研究情報に目を通す
■自分が担当する研究領域の市場トレンドを毎日ウォッチする
■『自分の専門外領域』の最先端もウォッチする(既存専門性との融合)

上記のようなことを意識してきたおかげか生産性も上がり、かつ毎年社内で新規テーマ提案ができるようになりました。(今は新規事業開発がメインなので毎年研究テーマを新規提案することはないですが…)

なお『毎日情報をインプットし続けるのが大変』という方は、インプットした情報をSNSで日々発信するのが良いと思います。

SNSで日々面白そうな論文情報を発信されているTwitterアカウントは探したら多く出てきますよね。

自分が仕事でやっている研究とドンピシャの内容を発信するのは気が引けますが、自分が将来的に取り入れたい研究領域を自主的に勉強してSNSで発信していくと脳内で情報が整理されるので是非お試しください。


社内外の繋がり(人脈)

修士卒研究職は『社内外の繋がり(≒人脈)』を構築しましょう。人脈は『自分ができないこと』にトライするきっかけを生み出してくれます。

人脈が広がってくると『この分野に興味があるけど調べてる時間が…』という悩みをスッと解決できたりします。

というか入社して最初の頃は1人でゴリゴリやるのもありですが、自分がテーマリーダーになっても周囲に頼らず1人でゴリゴリやっていると成果量が少なすぎて詰みます。1人でできることなんてたかが知れているのです。

人脈形成には色々な方法がありますが、以下のような方法を試していくと少しずつ社内知り合いが増えていくと思います。

・定期的に行われる研究報告会で興味があるテーマ担当者と議論する
・自分が読んで「あの部署に役立つかもしれない!」と思った論文を担当者に思い切って投げてみる
・研究所ですれ違う方々に挨拶することを常に意識してみる
・自分が困っている実験や解析を代わりにやってもらえる社内研究者を行脚して探す

あと最近ではSNS発信を頑張ると社外研究職の知り合いが増える実感を得ていまして、SNSって本当に有用なツールだと実感します。

人脈はすぐに構築できるものではないので、入社時からコツコツと意識していくべし。『修士卒だから研究の専門性がなくて…』と悩む人は、自分の足を使って“専門性がある人”と繋がりをつくってしまうのが吉

キャリアは20代は専門性、30代は経験、40代は人脈が重要。

と下記書籍でも語られていましたので、40代で人脈をフル活用して成果創出できる準備をコツコツ始めていくのが良いと思います。


マネジメントスキル(育成力)

修士卒研究職として入社した後は、早い段階で『マネジメントスキル』を磨きましょう。入社して2~3年すると自分の仕事にも慣れ、「もっと色々な人を巻き込んで実用性のあるテーマを創出したい」と思うようになります。

その際に後輩や派遣社員の方と一緒に研究をすることになりますが、その際に「マネジメントスキルは必要だなぁ」と切に感じます。たとえば下記のような経験を積むことでマネジメントスキルは培われていきます。

・自身が担当するテーマの実験を派遣社員の方に委託し、「自分の手を動かさずに」成果を創出する仕組みをつくる(作業ではなく、思考に時間を割く)
・部署の仲間の体調変化を日々意識し、何か問題ありそうと感じたら声掛け&サポートする(他の方の成果創出もできるようにする)
・自身で新規テーマを提案、周囲を巻き込んで承認される(自分がテーマリーダーになる)

私も最近はマネジメントスキルをどうやって身に付けるか悩みに悩んでいるところでして、下記のような書籍を参考にマネジメントスキルの共通解を導き出そうと日々奮闘中です。(マネジメントに正解はない…)

「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方
部下を持ったら必ず読む 「任せ方」の教科書
急成長を導くマネージャーの型
忙しすぎるリーダーの9割が知らない チームを動かす すごい仕組み
外資系コンサルが教える難題を解決する12ステップ プロジェクトリーダーの教科書

人生の伴侶(結婚とっても大事)

これは完全に私自身の価値観なので人それぞれだと思いますが、修士卒研究職として日々業務をこなす上で『人生の伴侶』は極めて重要です。

『心から信頼できる人/守るべき人』がいると、仕事に一層取り組めるようになります(実体験)。

私は入社して比較的すぐに結婚しましたが、結婚後は確実に『仕事への責任感』が増しました。(子どもができてからは更にそれが強まった気がする)

会社で理不尽なことがあっても『ここで逃げ出したら家族を幸せにできない』という感情を持っていられるのは、会社生活において強力な武器になります。

入社して1~2年は同期も未婚が多いので結婚を意識しない人も多いですが、入社3年目以降から一気に結婚する同期が増えます。そうすると今まで仲良く遊んでいた同期と一緒にいる機会も減り、寂しさを感じるようになるそうで…(同期談)。

あと私自身、家族がいなければ心が折れていたと思う場面がいくつもあります。心の底から信頼して何でも話し合える存在は本当に大事だと強く感じます。

結婚、子育てを経験すると自分一人の時間は劇的に減る(体験値1/10以下になる)ので若いうちはゴリゴリ働きたいと思う気持ちもよくわかるのですが、生涯をともに歩みたいと思う素敵なお相手がいるなら早めに決断しておいた方が後々ラクになるなーと。

修士卒研究職は「博士卒に対抗できる実力とは?」を自問して挑戦し続けるべし

というわけでツイートの内容を自分なりに深堀してみました。約7,900文字も書いてしまうとは…駄文が過ぎますね…。

修士卒研究職は常に「自分は博士卒研究職と比べて何ができるんだろう?」「どうやって博士卒研究職と差別化したキャリアを歩めばいいんだろう?」と常に自問し続けて、博士卒研究職を追い抜く気持ちで日々業務に臨むのが良いと思います!

あと修士卒研究職は必ずしも「研究only」で強みを磨き続けなくても良いと新規事業開発職を経験して実感しているので、ぜひ視野を広く、視座を高く持ってご自身のキャリアを向き合ってください…!

何か気になることがありましたらマシュマロで自由に質問を投げていただけると嬉しいです。

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