誰か止めてください『日記:2024.2.1』
ベッドに座り、足元に布団を掛ける。
後ろにある窓からは隙間風が入り込んでいて、1ヶ月前にボブヘアにした私の首を冷ました。
壁に持たれて膝を立て、両手でスマホを持つ。リングはついているけれど、そこまで指を伸ばしてしまうと操作に支障が出ることはもう把握済だった。
音楽アプリを起動する。
毎月プレイリストを作ることで、この時はこんな曲を聴いたと思い出せるとXで見たことがある。それに倣って去年から1ヶ月ごとにプレイリストを作っていた。
今月のプレイリストは十分聞き飽きていたけれど、新しいプレイリストを作るにはまだ早い。もう少し経ってから、新しいリストを作ろう。
「2024.1.14~」と書かれたリストをタップし、シャッフルリピートにする。
私の想像力を掻き立てる音楽達が流れ始める。1月14日から今までに、私が聴きたいと思った曲がわんさか入っている。
これを聴き始めると、スマホを持った両手の「モード」が切り替わる。
これから行われる、合図だ。
初めてやり始めてからもう5年になる。
大学からやっていたそれは、飽き性の私を楽しませるものだった。
私は制限時間があったり、誰かと戦うゲームが苦手だった。かといって、どうぶつの森のようなスローライフ系のゲームも好きだが突然飽きてしまう。私にとってゲームは所詮、飽きが勝ってしまうのだ。
だがそれは違う。
制限時間は無いに等しい。
右上でカウントはされているが、それがなんの意味を持つか全く分からない。スコアによって何かが貰える訳でもないし、記録している感じもしない。プレイしている私自身も、何かを望んでいる訳じゃない。
ただそこに存在していて、1秒ずつ進んでいくだけだ。
私が5年間やった上で、両親指を器用に動かすことが1番速いと気付いた。
指が短いので、遠くをタップする時は、片方でスマホを持ち、片方を手放し親指を伸ばす。この要領で画面全てを網羅することが出来る。
私の戦いが始まる。
やり方は人それぞれである。
私は画面下部にある数字を眺め、1からタップする。
マス目に存在している1が光り、仲間がここにいると手を挙げている。私はそれの場所を拾い、必要な場所を知り、1をタップする。
成功と失敗。
どちらも大きな効果音が鳴る。私は確実に成功する場所にしか数字を置かないので、失敗の音を鳴らすことは少ない。失敗に導かれそうになる時は「下書き」を使うからだ。
下書きを使った場合、約2~3分で1ゲームが終了するが、その後が難関だ。
広告である。
無料のアプリの分、広告が流れるのは至極当然なことで、課金をしていない分それを観る時間に憤りを感じることはない。
ただ、そのおかげでバックグラウンド再生をしている音楽が途切れてしまうのだ。しかも、途切れたまま戻ってくることはなく、手動で再生し直さなければいけない。それが厄介なのだ。
ゲームクリアのタイミングで、勢い良くゲームの履歴を削除する。それが成功すれば音楽は途切れずに済む。成功率は7割5分といったところだろうか。
そうしてまた最初の画面から始まり、次のレベルへ変わっていくのだ。
私の体を支配するナンプレ。
ナンプレと生きている私。
誰か、どうか、止めて欲しい。
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