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1970年代日本民謡ブーム—自己紹介にかえて—

皆さま初めまして。信州在住の望谷凛ノ介と申します。
日本民謡が大好き、民俗芸能を見て歩くことがお気に入りです。若干時間ができたので、信州の民謡を中心として、民俗音楽や地域ならではの音楽を「伝統音楽」としてくくり、整理していきたいと考えています。

民謡について

「民謡」とは、誰が作ったのか分からないもの、その地域に昔から伝わっているもの、自然発生的に生まれたものといった理解が多いと思います。「民謡」という用語としては1980年代(明治20年代)といい、“Folk song”の訳語で、それまでは俚謡とか俗謡などの用語が使われていたようです。

しかし、民衆の間で自然発生的に歌が生まれるのか?といった観点から、名もない「作曲者」が民衆の中にいたり、他所から歌が流行してきて、その土地の「編曲者」によって、その土地ならではのアレンジがなされたりしてきたことの方が実際的ではなかったのかという考え方もあります。もちろん大元になる歌があったとは想像できますが、自然に歌が生まれたとは必ずしもいえないとい考えた方が自然かもしれません。もちろん、《須坂小唄》《東京音頭》といったものもよく歌われますが、明確な作詞者、作曲者がある場合は「新民謡」とされています。

〽︎今朝も煙が三筋立つ  浅間山

民謡ブーム

ところで、管理人が夢中になって民謡を聴いたり、調べたりしていた1970年代は、第何次になるのか?「民謡ブーム」全盛の頃でした。
象徴的なのはNHKテレビでの「民謡をあなたに」という番組で、フォークソングのように洋装で歌う、それもギターを含めて洋楽器を伴奏にして、西洋音楽のコードをつけて歌う「ジーパン民謡」といった時代です。これによって大いに民謡が広まったともいえると思います。

一方、それまでは都道府県ごとに有名となったものが数曲という時代でしたが、やがて民謡家のなかには、各地を訪ねて珍しい歌、今では歌われなくなった歌を採譜し、三味線、尺八、笛、鳴り物等を手付して仕上げ、整えていくということも盛んになりました。これは「発掘民謡」と呼ばれ、本来伴奏が付くはずもない作業唄を一つの楽曲として世の中に送り出されました。それによって、耳にすることのできる民謡の曲数が一気に増えたともいうことができます。ここで、分けて考えておきたいのは、民謡をなりわいとしてこられた人々(以後「民謡歌手」と呼ぶことにします)が歌う、これらの楽曲としての民謡(以後、「舞台民謡」「ステージ民謡」「レコード民謡」と呼ぶことにします)と、本来、民衆が歌い継いできた民謡があるということです。こうした民謡は、歌謡曲、邦楽、浪曲、童謡…といった独立した音楽ジャンルとも考えていいと思われ、楽しみに聴く音楽の一分野となっています。

民謡の新たな広がり

学術的には、その土地の民間でしか歌われていないタイプの民謡を音楽学者等が研究対象とする「民謡」が対極に存在します。こちらが上記のとおり、本来の民謡です。民族音楽学者、小泉文夫さんが日本の追分とモンゴル民謡との関係を解く大変壮大なロマンチックな話題もありました。
現在では、民謡をなりわいとされている民謡家の中では、発掘民謡の紹介だけでなく、ある民謡の古い調子や別な歌い方によるものを楽曲として整えて歌われる場合もあります(《正調〇〇〇〇》とか《古調〇〇〇〇》といったスタイル)。また、鳴り物も非常に工夫され、土地ならではの楽器を入れたり、曲の番数によって変化をつけたりする等の工夫を凝らした演奏も数多いです。
また、かつて、レコード民謡ではEP盤片面に録音される3分程度の長さの演奏がほとんどで、民謡番組でもそのくらいの演奏時間でしたが、最近ではいろいろな工夫の中で、長めのバージョンで聴くこともできるようになりました。

一方、クラシック系の作曲家が日本の音楽を取り入れて作曲するなかで、民謡そのものも見直されています。また、かつて西洋的なコード進行による伴奏をつけた民謡が多かったですが、最近ではアレンジも多彩になってきましたし、日本民謡の旋律やリズムの研究、民謡が歌われてきた背景に重きを置いて作曲されたものも見られます。
信州ゆかりの作曲家としては、かつて小中学校の音楽の教科書にも取り上げられた《管弦楽のための木挽歌》を作曲した小山清茂(1914-2009)が確立した作曲法で独自の語法による日本音楽とクラシックの融合の動きもありました。

作業唄は本来の歌われる場からはほぼなくなりましたが、今日までていねいに伝承されてきた盆踊りや民俗芸能の場では、今でもいきいきとした音楽が楽しまれている現状もありますし、「民俗音楽は変化する」ということは、もはや皆さんが承知されていることと思います。
また、西洋クラシック音楽が唯一の芸術音楽であるという考え方に対して、民族音楽学の立場からは「音楽は万国共通の言語ではない」とされています。ここでは、音楽がもっている楽しさ、喜び、もう少し掘り下げて「音楽文化」の中で培われた楽曲くらいのとらえで考えたいと思います。

音楽教育と伝統音楽

学校現場では音楽の授業に伝統音楽を取り入れるようになってきています。文部科学省による学習指導要領では、今次改定でも「我が国や郷土の伝統音楽に親しみ、よさを一層味わえるようにしていくこと」について「更なる充実」が求められています。今までの学習指導要領では中学校で「和楽器については、 3学年間を. 通じて1種類以上の楽器を用いること」とされ、話題になりましたが、今次改定では小学校3・4年生で「旋律楽器」の扱いに和楽器が加わりました。また、小・中・高では「口唱歌による学習」が明記されました。音楽の授業でも「郷土の伝統音楽」の実践も充実してきています。また、総合的な学習の時間で民俗芸能を取り上げた実践も増えています。しかし、地域によって扱いやすいものが見当たらない、見つけられない、また教材の価値がどこにあるのかといった課題もあります。


一口に「伝統音楽」といっても幅が広いものです。これから、信州在住の管理人のお気に入りの民謡を中心に、今まで関心を寄せたものを実験的に、そしてマニアックに整理しようと考えています。
また、口幅ったいですが、音楽科の授業や民俗音楽を扱う総合的な学習の時間などでのヒントになるものアイディアも発信できないかと考えています。皆さんと考えていきたいです。

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