大海予想 in well それがいいのです。

かなり迷っていた。たかが2、3日の東京の出張。全国の支店から人を集めて、全国でばらつきのある品質を一定にするにはどうしたからいいか、全国の応援体制を築くにはどうしたらいいか、それら事前に意見を考えておいて、話し合うとのことだ。全然オンライン会議でいい。幹部は何かと集まるのが好きだ。会社の金でやるゴルフがつまんないわけない。

部長とお昼を食べながら、「なんとか現場を調整できないかな?それに今回は、オリオンの品定めの時間もある。北海道の中では一個抜きに出てることは東京の幹部の耳に届いてる。今回この出張の中で実際にどのレベルなのかを知りたいはずなんだ。ここ上手くやれば将来給与も上がるかもしれないし。まぁ、普通にいつも通りやってれば問題ないと思うけどね。」汗が止まらない。これは多分、今食べてるスパイシーカレーラーメンのせいだ。きっと。

東京の自分と似たような年・仕事をしてる人と自分のレベルが同じかどうかと言われると、同じではないと思う。自分の方が低そうだ。いくら広いとは言え、自分がいるところが井戸の中だとは自覚している。井戸の底から見える風景だったり、聞こえてくる音で大海を予想する必要はあった。一度いつかは出なければならない。でもそれでよかった。井戸の底から出ることは、自分の心を折られに行くようなものだ。そんな感じがしていた。できればこのまま井戸の中で過ごしたかった。井戸でもそれなりには広い。

少し前、職人さんとお昼休みに山岡家に行った。以前から色々と相談に乗ってもらってたりもした。「誰にでも東京においでなんて言ってるわけじゃないと思うし、それは認められてるから言われてるはずだから行ってきたらいいんじゃない?」と言ってもらった。それもそうかとは思う。

その数日後、本州から手伝いで職人さんが来ることになり、打ち合わせを兼ねて北海道に来た。「美味しいところに行って来れば?」と言われ、営業の人も含めて3人で寿司屋に行った。会社の金で食うものほど美味しいものはない。その職人さんは北海道以外にもさまざまな県で仕事をしていて、各地に知り合いがいるらしい。そこで名前が出る人というのは、それなりに実力がある人ばかりだ。もしその職人さんが他の県で自分の名前をあげてくれたらどうだろうか。もちろん始めは知ってる人はいないかもしれない。徐々に知ってる人が増えていったらどうだろうか。

悩みに悩んで行くことにした。大きい現場の終わりが見えて、新しい現場をやっているが、規模が小さいこともあり楽で仕方がない。明らかに以前と実力が違う。職人さんから「天狗になるなよ」と釘を刺されていることもあり、心を折られるなら今が1番いいかもしれないと思った。最初は嫌だ嫌だと駄々をこねていたくせに、いざ行って帰ってきたら行ってよかったなんて言い出す。大抵はそんなものかもしれない。

出張初日。いつもと違う作業着を着ていた。北海道だけは別の作業着がある。この日来ていた作業着は、今にも雨が降り出しそうな雲に似たパッとしないグレー。パッとするグレーがあるかと言われるとないかもしれないが、着ているだけで気が滅入りそうになる。前乗りをして本社に挨拶に行く。入社してから本社には一度も行ったことがない。現地で部長と待ち合わせだったが、乗りたい地下鉄がわからないとか、地下鉄に乗れたはいいが地上に出れないなんてやっていたら時間はあっという間にすぎ、急いでホテルにチェックインをして荷物を置き、本社に行った。社内で挨拶をしていると、「お疲れさん!」と肩を叩かれて振り向くが、その人は歩き去っていきそうになっていた。本社で自分のことを知っている人なんていないはずなのにと思いながらその人のことをよく見てみた。…社長じゃないか!!挨拶が遅れた。この日は先に来ていた支店長と飲みに行く予定だった。ひとしきり挨拶を終えて、支店長の仕事が終わるまで空いてるスペースに座って待たせてもらうことになった。落ち着いて社内を見渡す。そんなことはないのに、話してはいけない雰囲気。挨拶がやけに通る。定時を過ぎているのにどことなく帰りにくい雰囲気でもある。部門ごとに席が並んでいるが、部門毎のありもしない壁が見える。天井近くが暗い。まるで魔王城だ。この雰囲気を先程自分の肩を叩いて会議室に入って行ったラスボスが作っているわけじゃないからタチが悪い。事あるごとに「横のつながりが」とか「コミュニケーションが」と言っていて、そんなに言わなくてもいいのになんて思っていたけど、どこかわかるような気がしてきた。

