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【和訳】How far can James Harden's Rockets go?

みんな大好きザック・ロウ氏の文章を和訳しました。(元記事http://www.espn.com/nba/story/_/id/17996143/zach-lowe-james-harden-mike-dantoni-houston-rockets-nba)

"How far can James Harden's Rockets go?"ということで、ロケッツという組織の哲学、現状に至った経緯、それらを踏まえて今後どうなるのか?どこまでいけるのか?を書いた、ロケッツファンならずとも1チームが抱える内情と展望が分かる素晴らしい記事なんですけど、いくらなんでも書きすぎやろザック・ロウ。いやあ、リーグ全体をカバーしつつ1チームについてここまで書けるとは、本業・NBAライターの凄みを見ましたね。

というわけで、和訳の方もめちゃくちゃ長いですけど、ぜひ最後まで読んだってください。

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ロケッツはジェームズ・ハーデンを中心に据えたこのロスターでは、平均レベルのディフェンスを構築するにもタレントが足りないと分かっている。どんな手段を使ったって、ハーデン、ライアン・アンダーソン、エリック・ゴードンをグッドディフェンダーに変貌させたり、トレバー・アリーザを若返らせたりすることはできない。

彼らはケミストリーに頼っている。皆が試合に集中し、ゲームプランに従い、仲間のために戦うための、いい雰囲気のことだ。それはハーデンとドワイトの間の緊張がロッカーに張り詰めていた去年にはなかったものだ。

「我々のディフェンスにおける最大の点は、ケミストリーが良いことだ」と監督のマイク・ダントーニは語る。彼は1試合失点数をリーグTop10にまで抑えてシーズンを終わりたい、とも語った。

「今年は皆がお互いのことを信頼している。サボっていいポゼッションなど1つもない、という気概だ」とハーデンも述べている。

この記事で語ることのほとんどは、ある信条についてだ。つまり、『選手はオフェンスに絡む機会が増えるほど、ディフェンスにも献身的になる』というものだ。ライアン・アンダーソンは「皆にボールを触る機会が回ってくる時が、俺らが1番良い時だし、事実俺らはよくパスを回している」と語った。
この信条は、ロケッツのロスター構成にも影響を与えた。ロスターのほとんどのスポットを、ハーデンからのパスをフィニッシュすることが役割の選手が固めたのだ。

ダントーニは、ディフェンスを頑張った選手が時折見返りを求めるかのようにボールを強く要求することに気付いている。「それは本能的なものだ。が、認めたくはない。オフェンスとディフェンスの両方で頑張る理由なんて、2週間に1回の給料日で充分じゃないのか?」そしてこうも語っている。「与えられた役割を必死にこなす必要があるんだ。そしてその役割ってのは」
「ジェームズからパスが来たら打つこと」「で、急いで戻ってひたすらディフェンスすること」「以上だ」

滅茶苦茶なシステムだ。が、ハーデンが出ている時はそれが効率的なのだ。ハーデンはクリーブランドを除く全世界で最高のピック&ロールの使い手であるし、彼の周りは完璧なサポーティングキャスト(砲台とかリムランナーとか)が埋めている。

彼はあらゆる守り方に対して答えを持っている。
ビッグマンが出てきたらいいカモだ。自分をを守ってきたらアンダーソンに打たせる。ヘルプが寄ればオープンに捌く……(動画付きの解説だったのて省略します)

他の選手にも活躍の余地はある。が、あくまでこれはハーデンのショーだ。ロケッツのオフェンスの34%は彼で終わるし、彼が出てる時彼は味方のシュートの61%をアシストしている。同様の数字をシーズン通して残したプレーヤーは『歴史上』他にいない。

決して彼がセルフィッシュな訳ではない。彼が文字通り『全て』こなしているからの数字だ。
ロケッツは1試合当たりの総パス数で断トツのビリであるが、これはハーデンからの1パスで味方が打てることが頻繁にあるからだ。

