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【建築家の頭の断面図】建築撮影前のスタイリングのやり方

建物が完成した後の撮影は僕にとってはご褒美だ。
デザインしたことがちゃんと力を発揮しているか、実際小物を置いたときにどう見えるかなど、スタイリングがバチっと決まった時はすごく楽しい・・・

だけどスタイリングって長年やってきてるけど、めちゃめちゃ難しいし、時にはスタッフ同士が険悪なムードになるほど、「センス」が必要。

今回は先日完成した建物を実際に撮影した時に、何をポイントとしたかを整理整頓しようと思う。


建築写真の構図

まず知っておきたいことは、建築写真は「正面撮り」が基本ということ。
これは某有名雑誌の編集長が話していたことなのだけど、
「正面撮りだとごまかしがきかず、シンプルに見える」と言っていた。

確かに斜めからの構図より、正面の方が縦横の線が統一されていて余計な情報が入ってこない分シンプルに見える。その分ごまかしがきかない。

この考えを基にどこがこの建物の「顔」なのかを見極める。
一番わかりやすいのは設計者が初回で提案するパースだ。
パースを作る時、必ず「かっこいい」アングルを一番に見せる。設計者の意図として、そこが「顔」ということだ。
(これも面白くって、正面撮りはデザインのごまかしが効かないため、正面のパースが素敵なら大体その空間は成功すると思う)

スタイリングの一番大事なところ

スタイリングは「センス」が重要・・・
といっても「私、センス抜群」と思う人はかなり少ないだろう。
ただ心の中では「センスはそこそこある」と思ってる人が実は多い。
だからスタイリングを共同でやる時に喧嘩が多い。
そこで共通認識を持つことから始めると良いかもね。

撮影とオープンハウスの違い

共通認識・・・それは「撮影」と「見学会」はスタイリングを変えなければいけないということ。(これは住宅に関しての内容ということを認識しておいてください)

見学会は写真と違って瞬時に四方八方から目に情報が入るため、スタイリングアイテムを多めに配置する。そうしないとシンプルではなく「寂しい」と感じてしまうからだ。
逆に撮影はできるだけアイテムを削ぎ落す。

写真は決められた画角の中での情報なので、アイテムが多すぎると何を訴求したいのかがわからないからだ。
建築自体にこだわっているのか、スタイリングアイテムをこだわっているのかで、置くモノを選定し、どんどん間引く。
これが基本。

2~3人体制で行う

撮影時にはスタッフはできれば2~3人いると良い。
一人はカメラを設置して、レンズから見える画角からスタイリングアイテムの色と大きさ、位置を決める。もう一人は実際に作業する。

クッションカバーの入替

一番効果的で安く手に入るアイテムは「クッションカバー」だ。空間に色を入れたい時、クッションの色で簡単に印象を変えられるのでおススメだ。(これは撮影の時だけではなく、普段住んでいてちょっと模様替えをしたい時にもすごく有効。イケアやニトリのクッションカバーで十分なので是非試してみてください)

花を入れる

生花でもドライフラワーでもいいので花を入れよう

生きているものを入れると空間に柔らかさが生まれる。
最近は生花を入れ始めた。正直今までは使いまわしできて、見た目も良いドライフラワーを基本入れていたけど、空間の雰囲気にマッチしないこともあった。

わかってはいたけど、生花はお金がかかるし・・・とか思ってたんだけど、実際は生花の方が断然安い。そして明るい雰囲気には生花が良く似合う。もったいないと思っていたけど実際良い写真としてずっと残る訳だから、実はコスパがかなり良い。頑張ればドライフラワーにできるものもあるし・・・ということで、空間に合わせてにはなるけど、お花を入れることはおすすめだ。

生きているものという意味では人を入れるのも効果的だ。
ただ注意するところは「空間を魅せたいのか雰囲気を魅せたいのか」ということだ。雰囲気に関してはそこに人の姿を置くと、かなり柔らかくなる。では空間を魅せたい時は・・・場合によるかな。スケールとしての役割に人を置くのはすごく良い。ただシンプルに、非日常にとなると、人を入れないという選択肢も必要。もしくは人を入れても服にこだわるということも必要かなぁって思う。

