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ショートショート「世にも奇妙な色々物語② ビンゴゲーム」


今日の空は青く、どこまでも澄み切っている。
見事な秋晴れの今日。
俺の大好きな先輩ーータケル先輩が結婚する。

タケル先輩とは、俺が大学時代、バイト先で出会った恩人だ。
仕事を教えてもらったのは勿論、人生相談、ささいな悩みすらも、聞いてもらっていた。
タケル先輩は、非常に優しく、俺にも気を遣ってくれる性格である。
だから、バイトを辞めた後でも親しい付き合いが続いていた為、タケル先輩の結婚式に招待されたのであるが、大学ではなくバイト先の先輩なので、この結婚式場に俺の知り合いは、いない。
タケル先輩は、バイト時代の関係者を俺しか呼んでいなかったのだ。

だから、結婚披露宴の席は、一番前。特等席だ。
タケル先輩の幸せそうな顔を見ながら、お酒が進む。
タケル先輩は、時たま、俺に向かって、目でサインを送ってくれる。
だから、知り合いが全くいない、この席でも、気まずさを感じる事なく、楽しく過ごす事が出来た。
タケル先輩は、素晴らしい人格者だ。
俺が大学時代で得た宝は、タケル先輩だ。

「この後、二次会出席されますか?」
ふいに声を掛けられ、視線を下に落とすと、目がクリッとした、身長が低い、非常に可愛らしい女の人に声を掛けられた。
薄いブルーのドレスと肩に巻いているショールが良く似合っている。
巻いた髪を結っていて、可愛らしい。
耳には、ダイヤモンドみたいなキラキラしたピアスを付けている。
今にも、零れ落ちそうな朝露のしずくの様だ。
非常にセンスが良い。
テレビでよく見る大勢のアイドルの一員みたいな容姿だ。
俺は、思わず彼女の左手の薬指を見た。
指輪は、付けていない様だ。
「はい。二次会参加しますよ。」
俺の言葉に彼女が手を叩いて喜ぶ。
「良かった〜。私、今日の結婚式に知り合いが一人もいなくって…。さっきまで、孤独だったんですよ?二次会も、一応参加にマルを付けたんですけど、土壇場まで、どうしようか悩んでたんです〜。」
彼女の言葉に、俺も安堵する。
「俺も一緒です。さっきから、ずっと、ぼっちだったんですよ…。二次会は、楽しそうだから、参加しよっかなって。」
彼女は、可愛いらしくペコリと会釈をした。
「じゃあ、私達、今から知り合いですねッ!ヨロシクお願いしまっす!」
俺も、会釈をした。
「こちらこそ、宜しくお願いします!!」
俺は、何だか、凄く楽しい二次会になりそうな予感がした。

会場に移動するまで、彼女との会話が弾む。
「西村さんは、最近、テレビとか何観られます?」
俺は、彼女の質問に笑顔で答える。
「最近は…俺は、テレビとか、あんま観ないかな?YouTubeは、観るけどね!ヨガチャンネルとか!!」
彼女は、微笑みながら、相槌を打ってくれる。
その仕草が堪らない。
非常に、可愛いらしい!
「そうなんだぁ!ヨガちゃん、好きなんだぁ!!あ…!!ネットニュースとかは?」
ニュースか…。
最近は、YouTubeにハマってるから、それしか観ないんだよな…。
正直。
ニュースを観ないって言ったら、知的じゃないと思われるかな?
でも、嘘は、あんま良くないよな…。
「ネットニュースや新聞とか、全然見てないんだ。最近は…。忙しかったり、そこまで興味もなかったりかな?基本的に、YouTubeは、好きなんだけどね。」
俺の言葉に彼女は、頷いた。
「今、そんな世の中ですよね!私もYouTube好きですよ!」
俺も、YouTube大好きだし、君は、天使だ!
会話が弾んで良かった…。
そして、何よりも彼女に対して、嘘を吐かなくて、良かった。

