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2-12. 日々の小さな破壊が創造性を生む。

  日本ケミコン会長 佐藤敏明

 変えるとは、言い換えれば破壊が行われるということでもある。
佐藤敏明は30年前、コンデンサーの生産ラインに自社開発の自動化設備を導入し、生産性の高いラインを完成させた。これがうまくゆき、折からカラーTVブームで会社は発展した。これで、設備投資をして生産性を向上させる方向に、佐藤は自信を深めた。

 そして、1993年、以前の成功体験をもとに佐藤はさらに設備投資を行い、一貫生産ラインを作り上げた。しかし、向上するはずだった生産性はいっこうに上がらず、かえって営業赤字に陥ってしまったのである。
 原因は大量生産システムが、仕掛りを増大させて大きなムダを生んでいたのである。それに気づいた佐藤は工場のムダ取りに奔走し、赤字を脱することができた。

「人間は成功体験にとらわれると、現状を壊そうとは思わないものです。壊せば何かを創造しなければならなくなる。小さな破壊でいいから、毎日、何かを壊せと社員に言っている」

日本ケミコン 佐藤敏明

 新しい事業や業務を始める時にどうするかを、T型フォードの大量生産システムを完成させたヘンリー・フォードは次のように言っている。


「すべての伝説から脱却するのは容易なことではない。故に、新しきことは、その問題について少しも以前のことを知らず、不可能の語に捕らわれる機会を持たない人間をして指揮に当たらせることにしている」

ヘンリー・フォード

 つまり、古いやり方に毒されていない、新鮮な頭脳を持った人間に担当させるというのである。ここは一つの分かれ目になるかもしれない。多くの人は、その分野に近いところで豊富な経験を持っている、安心できる人間に任せようとするのではないだろうか。
 ところがフォードは、安全より、新しい成功の可能性をとると言う。失敗するリスクと、まったく新しいやり方を生み出す新鮮さとどちらをとるか。できるなら新鮮なやり方を生む可能性のほうをとりたいものである。

 経験を持たないということは、しばしば本質を見失わないためのカギとなるし、大きな改革の力になるものである。

 京セラの稲盛和夫は、新しいタイプの経営者としてオピニオンリーダーの役割を果たしましたが、その彼も、経営の常識を知らなかったという。



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