支店長の仕事が終わり、部長・部長の同期と居酒屋に行った。支店長が出張で来た時には必ずと言っていいほどくるらしい。ヘルニアの治療で飲んでいる薬のせいでお酒が飲めない。せめて料理ぐらいは満足に食べたいとは思っていた。出てくる料理はどれも美味しかった。少しすると支店長がテキトーに料理を頼み、1口だけ食べ、残りを自分のところにまわすようになった。「ご飯もいるだろ?」と聞かれ、まわってくる料理が食べれなくなると断ろうとすると、店員さんがご飯を持ったお椀を持ってきてくれた。こうなると断れない。しばらくするとお腹もいっぱいになり、自分の前に料理が渋滞している。「どうした?」と聞かれるが、3・4人で分けて食べるようなものを1人で食べてるのだから、限界が来てもおかしくない。周りも全然食べない。「何食べてもすごく美味しそうな顔して食べるから、なんでも食わせたくなったんだ。」と言っていたが、久々に鏡で自分の顔を見てみたくなった。遅れて取締役がやってきた。「取り締まっちゃうよ〜」が口癖らしいが、警察の仕事をしていないで、ウチの仕事をしてほしいものだ。初対面だったが、支店長が「こいつ優秀なんだよ。」と紹介してしまったせいで、「優秀なのか?」と聞かれてしまった。優秀だとも思っていないし、そうですとも言えず、答えにかなり困ってしまった。話を聞いていると、「北海道王国は少し違うからねぇ…。よく議題にも北海道はどうする?ってなっちゃうんだよ。」と言っていた。北海道は他の拠点とは少し違って独特なのは知ってはいたけど、王国と例えられるほど違うとは思わなかった。でもこれは嬉しいことだ。井戸の外には海が広がっているのかと思ったら、自国の城壁の中。国境の外ではなかったことになる。少し国境を超えてみたくなった。日付が変わる頃に解散となった。歩いてホテルに戻る。少し歩けば、フェンスに囲まれたバスケの野外コートがある。北海道ではあまり見ない。明日の研修は開始時刻が10時からだから、腰さえ悪くなかったらボールを調達してバスケしたのに。雷門を通り、浅草寺を通る。ライトで照らされている浅草寺の雰囲気もいい。それにしてもこんな時間なのに人がいる。それに驚いた。ホテルに着くなり、そのまま寝てしまった。