クラッチタイムでは彼はオフェンスのペースを遅め、自分でシュートを狙いに行く傾向を見せているが、このことは問題ではないし、問題にすべきでもない。ハーデンのアイソレーションは基本的に良い結果をもたらす。彼を守れる選手はいないし、ヘルプが来ればいつでもレーザーのようなパスを捌くことができる。「教科書に載っているようなバスケではないし、父親に教えられるようなバスケでもない」ダントーニは語る。「……だが効果的だ」

ダントーニの下でピークを迎えていた時のサンズとも、今のロケッツは違う様相を呈している。あの時のサンズにはスティーブ・ナッシュ、アマレ・スタウダマイヤー、ショーン・マリオンという、リーグTop20の選手が3人いた。それに対し、ハーデンはロケッツで唯一のリーグTop50の選手だ。ナッシュとハーデンは同じくらいボールを扱っているが、ナッシュが13.5本以上シュートアテンプトを平均しなかったのとは対照的に、ハーデンのそれは20本近い。そしてそれは必然なのである。

……スターを1人しか持たないのは、ロケッツの理想のプランではなかった訳だが。

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ヤオ&T-Mac時代が崩壊して以降の5年間、ロケッツのGMダリル・モーレーの頭にあったのはただひとつ、"Get stars without tanking"であった。
全ての契約は『黄金のトレードチップ』でなければならなかった。更なる選手を連れてくるための。ロケッツはそれらを次々に集めていたーーーハーデンを呼び込めるまでは。1人のスターは2人目、3人目のスターを呼ぶ。事実ドワイトが来て、クリス・ボッシュもあと1歩で新しい白赤のジャージに袖を通していた。なんと完璧なチーム構築だろうか。

しかし今年の夏、ロケッツはアンダーソンとゴードンの2人と計33ミリオン/年の契約を結んだ。彼らは更なるスターを呼び込むための『黄金のトレードチップ』ではないし、彼らと契約したことで、スターをさらに連れてくるためのキャップスペースは残っていなかった。

このオフの動きは、ロケッツに明らかな方針転換がなされたことを意味していた。情報筋によると、ロケッツのオーナーであるレスリー・アレキサンダーは、昨シーズンの失態から立ち直ることに意欲的であり、そのためにはどんな代償も厭わないとしているらしい。今回の契約は、かつてほどモーレーの立場が安泰ではなくなっていることを示唆している、という情報もある。選手人事課の副課長であり、モーレーの腹心でもあったGianluca Pascucciの解任は、モーレーは自身の決定によるものだと言っているが、一般的にはモーレーに釘を刺す人事であったと言われている。

「去年の結果には失望した」とモーレー。「ヒューストンでの職が安泰だったことはない。それでいい。今まで通り、適度にプレッシャーを感じてればいいんだ」

去年の芳しくない成績が今夏の大盤振る舞いに繋がった、とモーレーは言う。
ロケッツはスター候補をドラフトできるほどの高順位指名権は手にできないと分かっている。自前でも、トレードでも。モーレー曰く、指名権はリンとローソンのディール時に「使い果たした」。

よって、ロケッツが第2のスターを手に入れるために残された選択肢はフリーエージェントだけになった。しかし、普通スターはそんじょそこらのチームには見向きもしない。ケビン・デュラントはこの夏、ロケッツとミーティングすら取り合わなかった。「リーグ内の立ち位置という観点からも、昨シーズンの低迷は我々の首を締めた。今季また上手く行かなかったら、またFAはウチを契約先に選ばないだろうと思わせられたよ」とモーレーは言った。

莫大なキャップの増加もあり、ロケッツは今までと同じ指針ーー安い選手の中から掘り出し物を探し、トレードの駒に育てるーーではいられないと結論付けた。「我々には2つ選択肢があった。泣く子も黙るスーパースターに突貫するか、無視してそこそこ優良な2人の選手を取るか。誰かには金を使わなきゃならなかったわけだ」

