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I am UITERU.

 ウイテルさんは手足をバタバタうごかす。
ただ動かすだけではちっとも前に進まないので、平泳ぎのように足を蹴ってみた。手もかきわける。少しずつ要領がつかめてきたので(なにせ初めての宇宙空間だ)ウイテルさんは任務にとりかかる。

 まず宇宙の底に溜まっているものを確認する。頭を下に向けて平泳ぎをする。(たまに人魚になった気持ちで足を絡ませ、うねうねしてみる。人魚泳ぎのほうが下へ沈むような気がしたので途中で切り替えた。でも気持ちは油の中へいれられるエビフライにも似ていた)

 宇宙の底には幾つかの図形のツミキが無造作に落ちていた。  

 もっと近づいてみるとそれは自分の身体と同じくらい大きなものだった。形のバリエーションは、まる、さんかく、しかく、ばつ、つき、ほし、はーと、しずく………。それらをひとつずつ確認したあと、言い渡された任務を思い出す。

 ウイテルさんはほっとする。  
 地球のうえで、ウイテルさんは五センチくらい、浮いた存在だった。  


 道を歩いてみても足が地についていないので、脳幹のあたりがふよふよした感覚だった。地面を空振りした状態で前に進むわけで、おまけに気持ちも浮き上がっているので鼻歌を歌うことが癖になっていた。その姿を気味が悪いと思う人のほうが多かった。
 そんなやっかまれるウイテルさんにも友人はいて、(ヘッポコさんという)彼からこの宇宙の任務の仕事を紹介されたのだった。  
 ここに来てよかった、ウイテルさんはうなずく。浮いていてもだれも何も言わない。本部と無線で繋がっているが、ウイテル!グッジョブ!と褒めちぎってくれる。こんな見事に空中浮遊できるのは君くらいだ、と。

 ウイテルさんはさんかくのツミキを抱えた。うえを見上げると、まる、さんかく、しかく……それぞれのツミキの形の光が四方八方にみえる。ウイテルさんはこんどはバタ足でうえの方へ向かった。鼻歌もまじる。手がツミキでふさがっているので進むのは難しかったが、鼻歌を歌っているうちにさんかくの光にたどり着いた。言い渡された任務とは、このツミキをこの光にあてはめることだった。それがどんな意味をもつのかウイテルさんは知らない。さんかくはどうやら微妙に辺の長さが異なっていて、あてはめるのに何回か回転しなければならなかった。さんかくツミキはぴったり光にはまり、ゆっくりと光の中におとしこまれた。
 グッジョブ!本部からの声でウイテルさんの士気があがる。残りの形もあてはめていく。まる、ばつ、しかく……ほし、はーと、しずく。
 ここまで順調にいった。あとはつきだけだ。ウイテルさんはこの作業がなんだか宇宙を修理しているみたいだと、そう感じた。何時間たったのか分からないが、この宇宙というものはどうやら箱のようなものではないかと、時間がたったいま思う。このツミキは宇宙の欠片で、人間は一つ一つ形を知って宇宙の存在を知る。
 つきを光にかざす。きっと地球からこの光景をみたら月食だろう、とウイテルさんは推測した。

 ツミキがすべておとしこまれた。任務はおわった。ウイテルさんは宇宙に身をまかせた。自分と同じように地球は浮いている。ならば、そこに住む人類みな、浮いているとも考えられないか?みんなが浮いている。心地よい銀河の箱のなかで。  ヘッポコさんに、会いたいな。ウイテルさんは思った。


©️2015Mari Seki


©️2023 Mari Seki

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