2日目。研修のために借りた会場へ向かう。知らない土地ということもあり、時間に余裕を持ってホテルを出た。昨日はバタバタしていたから、周りを見ながらゆっくり歩いてみた。高い建物が多く、見下ろされている気分。なんとなく窮屈に感じる。どこを歩いても、ビルの隙間からスカイツリーが見える。スカイツリーの麓をウロチョロしてるのは自分だから当たり前だ。だけど、それがなぜか面白い。周りをキョロキョロしながら会場に着き、研修が始まった。脇の方に社長をはじめとした偉い人が並ぶ。各支店の自己紹介からはじまる。自己紹介と現在担当している現場の状況を説明した。午後からの研修の説明を受けて、お昼休みに入った。会場内にある定食屋で昼飯を食べることにした。飲み物がセルフサービスだったので取りに行き、水を注いでいると、「東京で働きたくないか?」と声をかけられた。答えようと口を開くよりも先に支店長が来て、「まだ北海道から出すわけにはいかないんだよね」と答えた。声をかけてきたのは他の部門の偉い人。「支店長に出てこられたら下がるしかないね。」と言って席に戻ってしまった。午前中の自己紹介のせいだ。年齢・経験年数からして、その人の口から大きい物件の名前が出てくれば、実力を測るには十分すぎる。どこの部門も若い人が少ない・定着しないというのは共通の問題でもある。引く手数多なのは嬉しいけど、そろそろ若い分類からは外れたい。午後はグループワークだった。北海道ではやらないことばかりだったので、ほとんど役に立たなかった。休憩中にグループワークでリーダーになった人に役に立たなかったことを謝ると、「まぁ、経験がないだろうからしょうがないよ。俺もオリオンがやってることをしばらくやってないから忘れるんだよ。」と言っていた。目から鱗だった。今やっている仕事は大まかにわけると2種類ある。北海道ではどちらも自分からいる部署でやるが、他の拠点ではそれぞれで拠点があり、1種類しかやらない。北海道では1年に1度あるかないかの頻度なので拠点を分けていない。2種類のうち、普段自分がやっているのをAとする。やっていないBはAの経験を積んでからではないと出来ないと思っていたが、そうではなかった。ほとんど別物で、新人がいきなりBからはじめて、Aを経験することがないこともあるという。壁には壁だけど、壁が透けて見えたような感覚だ。壁の越え方がなんとなくわかった気がした。北海道でほとんど経験のできないBを経験するためにいつかは東京に出張しなければならなかったので、少し不安要素がなくなった。研修の後にホテルを貸し切った懇親会があった。テーブルの上に名前が書いた紙が置いてあるから、その席に座るように促された。席に着く前に、隣の席が誰なのか名前を見てみた。右隣に社長だった。誰かが謀ったのかと思った。自分の席を見た部長が、「あー。社長の右隣は西のエースだね。かなり頭がキレるやつなんだよね。社長の隣に東と西のエース座らせるなんて誰かの目論みがありそうな席だね。流石にそんなことないと思うけど。」と言ったのが確信になってしまった。…というよりいつの間に東のエースになってしまったのか。せめて北ぐらいで留めておいてくれたらいいのに。…やっぱり北のエースっていったら、なんだかミサイル飛ばしそうだから東にしておくか。お酒が飲めなくて、周りがビールの中自分だけオレンジジュースだし、社長が隣にいるおかげで料理の味がしない。社長は、「オリオンには1年ぐらいAの部署に来て、経験を積みながら若い人の面倒を見てほしいんだよ。」と言っていた。Bで出張に行くつもりだったが、Aの部署に求められるのもわかる。若い人がわかんないことだったり、困っていることを先輩に聞かずに困っているらしい。先輩も悪気はないが忙しくて会社で会えないこともあるらしい。年が離れていて相談しにくいこともあるらしい。自分もそうだった。(年齢が離れているるからということはなかったけど。)聞くことができず、職人さんに聞いていた。「あの人また教えてくれなかったのか」とわかるまで教えてくれた。それがなかったらどうなっていたことか。そこで社長は自分を東京に置いて、若手のメンターとして機能することを望んでいた。それで少しでも若手の流出も防ぎたいらしい。自分自身も誰かに教えるという機会がなく、自分に足りないものも1つでもあった。それはそれでありかもしれない。社長はよく自分のことを見てくれているような気がした。「本社に来た時どう思った?正直な感想は?」と社長に聞かれ、社内がなんとなく暗くて喋ってはいけないような雰囲気があるから、まずは蛍光灯を白っぽい明るいものに変えたほうがいいと言ったら、笑っていた。