キャップスペースが貧弱なほど残っていないからといって、騙されてはいけない。ロケッツはまだスターを求めている。「優勝するにはTop10プレーヤーが2人は必要だ。1人は持ってる。常にもう1人を狙ってるよ」とモーレー。

ロケッツはもう1人のスターの招致に自信がある。ダントーニのアップテンポなシステム下では全ての選手が成績を伸ばせ、トレードの駒としての価値を高めてくれる。それに、ウェイブやトレードを駆使して、予想外のキャップの増加も手伝ってくれれば、充分なキャップスペースを作れるとも思っている。モーレーはリスクを認めつつも、「我々の見立てが正しければ、我々は中位でプレーオフに進めるだろう。リスクを取るのに何も問題は無い」と自信を覗かせる。

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現在ロケッツの失点はリーグ27位。このままでは思い描く順位には届かないだろう。チームのディフェンスを担当するアシスタントコーチのJeff Bzdelikも、「ディフェンスへのコミットが必要だ。さもないと、勝ったり負けたりを繰り返す5割のチームのままだ」と語っている。

信じるも信じないも自由だが、ロケッツはディフェンスの改善に(一応)取り組んでいる。開幕前、モーレーとスタッフは過去3年のビデオを研究した。リーグTop10のディフェンスを誇ったチームによるピック&ロールの守り方、59000回のボールスクリーンのフィルムを。そして各バリエーションに対する最善の守り方を検証し、ピック&ロールディフェンスの基本的なルールを設定した。

ロケッツの練習は未だにトランジションディフェンスの練習から始まる。彼らの原点だ。フィルムセッションでは指摘の声が飛び交う。キャブスに負けた試合のビデオセッションでは、ロケッツの全ディフェンスポゼッションのうち65%に何かしらのミスを指摘した。

皆がディフェンスに熱心に取り組んでいる(ように見える、大部分は)。シューターに急いでチェックに行くし、リム周りのシュートを減らすことにも成功している(リーグ6位)。トランジションディフェンスはリーグ平均程度だが、去年の体たらくとリーグ最低のターンオーバー率を考えれば大躍進だ。ビバリーが戻ってきたら尚良くなるだろう。

「何人かは良いディフェンダーだ」ダントーニは言う。「そうじゃない奴らも、努力はしている」

アンダーソンはしばしばスモールで対応される。ウィングプレーヤーの速さに彼は付いていけない。オフェンスでポストを攻めることでアドバンテージが取れればよいが、彼のプレーは読まれている。カペラはまだヘルプディフェンスを学んでいる最中だ。アリーザは昔に比べて足がかなり衰えた。ブリュワーはギャンブラーだし、ハーデンとゴードンは試合を通じてディフェンスを続けられない。スクリーンをたくさん使ってたくさん走れば、ロケッツはもう滅茶苦茶だ。

ロケッツ相手ならスリーは打ち放題だ。リム周りでシュートを打たれていないからといって、その内65%以上も決められていたら大した意味を為さない。

これらの問題を軽減するために、ロケッツはオールスイッチを採用している。Jeff Bzdelikによると、「スクリーンを抜けるにも一苦労な選手達を抱えているんだ。スイッチすればその必要はなくなる」とのことだ。

ネネとカペラは素早い選手に付いていくエキスパートだし、ハーデンは驚くほどポストで強靭だ。サム・デッカーは小さい相手を不自由なく追う事が出来るため、ビバリーとモティユナス不在による層の薄さを緩和するのに一役買っている。

しかし、ゴードンがウィングプレーヤーとしては小柄であること、そしてスイッチによりチームの最長身選手がリングから25フィートも離れたところに出なければならないということは、リバウンドの崩壊のリスクを負うことを意味している。これは彼らーードワイトがいた去年ですらディフェンスリバウンドでリーグ最下位のチームだった彼らにとっては、看過できない代償だ。今のところ彼らはリーグで下から10チームに入っている。意地悪なゴール下の怪獣達はシュートが放たれたら嬉々としてカペラをコートの外まで押し出してしまうだろう。