俺達は、ようやく二次会会場に到着した。
会場に着くやいなや、ビンゴカードを渡される。
テーブルには、タケル先輩が準備したであろう景品がテーブルの上に理路整然と並べられていた。
さすがは、タケル先輩。
先輩の真面目な性格が、景品の陳列に表れている。
彼女が上目遣いで、コソコソと話し掛けてくる。
「あのぅ。私、ビンゴ運が良いんですよ!」
彼女の仕草が、いちいち好みだ。
「そうなんですか!羨ましいです!俺は、イマイチで…。」
俺は、ビンゴだけでなく、くじ運も悪いんだよな…だなんて、ボーっと考え事をしていたら、
彼女が、またコソコソ話をしてきた。
「ねぇ。ビンゴで商品を当てた方が、相手の言う事を何でも聞くっていうゲームしません?」
俺は、彼女のいきなりの提案に驚いた。
「本当に何でも良いの?」
俺が聞き返すと、彼女は、顔を赤らめながら、ハイなんて可愛く答えてくる。
俺は、調子に乗って、彼女の上から下までをジッと眺めた。
彼女、スタイルも良いんだよなぁ…。
思わず、涎が垂れそうになる。
「どうしたんですか?」
彼女の一言にハッと我に帰る。
「ビンゴ、やる気出てきたよ!」
と俺は、満面の笑みを浮かべた。
彼女は、顔を赤らめながら、
「はい…。私もです!!」
と俺に笑顔を向けてくれた。
俺は、今、ささやかな幸せを感じていた。

タケル先輩が司会で、内心ドキドキのビンゴ大会が幕を開けた。
俺は、配られたビンゴカードに願掛けする!!
(何でも良いから、俺に商品が当たります様に…!!)
出来れば、彼女には、何も当たらないで欲しい。
俺の言う事を聞いてもらいたいから…。
しかし、俺の願望も虚しく、彼女が一番にリーチになる。
さすが、ビンゴ運が強いと言っていただけはある。
かなりの強敵だ。
俺の心の葛藤を知らない彼女は、俺に向かって無邪気にピースサインをしている。
く、悔しい…。
しかし、彼女は、会場で一番にリーチになったものの、中々ビンゴには、ならなかった。
その間に、俺もリーチになる。
俺と彼女の真剣勝負!!
神様が微笑んだのは…!??

「おめでとう!!この商品がお前に当たって嬉しいよ!!」
俺は、ビンゴになり、タケル先輩から商品を受け取った。
「ありがとうございます!!タケル先輩、お幸せに!!」
先輩は、爽やかな幸せそうな笑顔を浮かべて、俺に商品を渡してくれた。
当たったのは、5000円分のギフトカードだった。
凄く嬉しい!!
今日の俺は、確実にツイてる…!!
彼女に向かって、ピースサインをする。
彼女は、笑顔で拍手をしながら、俺を祝福してくれた。
彼女は、とうとう最後まで、ビンゴにはならなかった。

二次会の帰り道。
俺は、意を決して彼女に言った。
「賭けは、俺の勝ちだよね!LINEの連絡先を教えて下さい!お願いします!!」
頭をさげる俺の姿に、彼女は、微笑んだ。
「そんな簡単なお願いで良いの?」
彼女は、上目遣いで俺に聞いてくる。
そして、スマホのLINEコードを俺に向けてくる。
俺は、喜んでスマホで、彼女のLINEコードを読み取った。
俺、今日は、とてつもなくツイてる!!
ありがとう神様…!!
「これから、宜しくお願いします!!」
「はい!こちらこそ、よろしくね!!じゃあ、私、こっちだから…。」
急な別れ道でも、連絡先を交換したから、全然不安な気持ちにはならなかった。
俺達は、ここで別れた。
俺は、しあわせな気分のまま、帰路に着いた。

カバンの中のスマホの着信音が鳴る。
私は、スマホに出る。
「何?どうしたの??大丈夫だから…。もう少ししたら、新しい家族が、また増えるから…ね…。」
私は、一方的にスマホを切った。
(今日のビンゴゲーム、最高だったわ。最高の家族が手に入るなんて…。)
「私って、やっぱり、ビンゴに強いわ…。」
最近の男性の一人暮らしって最高!!
以前は、テレビって色々な情報を一気に伝えてしまうから、やりづらかったけど、今は、皆、YouTubeしか見てないから、現状を全然、把握出来てないのよね…。
ニュースさえも観ていない。
可哀想に…。
知らないって罪だわ…。
「彼も、私のいいなりになるわ…。」
もし、私のいいなりにならなかったその時は…。

どこかの家のテレビの電源が付き、テレビ画面が写し出される…。

テレビのニュース番組で、アナウンサーが必死にニュースを読んでいた。
「続いてのニュース。都内で若者が相次いで行方不明になっている事件について最新情報をお伝えします…。」












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