社長は社内の雰囲気をどうにかして横のつながりをどうにかしたいと悩んでいた。そこのおしゃべりな西のエースと自分で少しは変わりそうな気がしないでもない。「結婚するんですよ。」ってマウント取られたのだけは許せない。西のエースの顔をよく見たら、研修の時におもしろ自己紹介をしたあいつじゃないか。その直後の自分たちの自己紹介がなんか面白いことをしなければいけないような雰囲気になって地獄だったんだぞ…。おまけに同い年ときた。同い年を見つけられたのはとても貴重だ。突然出し物がはじまった。若手3人が突然マイクの前に呼ばれ、意気込みなどを自由に話すという、なんとも好きになれない無茶振りのような出し物だ。3人目が「今年こそ国家試験に合格します!」と意気込みを話すと、社長が「その国家試験だけど、俺の隣に座ってるオリオンは満点で合格してるぞ。」と言った。その直後全員の視線が自分に集まった。「余計なことを言うな」の「よ」が口に出てしまい、慌てて手で口を塞いだ。なんで社長がこんなことまで知ってるんだ…。会社から金を出してもらってるから試験に落ちれないと勉強して、たまたま満点だっただけだ。自己採点して満点だったから逆に焦ったぐらいだ。出し物が終わった直後に取締役に呼ばれ、そのテーブルに移動した。「試験、満点だったのか?」からはじまり、質問攻めにあってしまった。「お疲れ様です。」とグラスを持って取締役のところに誰かがやってきたおかげで話が逸れて助かった。彼も交えて3人で話をした。話をしてると彼も同い年だった。どういうわけか、「俺は金額がデカい物件をやってるのに他の人と評価が同じなのが気に食わない。」取締役に言い出した。取締役は「お前はBをやっていて、同い年のオリオンくんはAをやってる。AとBでまったく違うのに、さらにオリオンくんより金額の大きい仕事をしてるとして、それをどう評価しろっていうのは実はすごい難しいんだよ。それとも同じ条件で同じ仕事をしたいか?例えば、今日の研修の感想をメールで俺に送るとか?笑お前は普段メールの返信がないから結果は目に見えそうだけどね。」と言っていた。確かに同じ条件ではないが、自分ができないことを彼がやっているのは事実だ。逆もそうだ。ただ、嫌な思いをしたとかではない。とにかく嬉しかった。自分のほうができるんだと自分と張り合ってくれているように見えた。懇親会の時間も終わりとなった。帰り際に社長がわざわざ自分のところにやってきて、「はやく腰治すんだよ。気をつけてね。」と言ってくれた。その後早々に帰ってしまった。懇親会の後は部長と部長の同期4人と浅草の居酒屋に行った。お店の前の外にテーブルと椅子が置いてあり、そこに座った。お酒は飲めなかったが、風が気持ちよく、雰囲気を味わった。それぞれ全国に散らばっていて、会うのも久々だったらしい。彼らの昔話を聞くのが楽しかった。朝礼が終わって現場に向かうふりをしてパチンコ屋に向かったら全員揃っていたこともあったそうだ。どうりで現場に行くと言って腰のリハビリに行っても何も言われないわけだ。解散した後はホテルに戻ろうとしたが、気分が高揚していた。ホテルはシングルで大浴場もないから、戻っても何もない。近くに隅田川があるのを思い出した。少し遠回りだが、行ってみることにした。ベンチに腰をかけて、隅田川の水面に反射したスカイツリーを見て、今日の出来事を思い出していた。中途採用の自分にとって、支店の中では自分以外に20代がいない自分にとって、同期や同い年の存在というのは貴重だ。自分のいる位置を確認するのにはもってこい。彼らは大学卒業後、新卒で入っている。自分が他のことやっていた約2年でこの差か…。やってやれなくはないかな。同年代で頭1つ以上出てる人と比較できているから、確信になる。会社に入ってからずっとどれだけ頑張ってできることを増やしても「できる人がやればいい」という雰囲気で頑張ってる人が苦労してバカバカしくなることばっかりだった。だから張り合える人がいるのがとても嬉しかった。踏み台にしてやろうとか、負かしてコケにしてやろうとかではない。この先協力すべき場面もあるだろうから、それまでは競い合って実力をつけていきたい。チームプレイでも、個の大きさは重要だ。協力するときにガッカリされたくもないし、ガッカリしたくない。これからのモチベーションの1つになった。そんなことを考えてると気分が高揚して寝れなくなってしまう。笑いが止まらない。少し涼んで落ち着いてからホテルに戻った。

