ほらあなの中は足場が悪く、こけなど生えていて、まあ太は何回か滑りそうになり転んで足をくじいた。仕方がないから帰ろう。という言葉を何度もあたまの中で繰り返したのですが、ここで三匹のやる気をそいでしまっても格好悪いのでとにかく犬のしっぽをつかんで進んでいくことにしました。
　曲がりくねったほらあなの中をのろのろと進んでいくにつれ、まあ太はひょっとすると鬼なんていなくて、これはあの老人が考えたいわゆる肝試しなのではないかと思い始め、いくらか元気が出てきました。鬼のいる島に行ってきたけど鬼なんていなかったよ。ハハハ。とおっかあに話そうとそんな呑気なことを考えていたその時。

どこからか音のはずれたサイレンのような声が聞こえ、それがほらあなの中にこだまとなって反射して鳴り響くと、地鳴りとともに酒瓶を持ったでかいばけものが、よだれを流しながら踊るようにあたまを振って、全力で駆け抜けて来たのです。

　浅黒く汚れてばさばさになってまきついた髪に赤銅色の体。あたまには膿を持ったとがったこぶのような２つのツノ。
　腰に巻いてある虎の皮にはひからびた虎のあたまがひっついています。
　鬼はまあ太たちの前で急停止し、血走っただらりとした大きな目でまあ太たちを見つけると首をひねりながら指で数をかぞえていました。

　酒臭い息がまあ太を取り囲みます。
　
　まあ太は全力で逃げ出そうとしたのですが、足に力が入らなくて動けません。そのままへなへなと座り込んでしまうと、あたりには人間のものと思われる無数の骨が散らばっています。
動けないまあ太はあっさりと鬼につまみ上げられました。
　すると今度は静かに、あかりの陰からおびただしい数の鬼たちが、同じように酒臭い息を吐きながら現れたのでした。