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《開田馬子唄》~木曽馬の里で歌われた馬子唄(長野県木曽郡木曽町開田)

開田は霊峰・御嶽の裾野に広がる高原の村で、平成の大合併で木曽町となりました。特に木曽馬の名産地として知られた山里です。古くからの習俗を伝えていて、古い民謡が残されていることでも知られています。

霊峰御嶽

また、開田は木曽馬を飼育していた歴史があり、馬と関わる生活がありました。ここに《開田馬子唄》があります。


唄の背景

木曽馬の歴史
木曽馬とは長野県木曽地域から岐阜県飛騨地方で飼育されている品種で、日本在来馬です。その起源は諸説ありますが、蒙古草原馬といい、古代に朝鮮半島を経由して入ってきたといわれています。
文献上では、江戸時代中期に編纂された日本の百科事典ともいうべき『和漢三才図会』には、安閑天皇2年(532年)に、「馬を科野国霧ヶ原の牧に放ち、聊か馬に乏しからず」とあることから、古代の牧場に馬がいたと考えられるといい、木曽馬の歴史はここから始まるといいます。なお、霧ヶ原とは旧西筑摩郡神坂村湯舟沢で、現在は岐阜県中津川市となっています。
木曽馬といえば足が短い、胸幅が広く胴が長い、腹が大きい、尻が大きい、といった特徴があります。また、首と背中がほぼ水平で、頭が低いのも特徴とされています。また蹄が固く、農耕馬としては蹄鉄を打つ必要がなかったといいます。
木曽馬は木曽駒ともいわれ、平安時代から戦国時代にかけて、武将の象徴として扱われ、例えば木曽義仲公を支えたのも木曽馬であったそうです。
江戸時代、木曽谷を支配したのは尾張藩の山村氏で、馬の自由売買を禁止するなど、木曽馬を管理しました。やがて馬市が開かれるようになり、馬の売買も始まります。
そんな馬を飼育したのは農民でした。江戸後期には、馬小作制度が盛んになりますが、開田では末川や西野で、木曽福島の商人の馬を預かり、農民たちが馬を飼育していました。これを「預かり馬」と呼ぶそうです。開田では特に大馬主であった山下家が西野にあり、大きな役割を果たしました。
やがて、明治~大正期になると、木曽馬改良が指示され、西洋種との交配や牡馬の去勢により一時絶滅寸前となってしまいます。しかし、木曽馬保存会が中心となり、飼育数を増加させました。しかし、外国産の競走馬が主体となり、かつてのような農耕馬等の労役の提供も必要なくなり、絶滅の運命をたどります。
戦後、木曽馬復活の動きのなかで、千曲市八幡の武水別神社の御神馬であった神明号が、去勢を免れていたことが判明、純系木曽馬の牝馬・鹿山号と交配され、第三春山号が昭和26年(1951年)に誕生します。
その春山号は国産馬保護のために子孫を多く残しましたが、やがて老衰がひどくなり、木曽馬の歴史を形に残したいという保存会の思いから、安楽死、身体を正確な剥製にして開田村に戻すことになりました。現在でも開田郷土館に展示されています。

第三春山号の剥製(開田郷土館)

開田の里の馬子唄
「馬子唄」とは馬を曳きながら歌う唄のことで、「馬方節」と呼ばれることもあります。一般的には博労達が馬市などへの往来に歌われたものですが、馬を曳いて移動するには、日中ではなく夜間に曳いていったそうです。その折に馬を元気づけたり、博労自身の眠気覚ましのために歌ったりする唄を「夜曳き唄」といいます。竹内によれば、南部藩領(現在の岩手県から青森県東部)の博労が歌った「夜曳き唄」が東北一円から関東、中部に至るまで広まったものであるといいます[竹内 2018:176-177]。
前述のとおり、開田では木曽馬を育ててきた歴史がありますので、そうした馬の移動の際に「馬子唄」として、「夜曳き唄」が歌われたものと思われます。具体的にどの時代に、どの地域から覚えてきたものか詳細は分かりませんが、山村ながら飛騨街道が通っていましたので、各地からの唄が入ってきた可能性があります。それに開田らしい詞を当てはめて歌われるようになったのでしょう。

〽︎鳥も通わぬ 深山の奥に
 やがて春来りゃ 花も咲く

節回しからすると「追分節」に似た感じの旋律に感じさせますので、そうした馬子唄や追分節を取り入れたものかも知れません。


音楽的特徴

拍子
無拍節

音組織/音域
民謡音階/1オクターブと5度

開田馬子唄の音域:1オクターブと5度

歌詞の構造 
基本の詞型は7775調です。また、舞台調の演唱では、「ハイハイ」の掛声が入ります。

〽︎(ハイーハイ)
 鳥もエ(ハイ)通わぬ(ハイ) 
 深山の奥にヨーエ
 (ハイーハイ)
 やがてエ(ハイ)
 春来りゃ(ハイ)

 花も咲くヨーエ
 (ハイーハイ)

演奏形態

掛声
※舞台調では尺八、鈴等の効果音を入れることがあります。

下記には《開田馬子唄》の楽譜を掲載しました。

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