やっぱりトランプは対キューバ政策を締め付そうだ

2017年6月16日。

アメリカのトランプ大統領がマイアミ入りする。
大統領としてマイアミを公式訪問するのは今回が初めて。


キューバとの関係をどうするか。
今回のマイアミ訪問の最大の関心事はこれ。


オバマ前大統領は、キューバと仲良くしよう。
そういう政策を進めていた。


でも、トランプは考えが違う。

キューバは国内の人権問題とか解決していない。
だから、アメリカが歩み寄って仲良くする必要はない。


大統領になる前から、トランプはこういう態度だった。


明日、キューバとの付き合い方に関してトランプが発言をするのは確実。
でも、ネガティブな内容なのもほぼ確実。

だからここ数日、こんな(↓) 感じの報道が増えている。

“Trump will roll back Obama’s efforts to normalize relations with the island (Cuba).”

= トランプはオバマの対キューバ関係正常化に向けた取り組みを後退させる


アメリカのメディアが入手したトランプの対キューバ政策案には、

・キューバに観光で行っちゃダメ
・キューバの公団と金のやり取り(ビジネス)をしたらダメ
・アメリカの対キューバ経済制裁(embargo)は有益だった

そういう内容が書かれている。


しかも、政策のポイントは5つあって、全8ページの文章という詳細。

実際にこの文章を手に取っていないとわからないような情報ばかり。

なので、この報道の信ぴょう性は高そう。


ところで、なんで、キューバの公団とビジネスしたらダメなのか?


アメリカ政府としては、キューバのカストロ政権が牛耳るキューバの公団にお金が入ったら、カストロ政権は得をする。

でも、キューバ国民は、その利益を受け取ることができない。
キューバ人を抑圧しているのは、アメリカではなくキューバ政府だ。


アメリカは、キューバが自由で公平な社会になることを望んでいる。
でも、カストロ政権はそれを実現できていない(する気がない)。

アメリカの資金が、キューバの公団を通じてカストロ政権に渡ることは、現状維持が続くことを意味する。


それはアメリカの望むところではない。
だから、ビジネスを禁止する(例外あり。後述)


アメリカとキューバのビジネス促進をしている団体(U.S.-Cuba Trade and Economic Council)の見立てでは、

・キューバ国内経済の60%を “GAESA” が握っている。
・キューバの観光業の80%を “GAESA” が握っている。


“GAESA(ガエサ)” って何?


GAESA とは、キューバ軍部の傘下にある公団。


正式名称は、

"Grupo de Administración Empresarial S.A. (GAESA) de las Fuerzas Armadas Revolucionarias (FAR)”


そのトップは、

ルイス・アルベルト・ロドリゲス(Luis Alberto Rodríguez)。
キューバのラウル・カストロ議長の娘のダンナ。

そういう構造的な点も含めて、アメリカ政府はカストロ一族がキューバを私物化している。

加えて、政府に不都合なことを言うヤツは、いろいろ理由をつけて逮捕したりする。

そう指摘しているワケ。


オバマもそういう点についてはもちろん不満を持っていた。

けれどもオバマは、キューバにビジネスを通じて関わって行くことで、内側からキューバを変えていこうとしていた。

でも、トランプはこの流れを引き戻そうとしている。


アメリカの大手ホテルチェーン、Starwood Hoteles & Resorts は、オバマ時代に GAESA からハバナ市内の歴史的なホテル経営権を買う契約にサイン済みだった。

でも、これもオジャンかもしれない。

そして、一般のアメリカ人も、しばらくキューバに自由観光で行くことはできなくなる。


厳密には、オバマ時代にも観光は禁止されていた。

でも、草の根交流のための教育的渡航(“people to people educational trips”)という抜け道を作っていた。
どうしてもキューバに行きたい人は、この名目で行ってくれと。

このやり方の時でも、個人の自由旅行はできなかった。
認可を受けた代理店に、行き先とやることをすべて決められるツアーに参加するしかなかった。

でも、キューバでのお金の使い道とかについては、ほぼノーチェックだった。

それが、明日のトランプの発表次第で厳しくなるかもしれない。
特に、GAESA 関係に金を払っていないかについて、厳しくチェックされる。


トランプに対キューバ政策の締め付けを迫っているのは、

・マルコ・ルビオ、共和党上院議員、キューバ系
(Marco Rubio)
・マリオ・ディアス・バラート、共和党下院議員、キューバ系
(Mario Díaz-Balart)
・リック・スコット、フロリダ州知事
(Rick Scott)

ルビオは、アメリカ人がキューバでお金を渡す相手を GAESA 以外に絞ることで、カストロ政権以外の個人事業主に金が落ちる。

オバマの政策もキューバの個人事業主を支援する方向で動いていた。

であれば、自分(ルビオ)たちの締め付けは締め付けではなくて、オバマ政策の後押しになる。

そう説明している。

そして、トランプは、対キューバ政策をどうするかについて、ルビオのようなマイアミのキューバ系コミュニティ(キューバから亡命した人たちとその子孫)の意見が正しく、公平なものだと確信している。


あと、キューバの政府関係者がアメリカ国内で銀行口座を持つことができないように厳しくする見込み。

今まで、アメリカの銀行口座を持てないのは、キューバの軍関係者だけだったが、それがすごく広い範囲で適用される。

キューバの国営メディアの職員とかでも。
大使館職員の給料とかもどうするんだろう?


ただ、アメリカがどんな政策を採ったとしても、キューバ政府が自分たちのやり方を変えるとは考えづらいという声が大きい。


いろいろ禁止事項は増える見込みだけど、変わらないものもある。

例えば、農産品、医薬品、医療機器のキューバへの輸出(販売)については、今まで通り認められる。

こういう品目は、人の命に関わるものなので、経済制裁下であっても、特別にキューバに持って行っていいと認められていた。

アメリカに住んでいるキューバ人がキューバにいる家族に仕送りをするのも今まで通りOK。

オバマ時代に再開した大使館も閉鎖しない。

キューバ人に対する特別な移民措置だった、“wet foot, dry foot” policy も復活しない。

だから、完全にオバマのやった頃を元に戻すという訳ではない。


ちなみに、トランプが演説を行う場所は、Manuel Artime 劇場。
キューバとアメリカにとって、因縁の人間の名前が刻まれた劇場をワザワザ選んだ。

Manuel Artime とは、ピッグス湾侵攻(Bay of Pigs Invasion)の部隊長。

ピッグス湾侵攻とは、アメリカがカストロ政権を倒すために仕掛けた隠密武力作戦(1961年4月15-19日)。

結果は、キューバの勝ち。

今でもこの日は、アメリカ資本主義帝国の野望から祖国を死守した歴史的な日としてキューバで大事にされている。

ピッグス湾侵攻のあと、キューバはソ連(ロシア)と急速に接近した。

アメリカは自分で自分の首を締めた形になった。


トランプが対キューバの締め付けをする理由は、選挙でした約束を守るという意味もある。

どの程度、重みがある判断要素なのかはわからないけど。

特に、ピッグス湾侵攻に参加した退役軍人たちは、選挙の1週間前にトランプ支持を公表したので、トランプとしては彼らに恩義がある。

・トランプは、私が大統領になったらキューバを締め付けます。
・退役軍人は、お前(トランプ)がキューバを締め付けるなら、大統領選で投票してやるよ。

そういう取引があったのだろう。


明日の朝には、トランプがどんな発言をしたか明らかになっている。
楽しみで仕方がない。

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