撮影当日の動き

撮影当日の前に事前に連絡すべきこと。
光が当たった時が一番きれいに見える場所を伝えて、取る順番を事前に想定してもらう。
できれば建物の「顔」を伝えておく。

今回撮影してくれたファンキー女性カメラマン

数打ちゃ当たる作戦

撮影当日。
メインの空間写真はプロにお任せするとして、自分たちも撮影する。
今回は事務所から3人+プロ1人の4人だったので、4人分の撮影データが手に入る。

もちろんプロのクオリティには勝てないんだけど、
僕たちの作戦は「数打ちゃ当たる」作戦。

広角レンズでも撮るし、SNS用に部分写真もいっぱい撮る。
今回は事務所メンバー3人で動画も含めると500枚撮った。
そうすると「奇跡の1枚」が10枚くらいある。2%の確率。
効率は最悪だけど、それほど完成写真は大切だと思う。

「デザインは世に出して、評価されることでようやく完了」だからだ。

独立したばかりの設計事務所の場合、金銭面でプロのカメラマンにお願いすることができないことが多いと思う。うちもそうだった。だから自分たちで何とか良い写真を撮るために、頑張って一眼レフカメラを買って、自分たちで撮り続けた。

最初は下手だけど、だんだん写真として何が重要なのかがわかってくる。
これってデザイン力も上がってるってことだから、設計事務所つくったばかりの方は試してみたらいいんじゃないかなぁって。

プロの意見を積極的に聞く

撮影中に逐一プロカメラマンの意見を聞くようにする。
それは建物を撮影している数が圧倒的に違うからだ。また違う設計事務所の撮影もしているので、それぞれの特徴を瞬時に判断する能力がある。
建築以外の写真も撮っていると思うので、SNS用の部分撮りにも参考になる。

影の強さを考えて、外観は撮影する

最高の建築写真を撮る意味

夕景の撮影

最近は動画も重要だけど、写真は見る人の時間を奪わないので、現時点では写真6割、動画4割の力の入れ方を目指して撮影している。

建築写真は第1印象としての役割が強い。人の外見と同じだ。
見た目が良い、清潔感がある、タイプだ、などの第1印象をしっかり魅せることは、その建物において重要な要素。

住宅の場合、そこに住む人の暮らし方、生き方をも変えるほど、強烈な影響力を与える。

店舗の場合、そこで働く人のモチベーション、そこに通うお客さんの話題と「ここ行ってきました!」という優越感を与え、結果的に売り上げに大きな影響を与える。

動画に関しては「中身・性格」と同じだ。時間軸を加えることにより雰囲気・空気感を伝える物。これもまた重要。

この写真・動画を出来るだけクオリティを上げ、その場に行ったかのように伝えることが大切だと思う。

各デザインコンペでも、1次審査は写真、2次審査は写真+動画というものが増えてきた。建築物の本質的なところを評価する軸に変わりつつあるのだろう。もちろんyoutubeの広まりで、みんなの動画リテラシィーが高まったことも要因だと思う。

この写真・動画をしっかり世の中に伝え、評価してもらうこと。
これを何気にすごく喜んでくれる人は「お施主さま」だ。

自分の要望が形になったもの、信頼した設計事務所が結果を出したこと、自分の目に間違いはなかったと思うこと、喜び方はさまざまだけど、ちゃんと資産価値が高まり、みんながいいなぁって思っている空間に住む、みんながこんなところで働きたい、ここに行きたいという空間を所有する、これって建物が完成して終わりではなく、その後にどれだけ間接的なメリットを提供できるかに繋がってくると思う。

なので、先ほども言ったけど、

「デザインは世に出して、評価されることでようやく完了」ということだ。

建築写真でデザイン力をアップする

最後に・・・
建築家は大抵写真がうまい。
写真が好きということもあるけど、空間に対する美意識が高いからだ。何を大切にしているかというと「構図」だ。
構図がうまい人はデザイン能力が高い。もちろん空間もそうだが、グラフィックをデザインする時、テナント入の店舗ファサードを考える時、構図を意識する。

内観の「顔」cdwスタッフ撮影

この「撮影」という行為を本気で取り組むことによって、
デザイン力のアップは確実に見込めると思う。

是非皆さんも自分で撮影、編集までして能力アップを目指していただけたら嬉しいです。

(※ちなみに今回の記事の写真は全てスタッフで撮影したものなので、いずれプロの写真がHPのworksにアップされますので比較してみてください。)

今回はここまで。
ありがとうございました。

建築設計事務所「CURIOUS design workers」ではインテリアにこだわった様々なworksをUPしております。住宅、リノベ、店舗、中規模建築問わず事例が見れますので、ご興味があれば下記HPよりご覧ください。

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