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3月14日生まれのあなたへ

今日はホワイトデーです そしてあなたの誕生日です 

遠い昔、あなたは私の誕生日に あなた自身を私にプレゼントしてくれました

遠い西の外れから 誰にも告げずに 夜行列車に乗って東京まで来てくれました

列車から降りてきて 私を見るなり プラットホームで泣き崩れるあなたを抱きしめ 言葉を失っていました  

長い夜を通して あなたは 不安にふるえていたのでしょうね

あの時 きっと一緒に幸せになれると 信じてくれたはずでした

なのに あなたを 失望させてしまいました

結局 あなたに 花嫁衣装を 着せてあげることは できませんでした

どこにいるかも分からない あなたに どう プレゼントを贈れば良いのでしょう

私が こうして 語りかけているのは あの頃の あなたでしかありません


人生が長い旅とすれば あなたとの6年間の旅は はるか彼方の異国の旅だったような気がします

今とは あまりにもかけ離れている 熱い情熱に満たされた日々でした

あなたと一緒だったから 貧しさなんて 気になりませんでした

あなたがそばにいてくれたから どんな困難も 苦になりませんでした

だけど 越えるべき難関に 自分を見失いあなたを傷つけ 別れを招いてしまいました

あなたを失った私は 友の言うように 映画「道」の主人公ザンパノそのものでした

私こそ あなたの愛に すがって生きていたことを思い知りました

だけど 決してあなたは ジェルッソミーナではありませんでした

あなたの意思で私と連れ添い そしてしっかりと自立して去って行きました

力強く 自分の道を進んでいくあなたを 見送るしかできませんでした


あなたが去って行った頃は この世から消え去ることしか 考えませんでした

それでも あなたとやり直すことに 一縷の望みをかけ 夢を捨て職に就きました

その時 既に分かってはいました

かってに夢を諦めた私を もう愛せなくなってたんだよね

ふたりで一緒に懸命に生きたからこそ ひとり現実逃避する私を許せなかったんだよね

そして、ふたりでやり直すには あまりにも それまでの激しい情熱が かえって重荷になってしまっていた

ふたりは その重荷を下ろして 別々の旅に出るしかなかった


一番哀しいのは あなたとの大切な旅の思い出が ふたりで語られること無く消えていくことです

せめて 独り言のように 語らせてください

あなたとの思い出を綴っていると あの頃の気持ちを取り戻すことができるのです

あの頃のあなたの情熱が 老いぼれかかった今の私の心を よみがえらせてくれるのです

そして、そのことが、再び研究への情熱を 呼び戻してくれました 

あなたがいればこそできた 研究の成果が 完成しつつあります

私は あなたの愛に支えられて 研究を行い その後もそれを生きがいにして 生きてきました

研究者になる夢は 果たせなかったけど 教師としてささやかながら研究は続けられました

いわば 私の生きがいとなった研究の礎には あなたの愛の力が有ったのです

作品として完成した書籍に あなたの名前を 刻むことをめざして 執筆を続けています


今更 なぜ と思うかも知れません

それは もう人生という旅も 終わりに近づいてきたからです

それまでの私は あなたを 忘れるようにつとめ続けていました

でも 忘れたと思っていても あなたは 私の夢の中に 時折 現れてきてくれてました

今は逆に 思い出そうとしています 

若さを失った今だからこそ ふたりの情熱そのものが 美しいものだったと分かるようになったのです

どうしても 旅の終わった場面は 醜悪に思えました

だけど あなたは 美しく羽ばたいていったのだと 今は思えます 

夢をかなえられなかったこと、家庭を築き上げられなかったこと

その後悔よりも 心に刻んで大切にしたいのは あなたがくれた深い愛です

若いふたりであったればこそ 困難や不安を越えて 一途に愛し合えた

私の人生の中で 一番美しく輝いているのが あなたと暮らした日々です

その場面が何度も何度も 繰り返し繰り返し 心に映し出されます

電話が鳴って 受話器を取れば あなたの声がしそうな気がします

まるで あなたが そばにいるような 気さえします 

今でも あの時の あなたの情熱を 感じ続けているのです


今は 何もしてあげられない 自分を もどかしく感じます

今のあなたが 幸せなのかどうかも分からない

だけど 過去の私や今の私の存在を 今のあなたは 消し去りたいかもしれません

だから あえて探して 会いに行くことは あなたが望まない限り 無いでしょう

今はただ 遠くから 感謝の気持ちをもって あなたの幸せを いつまでも祈り続けることしかできません  




 


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