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新米PI日記 「仕事始め」

2023年12月30日、家族の元を離れ結婚後初めての単身赴任生活が始まりました。こちらはクリスマスから年末にかけて休みが長い分、正月休みがないので新年はあっさりと仕事始めがやってきます。今年は1月1日が月曜だったため、1月2日(火)が仕事始めとなりました。

1月2日の仕事始め

アメリカの新年は何度迎えても違和感が強いです。当然ですが正月飾りもなければ正月特番もありません。どちらかというとクリスマスの名残りが続いているような感じです。そんな中、新しい勤務地での仕事始めはオリエンテーションを受けることでした。
事前にスポット(私は朝一の8時半の枠)を予約しておき、その時間に指定された場所まで向かいます。同じグループには10−15人くらい人がいたように記憶しています。受付けを済ませると職員用のIDバッジとオリエンテーション用の資料を渡されました。その後、時間がきたら会議室のようなところに集まり各々簡単に自己紹介をしました。いろいろな部署の人が集まっていました。担当者がパワーポイントを使って今後のやるべきことの流れをざっと説明してくれて一時間ほどで解散となりました。
オリエンテーションで駐車場の場所を教えてもらえたので、それから研究施設に隣接している駐車場に車を止めてから自分のオフィスに向いました。車にはラボのオフィスに持っていく荷物をすでに詰め込んでいたので、まず最初にしたのは荷物の搬送でした。引っ越し用にもってきていたカートがあったので、2往復したら全ての荷物を運び込むことができました(もともと大した量の荷物もありませんでしたが)。
オフィスには新しいノートパソコンとモニターが2台支給されていたので、荷物を片付けたあとはパソコンのセッティングを行いました。その日は特別にすることは他になかったようなので、期日までに受講しないといけないたくさんのオンライン講習があったので、就業時間が終わるまでは眠気と戦いながら見れるだけ見て時間を過ごしました。私は年収制なので基本的に就業時間は9時から5時までの8時間、月曜から金曜までの40時間に対して給料が支払われます。朝早く来ても夜遅く来ても私の給料はいっさい変わらないので、当日は無理をせずに5時過ぎには帰宅してアパートの引っ越し後の後片付けやIKEAやアマゾンで買った家具の組み立てなどをしていました。

最初の2ヶ月くらい

研究者として赴任したわけですが、実験を始めるためには、必要なオンライン講習、対面式の講習、動物実験をするためのプロトコールの作成・承認、必要な器具・物品の購入、ラボメンバーの雇用などを行わないと先に進めません。
ということで最初の1ヶ月はひたすらオンライン講習を受けまくっていました。パワハラやセクハラに関する講習、安全・健全に働くための講習、施設のルールに関する講習、研究者としての倫理・規範に関する講習、動物実験に関する講習。本当に多くの講習があり、それぞれのセッションのあとにはだいたい確認のテストがあります。
対面式の講習は、小動物実験に関する講習、大動物実験に関する講習、ラボの実験機器を使用するための講習、ハイブリッドオペ室の血管造影機器の使い方の講習、MRI撮影の講習などがありました。他にはN95マスクのフィッティングテストなどもありました。
講習以外では自分が今後PI(研究室の主宰者)として関わりが出てくる部署の責任者・担当者とのオンライン・対面式ミーティングも定期的にありました。大動物実験をサポートしてくれる動物管理施設の獣医たち、ポスドクや大学院生を雇うときにサポートしてくれる人事部の担当者、デバイスの開発や特許の申請などをサポートしてくれる技術商品化部門の担当者、グラントの申請や資金管理をサポートしてくれる担当者、自分や自分の研究室のウェブサイトを管理してくれる担当者などなど。
それとは別に異動の前後でいろいろな手続をサポートしてくれる専属の担当者がいますが、その人とも2週間おきにオンライン・もしくは対面式でミーティングがあり、異動後の手続きなどで困っていることなどないか確認してもらっていました。何か困ったことがあれば彼女に質問すれば誰に聞けばいいのかすぐに分かるのでこれはとても助かりました。
動物関連についての講習は最初の1ヶ月ですべてクリアしたので、2月に入ってからはセンターで行っている大動物実験は見学することが可能となりました。自分自身の実験を行うにはまだまだ時間がかかりそうですが、大動物実験を行う際にどんな人が関わり、どのような手順で進めていくのかが分かったのでとても参考になりました。それと同時に以前の職場とは勝手が違うことが多々あり、自分の実験を始めるにあたって準備しないといけないことが意外に多いことも分かり、職場を変わることの大変さを改めて実感しています。

1月に勤務開始した理由

ちなみになんで1月に新天地での勤務を開始にしたのかというとグラント申請の兼ね合いがあったからです。PIに課せられる使命は研究資金、つまりグラントをとり続けることにあるので、そのタイミングを一番考慮して異動の時期を決めました。2月に提出したいグラントの予備審査(Letter of Intent)の締切が1つあったのと、6月にNIHのR01グラントに挑戦したかったので、それまでにCo-PIs(共同研究者)とのネットワークを構築する時間が欲しかったのが主な理由です。特にNIHのR01については、今年の7月までが私が若手研究者(Early Stage Investigator)として応募できる期限でもあったのでとても重要なものになります。
ちなみに、ESIの期限は博士となってから10年以内までなのでみなさん気をつけていて下さい。私の場合はコロナで大動物実験ができなかった期間、ラボの異動関係で研究ができなかった期間を申請してESI延長の依頼を提出して期限を少し延ばしてもらったので、期限がせまって困っている人がいたらESI延長の申請をぜひ検討して下さい。
また、これは異動してから初めて知りましたが、4月に職場のOffice of Technology Commercialization(技術商標化部門)が主催するTechnology Development Fundという新規デバイス開発などに対してサポートする施設内ファンドもあったのでさっそくこれにも応募しました。私の研究プロジェクトの1つが心不全に対するカテーテルデバイスの開発であったので、以前の職場で行ってきたことの知的財産(IP)と特許申請をサポートしてもらいつつこのファンドのことも担当者から教えてもらいました。
今後、この施設で研究者として生き残るには5年以内に自分の給料の半分を外的資金、つまり施設外で獲得したグラントからまかなえるようになることが雇用契約に入っています。これは容易なことではありませんが、日本の地方で心臓外科医をしていた人間が、アメリカでPIになるチャンスなどそんなにあるわけではないので、この挑戦をできるだけ楽しみながら頑張っていきたいと思います。

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