小さな賭け事

 私はよく賭けを行ってしまう。
と言っても、パチンコとか競馬とか、そういう類のものではなく、
例えば「電車の発車時刻まであと2分。走ってギリ乗れるかだけど……」
というようなもの。

 先日、ホテルに宿泊した。
夜ご飯を食べに外出し、コンビニでおやつを買って部屋へと戻る。
思い返せば、なぜこの時に、飲み物を買わなかったのか。

 部屋へと帰ってきた私は喉が渇いていた。ラーメンを食べたからだろうか。部屋に置いてあるケトルで水道水を沸かした。
 マズイ。フィッシュフライについてくるタルタルソースの風味がする。元々水道水がそういう味なのか、はたまた誰かがケトルでタルタルソースを温めたのか。そんなことはどうでもいい。
 ケトルのそばに、インスタントのコーヒーとお茶のティーバックが置かれている。しかし私はカフェインに過敏な人間。カフェインレスじゃないと飲めない。

 仕方なく最上階にある自動販売機へと向かった。何が嫌って、私は高いところが苦手なのだ。高所とカフェインに弱い人間。いくら外が見えなくても、自分は今10階以上のところにいる、と思うだけでストレス。
 部屋を出る直前、念のためお財布の中身を確認する。お札は1万円札しかないけど、500円玉があるからまぁ大丈夫でしょう。これである。小さな賭け事。

 もうお分かりだろう。当然、1万円札は非対応で、かつ新500円玉は使えない。買えない。何もしないで帰るのも癪なので、氷だけもらう。融ければ水だし。
 部屋に戻ってきた私は同行者に笑い話として事の顛末を話した。よっぽど喉が渇いているように見えたのだろうか、「買ってあげるからもう一度行こう」と言われた。

 部屋を出る前にお金を借りていけば、高所のストレスを2度も味わうこともなく、1往復分の時間を無駄にすることもなかった。
 が、そうしなかったからお茶を買ってもらえたと考えると、何かには勝ったということなのだろうか?

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