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ちいさい

ちいさい頃弟が3000円お小遣いをもらっていた。私はいつも五百円玉を一枚もらっていた。私は千円札を一枚もらうよりも500円玉を一枚もらうほうがなんだか嬉しかった。庶民派でしょ?

身に染みた習慣や考え方の癖が煮詰まって染み込んでどす黒く染まっている。食べごろはとっくに過ぎてしまった。

ちいさい頃から私は好きなものをきちんと好きと言えない。私の好きは簡単に否定され踏みにじられ搾取されることが多かった。口にした瞬間守れなくなってしまうのなら言葉になんてしたくない。物に執着心がないのも同じ理由だ。

言葉は形だ。形になると自分の力の及ばないところで勝手に形を変えられてしまうのが怖い。根底にはいつだって「失敗したくない」という思いが根付いている。

ちいさい頃弟がお母さんが男の人と暮らしていると父方の祖母と祖父に話してしまったことがある。母が家族を捨てた要因。当然のように怒り狂い「会いに行ったらいかん」との言葉。その瞬間私は当然のように弟をその場で責めた。

「なんでそんなこと言うがよ。お母さんに会えんなったらお前のせいやきね」

すると祖父母の怒りは私にシフトチェンジしたのだ。母へのやるせない怒りはちいさい私に向けられた。「やっぱりあんたも売女の子やね。あんたも一緒になるわ」という言葉の意味を後日知った時小学校のトイレでこっそり泣いた。

その後母に会うことを許された。母の車に乗り込んですぐに弟が母に泣きついたのだ。「お母さんに会いたかった」と。当然母も泣いていた。私は泣けなかった。涙は出そうだし胸もつっかえていたけれど。その時から正しいタイミングで涙が出なくなってしまった。涙腺がつまっている!二人とも泣いてるけど弟の発言が原因で会えなかったんだよ!ギャグか??とパニック。

よくわからないまま私は弟をまたその場で責めてしまった。「泣くなよ。お前が泣いたらお母さんが泣くろうがや、お前のせいやん」と。母にとって必要なのは見えないところでのヘイトから守られることよりも今必要にしてくれる弟だった。母は私の頬をぶった。「あんたはどうせお母さんに会いたくないがやろ!」と叫びながら。

ちいさい私はもうどうしていいかわからなかった。指折り数えた日だったのにどうしていいかわからずに車を飛び出して一人でギャン泣きした。迎えには来なかった。

家族に常識に置いてけぼりにされたあのころから、ずっと迎えを待っていた。誰になのかとか何がなのかとかそんなもの煮詰まりすぎてとっくに消失。特に祖父母が亡くなってからは顕著に心の八割ほどが壊死。けれど、そもそも今までの出来事は時効なのだ。とっくにそんな話あったよなと笑う皆。私もおんなじように笑えちゃえるのだ。強くなぁい?

「お姉ちゃんはほんとにかわいそうな子やからなあ!」と弟が似非関西弁で言うたびに同じ釜の飯を食っていても配膳が違うだけでこんなにも違うんだなあ、まだ幼くて純粋だなと思う。そして弟も暖かな場所から歪なものを見ていたので強い子になった。寂しがりなのは昔のままで。可愛くて愛おしい。申し訳なく思う。羨ましい気持ちからひどい言葉を投げかけてしまったのに「俺はお姉ちゃんのことホンマに愛してんで」と笑顔で話す。姉はまだ答え合わせすることを傷の舐めあいだと思っちゃう。もう少し頑張っていい大人になったら今までの分も仲良しになりたいネ。

兎にも角にも、ちいさな失敗も許されない。私の無責任に投げ出した言葉が誰かの傷になるのが怖い。そして自分の傷に塩を塗るのも消毒になってしまうのも許せないのだ。失敗、したくない。ちいさい私を傷ついたまま傷付けながら飼い殺すことだけが救いだ。

「女って泣いたら許されると思っちゅうき嫌い」と母がしきりに口にしていた。母もきっと誰かにそう言われ傷つき鼓舞したのだろう。私の弱い涙が誰かの記憶に改竄され残ってしまうのがとても許せない。

ちいさな積み重なった名誉の負傷たちは染みついて濃くて焦げかけている。いろいろな人がそんな焦げかけの鍋に水を注いでくれる。やさしい言葉や時間をくれる。

ここ数年自分を俯瞰でしか実感できなくなってしまった。そういう何気ない思いやりからの美しい言葉が苦しいほど尊い。字面だけの中身のない愛の言葉にたくさん傷ついてきたのでとても怯えながらではあるが関係のない過去の手垢で汚してしまわないように心の中に仕舞い込むのだ。

無防備になるのが素直になるのが苦手だ。実感しながら生きていくには脳筋になり過ぎている。ちいさくて弱いのはあの時の私だけでいい。なのに厚塗りした化粧を着飾ったドレスを優しく剥ぎ取ってくれる人達ができた。意図せず飼い殺した自分を許してあげてもいいかなと思う瞬間が増えた。

みんな心の中にちいさいけれど外れると全部が崩れてしまう大切なネジがある。それぞれのネジは尊重されるべきだし思いを馳せて他者と向き合いたい。

私はとてもちいさい。夜景の一部に過ぎない。思い上がるつもりはない。大好きな人達には幸せになってもらいたい〜。大切な人の大切にしたい何かを大切にできたらそれだけでもう万万歳。最近たくさん幸せな時間が増えていてきゅんってしていたりもする。

って書いてたらすごく嫌なことがあって何も書けなくなりました。結構感情で書くのでボツだけど消すのもったいないからこのままのーせよ、の次第です。ぽーい。




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