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(5)中国には外交政策・世界政策がない

 日中関係でいえば、ことあるごとに、尖閣諸島をめぐる国境問題や南京大虐殺が声高に叫ばれ、南京での死者数は年々増大して、最近では30万人とかいう数字が言われるようになっていますね。
 南京虐殺があったのかどうか、その規模はどれほどであったのかについては、日本兵の報告を始め、当時現地に駐在していた外国公館の駐在員などの報告もあり、虐殺の有無から人数まで諸説があるが、さすがに30万人という大きな数字はない。

 こうした繰り返し表明される中国の方々からの主張に、きちんと歴史を検証してはどうかと、素人ながら考えるが、何度かお互いが検討する機会も作られたようだが、うまくいっていない。
 そもそも、以前にご紹介した日本人と中国人で「正確な歴史」という概念が違うのだから、すり合わせそのものが不可能なのだろう。
 そうしたことも行われてもお互いの主張は平行線をたどるばかりで、はかばかしい進展はない。なぜ、理解が得られないのだろうと疑問に感じる次第だが、そんなことは無理だ、というのが岡田である。

■中国には外交政策・世界政策がない。

 アメリカや日本の中国ウォッチャーは、みないちように、中国には外交政策や 世界政策が存在すると考えているが、これは間違いである。中国の日中関係の担当者にとって日中関係は権益である。
 ある担当者がうまい汁を吸っているのを他の担当者が見て嫉妬し、たとえば「南京の大虐殺事件」を持ち出し、日本政府の対応を非難したり台湾問題を騒ぎ立てるなど、さまざまな外交問題を取り上げてその担当者を非難する。
 そして担当者が失脚すれば、自分が日本担当になることができる。ところが自分が日本担当になれば、今度は 逆に方向転換をし、自分の権益を大事にする。
 中国の外交官や政府要人が、たとえば台湾問題をアメリカに対して口にするのは、日本やアメリカや世界に対して発言しているのではなく、自分の背後にいる他の中国人に向かって発言しているのである。すなわち他の中国人に対して、自分の立場を強めるために行なっているパフォーマンスである。したがって、われわれがそれをまともに受け止めれば、振り回されるだけである。

(『岡田英弘著作集Ⅳ』P.110)

 ここまではっきり言われると多少眉に唾つけて読みたくなるところだが、しかし、堪能な語学を駆使してモンゴル史、満州史、中国・シナ史の研究を尽くした重鎮の書かれる内容と思って読むと、なるほどそういうものかと目の前の現実がなんとなく説明されるような思いがある。
 こうした人たちとどのように付き合えばよいのか、なかなか難しいなあというのが正直な感想である。
 国際社会という異文化をかの国の方々が知って2世紀あまり、中華人民共和国として国際社会に登場して1世紀に満たない状況では、相互理解にはもう少し時間が必要なのか、あるいは情報を統制する環境が続く中では難しいのか、両方なのだろうなあ。それでも時間が解決してくれるのを期待して待つしかないのかもしれない。


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