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落ちて、落ちて、また落ちて 演劇未経験・小脳梗塞発症・中年男の戯曲講座挑戦記 その9

落ちて、落ちて、また落ちて 演劇未経験・小脳梗塞発症・中年男の戯曲講座挑戦記 その9

【この物語は、演劇未経験の中年男が、2015〜2018年に長崎ブリックホール・大ホール(2000席)で上演された市民ミュージカル『赤い花の記憶 天主堂物語』脚本を書くまでの実話である。】

ついにチャンスが!

私が受けた戯曲講座の内容は、最初に講師の先生の体験に基づく講話があった。養成所やプロの劇団員の話はおもしろかったし、「戯曲は人間を描かなければいけない」などの言葉が記憶に残った。次に簡単なワークショップが行われた。例えば、参加者全員で少しずつ繋げてひとつのストーリーを仕上げていく(最後には人数分のストーリーができあがる)、あるテーマで会話文を作っていく、などのゲーム感覚のものだ。後半は前回出された課題について、各自がシノプシス(あらすじ)や戯曲(脚本)として発表するとういう流れだった。

私にとっては毎回初めての体験ばかりだったので、年齢に関係なく大いに刺激を受けた。課題も必ず提出した。課題に向き合う時間は楽しかった。毎月2日間開催の戯曲講座を、市民ミュージカルのスタッフとして関わりながら、約4年続けた。おかげで、仕事人間には得られなかった喜びを感じ、嬉しいことに小脳梗塞の後遺症はだんだん薄らいでいったが、残念ながら毎回チャレンジする市民ミュージカル本番用の作品は落選を続けていた。

が、チャンスは突然訪れた。戯曲講座に通い始めて4年後の平成21年(2009年)の春3月。私の携帯電話に「来年の次回作の脚本を依頼します」と事務局の方からメッセージが入ったのだ。私は即座に「書きます!」と返事をした。

その作品企画は、私が考えて提出したわけではなく、あらかじめ決まっていた。大村の四季をテーマにして、戯曲講座の参加を通してエピソードを集め、演出家の先生が原案を作り、私が取りまとめて脚本化するというものだった。今回は初めての試みとしてシーハットおむむらを拠点に活動しているOMURA室内合奏団(プロ)の生演奏での舞台とし、全編を大村の四季を彩る音楽やダンスで綴っていくことになっていた。

これはちょっと責任重大だな。年甲斐もなく飛び上がりたくらい嬉しい反面、正直、不安やプレッシャーも半端なかった。何しろ初めての体験なのだから。

原案を簡単に説明すれば、都会生活に疲れた男が故郷大村に帰省し、中学の同級生と再会、当時知り合った幻の美少女の記憶を追っていき、大村の良さを再確認するという内容になっていった。そこに戯曲講座メンバーの子どもの頃の思い出エピソードを散りばめていくという流れだった。ノスタルジック・ファンタジー・ミュージカルとでも言うのだろうか。

長崎市民の私は、ほとんど知らない大村市のことを文献で調べ、あれこれリサーチした。物語の舞台となる場所もシーハットおおむらの事務局の方と一緒に回った。

私は戯曲講座メンバーから集めたエピソードを入れた脚本を書き始めた。まずは最後まで一気に書いてみることにした。書き上げたものは約2万字になった。それを戯曲講座のメンバーの読んでもらうと、本番の脚本を経験したメンバーから、かなり厳しい指摘を受けた。もちろん講師で演出家の先生からもダメ出しをたくさんもらった。

予想以上の厳しい指摘に頭が混乱した。たちまち自信を失った。しかし、何とか粘って台本形式の初稿を書き上げた。その年の10月後半には出演者募集で集まったキャストによる読み合わせと荒立ちが行われた。自分の書いた台本がさくらホールの舞台で立体的なっていく。初めて味わう作者の「不思議な感慨」だった。

稽古風景

次回作の正式なタイトルが『OMURAグラフィティー』に決まった。その後、東京の演出家(戯曲講座講師)や振付家による稽古が続くなかで、台本の手直しは続いた。もっと言うと舞台本番の当日の朝まで手直しは続いたのだった。一連の作業の流れは、取材、執筆、校正という冊子の編集作業に近いとも感じた。

チラシ

中でも一番苦労したのは、ミュージカルで歌う曲の歌詞だった。演劇素人で音楽音痴の私は、歌詞を独立したものだと思い込んでいたが、作曲家や歌唱指導の先生によると、ミュージカルの歌詞は「舞台のシーンとシーンを繋げる台詞の一つ」だということだった。ああ勘違い。歌詞づくりは最後の最後まで悩み抜いた。

様々な紆余曲折はあったものの、平成22年(2010年)年2月、『OMURAグラフィティー』は本番の日を迎えた。さくらホールのゲネプロと本番で観た自分の脚本によるミュージカルの舞台。OMURA室内合奏団の生演奏。私の書いた歌詞に入ったメロディーと歌声。それは一生忘れることのできない私にとって夢のような奇跡の出来事だった。(その10につづく)

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