ちいさな宇宙に出会った話
先日、たまたま入った建物の中でたまたま作家さんの陶芸の作品展が行われていました。
陶芸作品を見るのは好きだけれども、まったく知識がないので、「おしゃれな作品がおしゃれに展示されているなぁ」ぐらいの軽い気持ちで見て回っていました。
メインの部屋に入ると、どれも同じ形の器で、一つ一つに個性がある模様の作品がいくつか展示されていました。単に「きれいだなぁ」とみていると
「これは ”天目” という種類の陶芸作品です」
と、この展示会の作家さんが声をかけてくれました。
「天目というのは、同じ材料・同じ条件で作っているにも関わらず、どれ一つとして同じ仕上がりにならないんです。」「どんな模様になるのか、まったく想像がつかない。まさに神のみぞ知る世界なんです。」
と説明してくれました。てっきり、作家さんが一つ一つデザインした模様とばかり思っていたので、キラキラとした作品にそのような神秘的な物語があったなんて…
天目とは鎌倉時代に中国に留学した僧が持ち帰ったことから天目茶碗として始まり、その最上級のものが『曜変天目』と呼ばれる。現在3つの『曜変天目』と『油滴天目』が国宝に指定されていて、それらは今でも誰がどこでどのようにつくったのか今でも全く分からず謎のままだそう。
さらに天目を作るにはかなり複雑な条件がそろっていないとうまくできないらしく、窯がある場所は家族にも教えないとのこと。
そんな秘密のベールに包まれた天目に、作家さんは幼稚園のころに出会い、衝撃を受けて「いつかこれを作りたい」と思ったのがきっかけで
大人になってすべて独学で天目の製法を発見し、今に至る…というお話を聞きました。
「器のなかに、小宇宙が広がっているんです」
もう一度作品を見ると初めに見たときとは違った魅惑の表情をしている天目茶碗がそこにはあって、器の中には宇宙が広がっていました。
物語を知ることでこんなにも表情が変わるものなのかと感動。
私も天目の世界に魅了された1人になりました。