3日目は現場見学。実際にBをやっているところを見学させてもらえた。全く見たことがなかったので、担当者を質問攻めにしてしまった。おかげで勉強ができた。その後はすでに完成したものを見てまわった。今担当している物件は大きいと思ってたけど、なんか小さく感じてしまった。決して小さくはないが、東京で比較してはいけないような気がしてしまった。今担当している物件は完成すれば間違いなく自分の代表作になるが、すぐに過去のものになってしまう。「今何をしているか?」と聞かれたらスケールダウンしてしまうような気がした。そう聞かれた時にこれまでを超えれるようにしたい。

午前中で研修自体は終了した。「夕方に俺が1番仲がいい後輩と2人で飲みに行くんだけど来る?」と誘われた。夕方までは時間があった。部長がよく隅田川を散歩していたと言っていたから、端から端まで歩いてみようと思った。Googleマップで端を調べてみたらとんでもない距離だったので諦めた。ホテルに戻り、着替えをしたあたりで寝てしまっていた。すぐに集合時間になり、急いで集合場所に向かった。そこにいたのは、先ほど質問攻めをした担当者だった。申し訳ねぇ…。ホルモン焼きのお店に入り、部長がおすすめのガーリックご飯を食べ、別の焼肉屋に入り、ガーリックご飯を食べた。焼肉屋をはしごはしたことがないな。その後串カツ屋に行った。コロナ禍でつけだれがなくなっており、ボトルのたれを各自でつけるスタイルになっていた。そこでかなり話込んだ。「髪型のことで何か言われなかったか?」と心配された。前日の懇親会で取締役が「パーマは俺は好きじゃない。するなとは言わないけど、客先にいい印象を持たれなかった時に巻き返すのが大変だ。だけど巻き返せたらすごいよね。」と話をしていただけだ。パーマかけたから仕事の質に影響があるわけじゃないと思っていたが、部長もその後輩も同じく思ってくれていた。部長の後輩は「西のエースと君の共通点は探究心があること。ない奴もいるし、あったとしても2人ほどじゃない。このままいけばいいところまでいくぞ。いっぱい失敗していっぱい恥かいて経験積みなよ。最近入ってくる奴らは言い訳ばっかりで謝らない。怒ってないから言い訳しないで素直に謝ることも忘れるなよ。」と言っていた。彼はAもBもできる珍しい人で、目指すべきものの1つでもある。その他にもお酒を飲んでる時は仕事の話をしないとか言っておきながら、会社の腐った部分を話してくれた。「君になんとかしてほしいとかじゃないから、聞き流してくれ。」と言っていたが、聞き流せなかった。昨日今日会った人にこんなことを話すってことは、もし自分に期待してくれてるなら、もし将来的に自分の手が届いてその問題を解決できるなら、そう考えると燃えてくる。悩みとか足枷が増えるだろうと心配してくれたならその逆だった。あぁ…でもそのためには社内政治もやらなきゃいけないのか…。嫌いだし、そもそも何をやっていいのかもわかんないからどうだろうなぁ。1番めんどくさいよ。この問題は頭の隅には置いておくことにした。疲れているだろうからと早めに解散となった。帰り際に、「お酒飲めるようになったら飲みに行こうな。お互いお酒飲んでないと恥ずかしくて言えないこととかもあるし。あと出張で来るなら俺のところで鍛えてやるからな。」と言ってもらった。ホテルに戻っても何もないので、また隅田川に行くことにした。土曜日の夜だからカップルが多いな。釣りをしているおじさんの隣のベンチが空いていたので、そこに座った。時間があったから、noteを書いていた。帰ろうとしたら、隣におじさんはいなく、カップルに囲まれていた。誰かと待ち合わせしてるみたいに見えたなら間違いだし、トワイライトには感謝できない。おじさんも帰る前に、「場違いになる前に帰りなよ。」と声をかけてくれてもよかったのに。慌ててホテルに戻った。