もっと根本的なことだが、昔の癖を払拭するのは難しい。ハーデンは未だにオフボールで気を抜くことが多すぎるし、アンダーソンのディフェンスは過去2チームがうんざりして彼をタダで手放したほどにソフトだ。

ハーデンはターンオーバーの後、急いで戻る代わりに、ハーフラインの位置でゴールキーパーかのようにボールに飛び出し、一か八かのスティールを狙う。「1秒たりとも戻るのが遅れたらもう間に合わないのに」とJeff Bzdelikは嘆く。

ロケッツはシュートが決まり、上手く回っている時は素晴らしいチームに見える。真価が問われるのは、外のシュートが絶不調だったり、エリートディフェンダーによってハーデンが思うように彼のゲームを作れなかったりした時。それでも我慢して泥臭く戦えるかどうかだ。それができる兆候はある。月曜のウィザーズ戦の4Qがそうであるし、2年前ドワイトがシーズンの半分を休んだにも関わらず56勝を上げたシーズンもそうだ。1-3に追い詰められてからクリッパーズ相手に逆転勝利をしたことについて、充分な賞賛は得られていない。気持ちの弱いチームができることではない。ましてやクリッパーズ相手に。

それでも、仮に今のロケッツがチームとしてのピークを迎えたとしても、頂点を争うには不十分なのだ。更なるスター抜きには。

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よく良く考えたら信じられないようなことだが、かつてオクラホマで長年2番手、3番手を務めていたウエストブルックとハーデンが、今や中の上レベルのチームを舵取りしていて、同じ問いに直面している。「このボールを常に保持する男と一緒にプレーしたがるのは、一体どのスターだろうか?」

全盛期のドワイトはハーデンにとって理想的なパートナーだった……理論上は。ハーデンの弱点をカバーできるような、歴史に残るディフェンダーであり、オフェンスではハーデンがピック&ロールでパスを捌く時以外ではボールをそんなに必要としない。
だがドワイトは「これは自分には合わない」と考えた。結果、ロケッツの第2のスターの探索は続いている。

ハーデンはボールを独占したプレーしかできない、との意見に本人は否定的だ。「いいか、俺は誰とだってプレーできる。ボールを持ってたって、持ってなくたって、何だってできる。コーチがやれと言ったことをやるだけさ」

それでも、ハーデン在籍中のロケッツは、リムプロテクトとダイブ&ダンクが仕事のビッグマンはFAになれば全員目をつけるだろう。それに失敗した場合の選択肢は、①今のシステムにフィットするような、小さいアップグレードを施す ②ハーデンの負担を軽減できるようなスキルセットを持ったスタープレーヤーに賭ける だ。

もしかしたら、腕が長く、アリーザよりも身体能力があり、サラリーも中程度のウィングプレーヤーを見つけるかもしれない。
もしかしたら、ショートロールの達人ーーピックをセットし、フリースローラインのあたりでハーデンからのパスを受け、そこからプレーを作るーーを発掘するかもしれない。ボリス・ディアウがダントーニサンズで活躍した時の役割がこれだ。ロケッツはこの役割を安価なテレンス・ジョーンズに託してチームに残すこともできたが、健康と彼のwork ethicを疑問視し、放出した。
もしかしたらモティユナスと契約し、健康を保ち、躍進を遂げるかもしれない。

モーレーはまだスターを追いかけるだろう。ボールが足りなくなったとしてもだ。クリッパーズの3人はフロアを広く使ったピック&ロールに最適な組み合わせではないが、3人とも能力があり、クリッパーズは上手く機能させるやり方を見つけている。
サンダーとロケッツの両方が、グリフィンの獲得を望んでいることに賭けてもいい。彼はボールを独占するガードと既にプレーしており、それでもポストや速攻、ポールとデアンドレのコネクターとして自身の役割を果たしている。

モーレーは言う。「チャンピオンチームのエースになれる選手を、我々は1人しか持っていない。それは疑いようもないことだ。噛み合っている限り、スターが多いほどチームも良くなるのだ」