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家庭内別居による家庭内秘密基地での生活実況中継④ 〜ボンカレー〜


家庭内別居で、妻がリビングにいるときは立ち入りができない私。秘密基地の様な四畳ぐらいの部屋でどのように生活しているのか実況中継。ソロキャンパーでもある私の生命維持方法。おそらく、車中泊に似ているのかも。
ちなみに、ただの会話のない夫婦でなく、オフィシャルの場で対立中である。




家庭内秘密基地での生命維持には、
「コンビニ弁当」と
「菓子パン」
が最強であることを前に書いた。

そして、
お湯さえ沸かせれば、
それに

「カップラーメン」

が加わり、もはや
生命維持原人から
グルメびとに変わったのかと
錯覚するくらい、
レパートリーが増える。

でも、私は
間もなくがっかりさせられるのである。
はてしない人間の欲に。

なぜなのだ、なぜなのだ?
意識をしているわけではない。
なのになぜなの?
体が欲している。
性欲とは違うこの感覚。
意識と体が分裂している。
そんなにも、人を狂わす、
やからはだれなのか。
それは、こいつだった。

「ボンカレー」

あの、魅惑のとろみ、
そのマグマから見え隠れする、
ジャガーとジン、
チキンまで。

あのスパイシーな
香りとのハーモニー。

あなたは、
間違いなく、魔性の食物だ。

もう、これ以上、
私を上目遣いで見ないでくれ。
その物欲しそうな、
それでいて、
少し悲しそうな目。

もう、吸い込まれそうだ。

もう、我慢できない。


私は、
日が登る前の、
薄暗い、
でも、小鳥の鳴き声がする、
そのタイミングで、
自分の気配をゼロにして、
秘密基地の端においてあった
ボンカレーをそっと握りしめる。

小鳥の鳴き声に合わせるかのように、
キッチンのドアをそっと開ける。

電子レンジは、目の前だ。

そっと、ボンカレーの箱を開け、
そして箱のまま、
音を立てずに電子レンジにいれる。

ダイヤルをまわすと同時に、
ボンカレーは、
舞台に現れ、スポットライトを浴びる。
徐々にボンカレーは、
静を忘れ、動を極める。

なんて美しいんだ。
これが、
夜明け前の
妖精の宴なのか。

そして、小鳥の鳴き声に
共鳴するように、

「ちん」

と音を立てた瞬間、
舞台の幕は閉じ、
真っ暗になる。

舞台に残された、
いや、
舞台を終えた
ボンカレーを私はそっと抱きかかえ、
秘密基地へ連れて行く。

誰にも会わないよう、
息を止め、基地に入る。

なんとか、
誰にもばれなかったようだ。

しかし
私が気付いていなかっただけのようだ。
ボンカレーは
来た道に目印をつけるかのように、
香りの軌跡を残していたのだった。

その後の
秘密基地での
ボンカレーとのひとときは、
もはや、
ここでは語りきれない。

ああ、自分が変になりそうだ。

今日はここまで。

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