『反知性主義者たちの肖像』

反知性主義者たちにおいては時間が流れない。それを言い換えると、「いま、ここに、私」しかないということである。反知性主義者たちが例外なく過剰に論争的であるのは、「いま、ここに、目の前にいる相手」を知識や情報や推論の鮮やかさによって「威圧すること」に彼らが熱中しているからである。彼らはそれにしか興味はない。

だから、彼らは少し時間をかけて調べれば簡単にばれる嘘をつき、根拠に乏しいデータや一義的な解釈になじまない事例を自説のために駆使することを厭わない。これは自分の仕事を他者との「協働」の一部であると考える人は決してすることのないふるまいである。

内田樹著『反知性主義者たちの肖像』(「日本の反知性主義」所収)より

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