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第五のがん療法「光免疫療法」を飛躍させる新しい光照射システムが開発される 名古屋大学

名古屋大学、朝日インテック株式会社(医療機器メーカー)などは10月6日、血管を通って全身に到達可能な光放射システム(ET-BLIT)の開発に成功したと発表しました。副作用がほとんどなく、高い治療効果が期待できる光免疫療法は、「第五のがん療法」として期待されていますが、どのようにして体の深部にある患部に光を当てるかという課題がありました。今回研究チームが開発した光放射システムは、この課題を解決するもので、光免疫療法の利用拡大に弾みがつくことが期待されます。

光免疫療法とは?


第五のがん療法として期待されている光免疫療法は、実は、すでに実用化されていて、2020年には鼻、口、のど、などにできる頭頸部がんの一部について保険適用にもなっています。

このような光免疫療法のメカニズムにはさまざまなものがありますが、今回はこの保険適用になっている光免疫療法のメカニズムについて解りやすく解説してみたいと思います。

まず、この光免疫療法では、特定のがん細胞にだけくっつく抗体に近赤外線を当てると性質が変わる物質を合体させたもの(光免疫製剤)を点滴します。すると、このお薬は特定のがんの組織にあつまりますね。

そこへ、近赤外線(光の一種)をピカーと照射します。すると、お薬の性質が変わり、周りの水に反発するようになります。お薬はがん細胞にくっついていますから、この反発力によって、そのがん細胞の表面がバキッと壊され、そこから周りの水がドバッと侵入。がん細胞は破裂し、ご臨終となります。

そして、このとき、破裂し、飛び散ったがん細胞の破片に対して、免疫が反応し、活性化。生き残ったがん細胞のみならず、全身に散ったがん細胞までも、仕留めるというわけです。

さて、ここまでの説明からもお解りのように、光免疫療法は、副作用がほとんどなく、高い治療効果を誇る治療法なのですが、弱点もあります。

ご想像のとおり、近赤外線は、体の表面から届く範囲が限定されていて、体の深部までは届かないのです。

そこで、いかにして、体に負担をかけずに、体の深部にあるがん組織に対して、近赤外線を照射するか、この観点から開発されたのが、今回研究チームが開発した光照射システムです。

血管を通って全身に到達する光照射システムを開発!

今回研究チームが開発した光照射システムの概要を解りやすく解説したイラスト。画像:名古屋大学報道発表資料より引用。

今回研究チームが開発した光照射システムは、光照射デバイスが先端に付いたカテーテルを血管内に入れ、血管を通って、がん組織にまで到達させ、近赤外線を照射します。そのため体への負担がとても軽いです。

で、面白いのは、このカテーテルの先端に付いている光照射デバイスです。クルクル回転して、360°どこでも狙った場所に、近赤外線を照射できるのです(上掲イラスト参照)。

凄い!

ところで、今回の光照射システムの開発では、これまで長年に渡って朝日インテック株式会社が培ってきた血管内治療に関する技術が活用されました。血管内治療とは、血管を通ってカテーテルなどを患部に届かせ、脳梗塞や心筋梗塞などの治療をおこなう治療法です。

人に近い血管系を持つブタを使った動物実験では、この光照射システムを鼠径部から入れ、肝臓や腎臓に容易に到達。高い効率でしかも安全に血管外の狙った部位に近赤外線を照射できることが確認されました。

研究チームでは、今後、このシステムのさらなる最適化など、臨床試験に向けて、研究開発を進めていきたいとしています。

【参考URL】

名古屋大学プレスリリース Ebi_221006.pdf (nagoya-u.ac.jp)

関西医科大学 光免疫療法に関する総説論文 laaes7000000kq7a.pdf (kmu.ac.jp)

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