4日目、最終日。研修自体は昨日で終わっていたが、せっかく来たのだから他にも色々見てまわろうと部長の粋なはからいで日曜日も東京をまわれることになった。まぁ、ほとんどは部長の用事だけど。昨日ストレンジャーシングスのヘルファイアクラブのラグランを着ていたのを部長が見て、こんなのが好きだろうと上野のアメ横に連れていってれた。こういうデザインのはあんまりないんだけど…。部長がみたいところを見ている間に自分も色々見てみることにした。スカジャンのお店が少し気になって見てみることにした。気に入ったのがあれば買うのもありだと思った。「なにか気に入ったのありますか?サイズとかも出しますので、声かけてくださいね。」と声をかけられてしまった。こうなると買うまで出れない気がしてしまった。「どんなの探してますか?」と聞かれ、ぱっと見てないのはわかったが、オレンジのものがあるか聞いてみた。店員が眉間にシワを寄せながら、「…ほら!ここにオレンジがありますよ!兄さんこれ運命ですよ、着てみてください!」と緑ベースで背中に阿修羅が描かれたスカジャンを出してきた。その阿修羅の炎がオレンジで、少し無理がある。こんなんで運命なんて言われてしまって、気が変わってしまった。スカジャンに袖を通したが、他も見てくると行ってお店を出た。「ヤスイヨー。」と外国人の人が営んでいるお店があった。実は近くで見て、なんなら書いたいかもしれない。遠目でもわかる。自分の好きなスラッシャーのファイヤーロゴのロンTがある。お店の中にも好きそうなのがあるかもしれない。ただ、絶対に高い。(絶対とは限らないかも)もし仮にお店に入って気に入るものがなければ、妥協して何かを買うまでお店から出れなくなってしまう。グッと堪えて、お店の前を通りすぎた。スニーカーも見た。ほしいのはなかったが、履いているスニーカーが購入した時より15000円も高くなっていて驚いた。買ったスニーカーは売るつもりがないから、買ったらすぐ箱を捨ててしまう。売ろうとは思わない。その後は東京駅に行き、近くのものを見てまわった。夕方の飛行機の便で北海道に戻り、家に着いたのは22時だった。有給が取れず、次の日も仕事をした。


出張から帰ってきてからは、言われた通り、たくさん失敗して、たくさん恥をかいた。失敗したいとは思ってないし、失敗しようとも思っていない。本気の失敗だから経験になる。客先に怒られようが、何を言われようが問題ない。ただ、職人さんに迷惑をかれるのが本当に申し訳ない。あぁ、失敗したくない。そんな職人さんは、落ち込んでる自分を見てケタケタ笑って楽しんでいる。「落ち込んでるしょ?何そんなに落ち込んでんだよ。」って言ってくれたりもする。茶化したりもするけど、場の雰囲気をよくしたり、あまり落ち込まないようにもしてくれる。本当に頭が上がらない。

それはそれとして、出張には行けてよかった。今後のモチベーションにもつながるし、今担当している物件が終わっても天狗にならずにすみそうだ。鼻をへし折ってやりたいやつも見つけたし、逆にへし折ってくれそうな、折られるならその人がいいと言える人もいた。やるべきことも見えて、将来のビジョンも少しいい方向に修正できた。「自分の顔を全国に売る」という部長や支店長のミッションも達成できたと思う。売り方にはちょっと問題があったと思うけど。自分の品定めタイムに関しては結果はわからない。グループワークだってついていくので必死で、誰かに見られてるなんて気にする余裕もなかった。ただ、社長に自分の情報がそれなりに入っていたのには驚いた。なんなら研修を理由に自分を東京に誘き出して、そのまま帰れなくされるんじゃないかとまで思っていた。ただ、東京でメンターとして経験を積んだあとは北海道で活躍してほしいとも言っていたし、ちゃんと戻してくれるということがわかってホッとした。東京に行ったら戻れなくなるかやめるかで元の場所には戻れないという都市伝説もあったけど、なんとなくわかる。自分もそうなるかと言われると必ずしもそうではないはず。

ここから長い道のりも楽しんでいけそうだ。ここにいる間は気落ちしそうな作業着も着なくて済むしね。


ただ、一度書いたこの記事が消えてしまってすごく萎えてしまった。隅田川にカップルに囲まれに行っただけになってしまった。

目の前の憂鬱を踏み潰してくれるなら、何ボルトでもほしいだけくれてやるよ。




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